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第27話◇
さっきの待ち合せの場所に近付いた瞬間――――……誰かの声が、聞こえた気がした。クロを置いたベンチの下に誰かが座っている。
「クロ、いつからここに居たの?」
クロ、と呼んでる――――……この声。
「……玲央、ここに居た?……って、分かんないよね」
言いながら、はあ、と、ため息をついてる。
そして。
「……バカだなー……オレ……」
どう聞いても、涙を含んだ、その声。
「――――……」
芝生に足を踏み入れて、座ってクロを撫でてる男に近づいた。
「え……」
驚いたように、ぱっと振り返って見上げてきた、そいつは。
涙目を見開いて、固まった。
……ああ、そうだ。
この顔だ。
頭の中でぼんやりと薄れていた優月の顔が、目の前の顔と重なって。
ああ、優月だ、と、思った。
「優月……」
優月の前に、膝をついて座って、視線の高さを合わせた。
「れ、お……?」
「猫に会いに来た、とかじゃないよな?」
「……え?」
「今ここに居るって事は……オレに会いに来たって事で良いか?」
「……っ」
目の前の瞳から、ポロ、と涙が溢れた。
「なんで……ここにいるの、玲央……」
「……お前、待ってたから」
「……何で今……居なかったの?」
「――――……これ」
手に持ってた猫のおやつを優月に差し出す。
「……? クロの??」
おやつを持って、きょとん、としてる。
「……お前、もう来ないと思って、そん時こいつが来たから……何か食べさせて帰ろうと思って、コンビニ行ってた」
「……なにそれ」
泣いてるくせに、優月は、くす、と笑う。
なんだか、たまらなくなって。
優月の頰に触れて、その涙を指で拭った。
「……キスさせて?」
初めて会った時と同じ質問を、してみた。
あの時は、優月は意味が分からなかったみたいで。拒絶はしなかったけど、ものすごく驚いてた。
今度は――――……何て言うだろう。
そう思って、聞いた言葉に。
「……うん」
優月は、そう言って頷くと。
まっすぐに、玲央を見つめた、
ああ、なんか――――……この、瞳だ。
まっすぐすぎて、逸らせない、この瞳。
……涙で、濡れてる。
――――……なんで泣いてんだ、今。
こんなに遅れてきたのは、優月なのに。
――――……遅れてきて、泣いてるって、何だかよく分かんねえけど。
……あとで聞く。
それよりも、今は。
……触れたい。
「――――……優月」
頬に手を掛けたその手を、首の後ろに滑らせる。
ぐい、と上向かせて、その唇に、キスした。
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