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第30話◇初めての夜

【side*優月】  手を繋いだまま、大学の裏に進んだ所にあるマンションに連れてこられた。  なんか、すごく高そう。  広い豪華なエントランス。受付の人がいる。エレベーターもやたら広くてなんだかやたら豪華。 「――――……緊張してる?」  くす、と笑いかけられて。  うん、と頷いたら、また微笑まれてしまう。 「……優月って、名字、なに?」 「花宮」 「学部、どこ?」 「教育学部……」 「何年?」 「2年」 「教師になるのか?」 「まだわかんない」  エレベーターを降りるまで、何だかよく分からない質問をされ続ける。  答えているけど、もう、玲央と居る事も、この謎に豪華すぎるマンションも、これから、自分に起こるだろう事も、なんだか非現実すぎて、ふわふわしてるのに。   中に入ると、さらに、非現実的。  玄関が広い。何部屋あるんだろ。ドアがいっぱいある。奥のリビングに通されたけど、広すぎる。一通り、高そうな家具はそろってるけど、生活感がなさ過ぎ。  なんか、マンションの見学会とかに使われそうな部屋。  どこに居れば良いのか分からなくて。  リビングに入った所で立ち尽くしていると、キッチンから戻った玲央に水のペットボトルを渡された。 「ありがと……」  受け取って、ふたを開けて、飲んでる所に。   「飲んだら、シャワー浴びよ」 「――――……っ」  囁かれて、理解した瞬間、  飲み込もうとしていた水が、変な方に入って。  げほ、とむせる。  そのまましばらくむせる事になって、手を口に押し当てて俯いてると。 「……大丈夫か?」  隣で、クスクス笑う、玲央の声。  背中に触れてる手が、あったかい。  しばらくして、やっと普通に息ができたオレの頬に、玲央の手がかかる。   「オレは、優月がシャワー浴びなくても全然いいけど」 「――――……っ」 「そのままでオレに色んなとこ、なめられるの、優月は嫌がりそうな気がして。……平気なら、このままベッド行くけど、どーする?」  ……こんな言葉。  もう、破壊力がありすぎて。  言われただけで、もう、顔に血が上って、まともに息ができない。   「……っシャワー、貸して」  走って汗かいたし、このまま、な……なめられ――――……。    どこ、なめられるのか分かんないけど、どこにしたって、  無い。絶対無い。  ……体、すごく綺麗に、めちゃくちゃ洗いたい……。 「ん、いーよ」  くす、と笑いながら、頬に触れてる指が移動して、髪を撫でてくる。  こないだも、思ったけど。  ――――……玲央が、こういう時、目を細めて笑うのが。  なんか、異様に、……なんだろ。やらしい感じで。  ……なんだろ。妖しすぎて。……色っぽい、のかな?  とにかく、表情だけで恥ずかしくなって、体温が、上がる気がする。  こんな、まったく色気なんかないと思う、自分に対してすら、  そういう雰囲気にもってって。  妖しい雰囲気を、瞬間的に、作る。  どれだけ、こういう事、慣れてるんだろうて、思う。  やっぱり、オレとは違う世界の人なんだろうなとも。  それでも。……今日だけだったと、しても。  全然違う世界が、少しだけでも、交わってくれて、  玲央と、触れ合えるなら。  嬉しい。  ただ、そう思って。  優しい瞳を、見つめた。

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