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第31話◇

 今すぐにでも始まりそうな雰囲気の中、急に、智也と美咲の顔が浮かんだ。 「あ」 「……ん?」 「ご、めん……ちょっと連絡していい?」 「……いーけど」  ポケットからスマホを取り出して、多分きっとすごく、心配してる2人に向けて。 『玲央に会えたよ。だから今日はそっちに行けないけど、心配しないで。明日、話すから』  それだけ、入れて送信すると、即、2人の既読がついた。それからすぐに2人共から、了解、と入ってきた。智也からは『こっちも心配しないで』と続けて入ってくる。  やっぱりすごい心配させてたし、多分、今もきっとまた別の心配してるんだろうなと、なんだか申し訳なく思いながらも。  心配しないでと入れてくれた智也に、少しホッとして、ふ、と思わず微笑んだら。 「――――……こんな時に、誰に送ってんの?」 「……こんなとき」 「これから、オレと、シャワー浴びようって時」  その言葉を聞いた時、え、と玲央を見上げた。 「……なに、その顔」  ぷ、と笑う、玲央。 「え、だって……一緒に、浴びるの?」 「……当たり前じゃん。むしろ何で別々に浴びンの?」  ニヤと笑って。  玲央の指がオレの頬をつっとなぞる。  ……なんで、玲央は、頬によく触るんだろ。  今まで何も感じてこなかった場所なのに、なんかすごく、くすぐったい。 「……何でって……そんなの恥ずかしすぎるからに決まって」  そう言ったら。  玲央は固まって。瞬きを何度かしてから。  ふっと笑って、ぐりぐり頭を撫でてきた。 「……今から、オレに、色々されるのにさ」 「……っ」 「シャワー位で恥ずかしがっててどーすんの」  ……あ、もう駄目だ。  なんかもう、何も、考えられないし、答えられない。  キャパオーバー。  今から色々される。  ……こういう時、 何をするかは、勿論大体知ってるけど。経験ないけど。知識は当然、あるし。  「される」んじゃなくて、「する」方の事は、いつかするだろうと覚悟もあったし。でも当然、オレの中にあるそれは、男女のする行為で。  ……よくよく考えたら、される立場って。  しかも、この、カッコ良すぎる、この人にすべてさらすのかと、思うと。 「――――……あ、の……」 「ん?」    かあっと耳まで熱くなって、俯こうとした所を、顎に手を掛けて止められて上げさせられた。 「こっち見てろよ」 「――――……っ」 「――――……何、急に真っ赤んなって」  くす、と笑う玲央。 「何されるか、想像した?」 「……っっ」 「……何想像したか言ってみな?」 「――――……っ……想像できない」 「ん?」 「……何となくは、分かってるつもりなんだけど… 自分がされるとか…何も浮かばない」  キスされて、気持ちよかった位しか、そういえば、頭になかったような気がする。何されてもいいとか。実際、どこまで……何を……。  ……ていうか、オレ、男と、できるのかな。  ……いや、できるのかって、何をするの、オレ。  よく考えたら、する方の知識は……男のオレがされるって方には、使えないじゃん…。  オレ、女の子みたいに可愛くなんて、絶対できないし。  いや、無理だし。  ……玲央がしたいならいい、とか、玲央に惹かれるまま、漠然と考えて、細かい事何も考えてなかったような、気がしてきた。 「……あ、あのさ、玲央」 「……ん?」  ぐるぐると、眩暈までしてきそうな、自分の適当さに、自分で呆れながら。それでも、玲央に抱かれてもいいと、漠然と思った事は嘘ではなくて、その覚悟も確かにしたのは、一応、自分では分かってる。  けど。 「……女の子相手なら、何するか一応分かってるんだけど」 「うん」 「……玲央とだと、オレ、何すればいいの?」 「――――……」  玲央が目の前で、目をぱちくりしてるのは分かってるんだけど……。  うう、オレ、それの答えが、最初に欲しい。聞いておきたい……。  ……だって。ほんとに何すればいいんだ。  初めての、可愛い女の子みたいに、ただ寝てる訳にはいかないよね??  でも。何かするって、言っても――――……。  面白そうな顔でオレを見てる、この、カッコ良すぎる人に、オレが何かできるとは、到底思えない……。

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