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第33話◇
優月をシャワーに連れ込もうと思った瞬間。
優月が「あ」と言った。何だ?と思ったら。
「ご、めん……ちょっと連絡していい?」
「……いーけど」
こんなに密着する位くっついてて、さあ、シャワー、て時に。
誰に連絡だよと少し、不満。
ぽちぽち打ってるスマホをとりあげて、もうキスから始めてしまおうか、と思うけれど。それを実行する前に送り終えたみたいで、一瞬顔を上げた。けれどすぐに返事が来たみたいで、また視線を落とす。
――――……スマホ奪うかな。
思ってしまった瞬間。
メッセージを見た優月が、ふ、と微笑んだ。
嬉しそうに。
スマホをポケットにしまってる優月を見ながら。
ほぼオレの腕の中に居るのに、誰に送ってそんな顔してンだ?
自分の中に、自分らしくない、妙な感覚が浮かんだ。
――――……でも、自分らしくなさすぎるのは分かってるし、優月にそのまま言うのは、躊躇われた。
「――――……こんな時に、誰に送ってんの?」
「……こんなとき」
「これから、オレと、シャワー浴びようって時」
変にならないように、そう、聞いたら。
優月は、え、とオレを見上げてきた。
「……なに、その顔」
あんまり意外そうな顔をするから、ぷ、と笑ってしまうと。
「え、だって……一緒に、浴びるの?」
誰にとかの話じゃなくて。気になるのは、そっちか。
「……当たり前じゃん。むしろ何で別々に浴びンの?」
一緒に浴びるなんて考えもしてなかったらしい優月に、おかしくなって、笑ってしまう。
指で、少し赤くなった優月の頬をつっとなぞる。
白い肌、すぐ、赤くなるのが、やっぱり、すごく、イイ気がする。
「……何でって……」
うん。なんで?
「そんなの恥ずかしすぎるからに決まって」
――――……。
その返事を聞いたら、つい固まって。瞬きを何度かした。
……20才近い男が、シャワー浴びるくらいで恥ずかしすぎるから、とか……。
そんな真っ赤になって言うとか。
――――……ほんとに同じ年なのかな。
ふ、と笑って、ぐりぐり頭を撫でてしまう。
「……今から、オレに、色々されるのにさ」
「……っ」
「シャワー位で恥ずかしがっててどーすんの」
言った瞬間。
優月は、ぎゅ、と目を閉じた。
とりあえず一旦、オレからの言葉を遮断したみたいな。
どうしよう、と顔に書いてある。
「――――……あ、の……」
「ん?」
言いかけるので返事をして待っていると、優月は耳まで赤くなって、俯こうとした。それを止めて、顔をまっすぐオレの方に向けさせた。
「こっち見てろよ」
「――――……っ」
せっかく、可愛い顔してンのに。
下、向くなよ。
そんな風に、思う。
「――――……何、急に真っ赤んなって」
そんなに真っ赤になられると、可愛くて、もっと、恥ずかしがらせたいなんて、意地の悪い欲求まで浮かんでくる。
「何されるか、想像した?」
「……っっ」
「……何想像したか言ってみな?」
「――――……っ……想像できない」
「ん?」
「……何となくは、分かってるつもりなんだけど……自分がされるとか何も浮かばない」
なんか、優月の言葉って。
こっちの方が、想像できない。
予想外の所から飛んできて、届くと、なんだか、
つい、笑んでしまう。
「……あ、あのさ、玲央」
「……ん?」
まだ何か、言うつもりだな。
次はなんだ?
「……女の子相手なら、何するか一応分かってるんだけど」
「うん」
「……玲央とだと、オレ、何すればいいの?」
「――――……」
――――…また、オレの中にちゃんと、届くまでに随分かかった。
色々突っ込みたくてしょうがない。
何を考えてこのセリフなんだろう。
何、オレに、する気なの?
オレを抱くつもりってこと?
いや、ちげーよな? 絶対出来なそう。
キスとかも全部受け身だし、やろうと思ってるわけじゃ、ねえよな?
……ほんと、面白いな。
オレを抱くつもりじゃないとして、
……そうすると、なんだろう。
黙って、マグロで居るわけにはいかないとでも、思ってる……?
なんか、目の前で優月は、必死な顔で見上げてきてるし。
――――…何を答えてほしいんだか。
優月が、何をすべきか??
なんだ、それ。
吹き出してしまいたい気分だけれど、あんまり必死なので、笑ったら泣きそうだな、と思って、なんとか、我慢する。
セフレと家に入ると、割とすぐそういうコトに及んで、こんな風に話をしないので、この時間すら新鮮。
……まあ、優月以外と、特にこんな類の話、する訳がないのだけど。
皆、何をするか分かってるし、そんなの話さなくたって、自然とその流れで、コトに及ぶ。
「何をするかって――――……」
「……」
じ、と見つめてる優月が、オレが何か言ってくれると思ってるみたいで。
何だか、期待に瞳をキラキラさせながら、オレを見つめる。
違うだろうとは思ったけれど、一応聞いてみる事にした。
「お前、オレを抱く気だったりする?」
オレが言うと、「え」と漏れて、そのまま、何秒か。
ものすごい長い事、固まった優月は。
もともと真っ赤だったのに、ぼん!!と火が付いたみたいに、湯気でもでそうな勢いで赤くなり、その場にしゃがみこんでしまった。
丸まってる、うなじまでが、真っ赤になってる。
「――――……ち、がう」
プルプル首を振りながら、優月が言ってる。
……うん。まあ、分かってたけど。
もうすごく笑ってしまいたい。
……可愛くて。
「……じゃあ、何すればって、どういう意味?」
クスクス笑いながら、聞くと。
しばらく無言の末、優月は。
「……だって……寝てるだけじゃ、やでしょ?」
小さな声でそう言った優月に。
なんだか、ほんわかあったかい気分になる。
今これから、セックスしようと思ってる相手に感じた事、あんまりない、感覚。
……すげえ、可愛いと思ってしまう。なんか。ものすごく。
「――――……優月、来いよ」
脇に手を入れて、立ち上がらせて、抱き寄せた。
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