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第40話◇
2人でバスルームを出る。後ろをついてきた優月は、またリビングに入ると、立ち止まった。
「飲み物もってくるけど。どした?」
「なんか、広すぎて……、どこに座ってたらいい?」
「とりあえずソファに座ったら」
ふ、と笑いながらそう言うと、ゆっくりソファに近付いて、座ってる。
「……なんか、下、履いてないの、変」
そんな事を言って、少しもぞもぞしながら座り直してる。
ぷ。……可愛い。
「ん、水」
ペットボトルの水を入れたコップに氷を浮かべて、優月に渡す。
「ありがと」
ふわ、と笑う優月。
なんだろうこの。……ほんわかした雰囲気。
特別可愛いとか。特別綺麗とか、そんなんでは、ないと思うんだけど。
至って普通で、全然目立たない感じ。
でも――――……まっさらで、綺麗。
もとは悪くない。
瞳や唇も可愛いし。
細めの体は、均整がとれてるというか。腰、細くて、抱き締めてしまいたいし。
服とか髪形とか、色々いじれば、結構良くなるかも。
バスローブから見える、首筋と鎖骨が、……結構、エロイ気もするし。
そのうえに、無邪気な顔が乗っかってるのがなんだか……可愛いし。
――――……つか、オレ、今日こいつに何回、可愛いって思ってるんだ。
「……優月、お腹空いた?」
「……あー……言われてみれば……空いたかも……」
「言われてみればって?」
……変な回答。
「玲央といたら……なんかそっちに神経がいってなかったっていうか……」
「――――……」
何気ない言葉で、何となく人の言葉奪ってる事には気づかず、こくこくと水を飲んでいる。
ぷ、と笑ってしまう。
「ん?」
きょとん、と見られて、何でもない、と、首を振りながら。
「……下に入ってるレストランに頼めばすぐ来るから頼もうか?」
そう言ったら、んー、と首を傾げて。
「なんか食材あるなら作るよ……?」
「……食材、ここ、一切ない」
なぜならここで料理なんか一切しないから。
ここ、連れ込んでやるだけか、あとはバンドの奴らと夜を通して作業する時の部屋、みたいなとこだし。
「和食、中華、イタリアン、オレはなんでもいいけど」
「じゃ和食がいい」
「適当に頼んでいい?」
「うん」
メニューを見ながら、スマホで注文を頼む。
「20分でくる」
言いながら、優月の隣に腰かける。
「お前料理すんの?」
「うん。……小4の時に双子の弟と妹が生まれてさ。母さんが大変そうだったから、料理はそこら辺からやり始めた」
「へえ……」
双子の弟と妹。
面倒見、よさそ……。
「玲央は全然料理しない?」
「いや。するよ。――――……習ってたし」
「え、そうなの?」
「うち、一通りなんでもやらされるから。習い事多すぎて、小さい頃はすげえ過密なスケジュールだった」
「……なにそれ、例えば?」
「バイオリンとかピアノだろ。料理と……空手、合気道、剣道とか。そろばん、水泳と英語。と何だっけな。ダンスとか乗馬もやったし、茶道もやらされたし」
「うわー……」
「ギターはやりたくて習ったけど。まあもう一通り。どうしても嫌でやめたもの含めたらもっとあるな。変な右脳教室みたいなのも行ったし……」
「すごいね。そんなに習えるものなの?時間的に無理そう……」
「まあ全部がかぶってやってた訳じゃないから。家に教えにきたりもあったから通わないのも多かったけど」
「んー、玲央、戦う感じの、多いね?」
「ああ、護身用な……。親が金持ちだとそこそこ危険も想定されるから」
「そうなんだ……今まで、あった?」
「ん?」
「……危険なこと、あった?」
「送迎兼ボディーガードみたいのも居たし、無かった」
「そっか。良かった」
ふ、と笑って、優月が見つめてくる。
「そんないっぱい習って、できるようになるものなの?」
「良い先生選んでるらしいから、なんとなくできるようにはなるけど…… つか、囲碁将棋も、完全にじーちゃんの趣味で習わされた。オレとやりたいからってさ」
言うと、優月はクスクス笑いだした。
「その話はなんか可愛いね」
「……は?」
……可愛いっつわれた。
なんだか、納得いかない。
「オレもちっちゃい頃、おじいちゃんと将棋はやったなー。囲碁はよく分かんないまま終わっちゃったけど」
……でも、なんだか、優月が楽しそうにしてんのは、
ちょっと、イイ、気がする。
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