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第43話◇

 店員から品物の包みを受け取って、キッチンに置いた。  手を洗って、飲み物だけ冷蔵庫から用意する。 「優月、来いよ」 「あ、うん」  ソファで、膝を抱えて座ってた優月に声をかけると、すぐに近くにやってきた。 「中身出して、テーブルに並べて?」 「うん」  食器棚からグラスを取って、テーブルに置いた。 「すっごい美味しそう」  優月が嬉しそうに言って、並べていく。 「皿は、使うか?」 「ううん、取り皿みたいなのも入ってる……ていうか、お皿はあるの?」 「一通り生活できるような感じに揃ってるから、一応ある。水の他に何か飲みたいものあるか? 飲み物は色んなのが冷蔵庫に入ってるけど」 「お水でいい」 「んじゃ、座って」 「うん」  広いダイニングテーブル、優月が座った隣に座った。  普通なら向かい合わせで座るんだろうけど。何となく触れられる所に座りたくてそうしたら、優月がじっと見つめてくる。 「……隣?」 「ん」 「……あのさ、オレ、このまま食べていいの?」 「バスローブの事?」 「うん。なんか変な感じ……」 「優月が嫌じゃなければ」 「……んー。ま、いっか……うん。いただきまーす」  なにやら葛藤してたけど、割り切ったらしく。  手を合わせて、食べ始める優月。 「……なにこれ。すっごい美味しいー!」 「そか。良かった」 「玲央って、めちゃくちゃたくさん食べる人なの?」 「ん?」 「だって、結構すごい量だから」  まあ確かに。  一通りぽちぽちクリックしてたら、広げてみれば、すごい量。 「とりあえず適当に頼んだから、好きなもん食べて」 「うん。なんかね、すごい……高そうな味がする」 「高そうな味って?」  クスクス笑いながら聞くと、うーん、と考えた優月が言ったのは。 「なんか、薄味だけど、ふかーーーい、味」 「ああ……何か、分かる気はするけど……。今、何食べてそう言ってんの?」 「この揚げ出し豆腐みたいな料理……」  優月が指した料理を口に運ぶと。 「……こういうの好き?」 「うん、好き。美味しい」 「じゃあこっちも好きだと思う。口開けて」  別の料理を取って、優月の口に近付ける。  あーんと、素直に口を開ける優月に、ぷ、と笑いつつ、食べさせる。  もぐもぐ味わってるのを見てると、可愛く思えてしまう。 「どう?」 「美味しいー」  何これ、すっごい、美味しい。  ニコニコ笑顔で、もぐもぐ食べすすめてく優月に、ふ、と笑む。  素直に口開けて、もぐもぐ食べてるとか、ほんと……。  餌付け気分で、愛おしくなる。  ……この感情は。一体……。 「あ、これも、めっちゃ美味しい」  また違うのを食べて、じーん、と味わってる優月。 「食べさせて」 「え」 「ん」  オレが口を開けると、優月は慌てて箸で持って、口にそっと入れてくる。 「――――……ん、うま」  言うと、目の前の優月は、かあっと、赤くなった。  ――――……何で、赤くなるかな。  そう思ってると、優月が何だか一生懸命に、話し始めた。   「……っ人に食べさせるのって……」 「ん」 「……ていうか、玲央に食べさせるのって」 「……? ん?」 「……なんか恥ずかしい」 「は?」  何だそれ。 「……玲央の口、今、オレ」 「ん」 「……キス、ばっかりしてるから……まっすぐ見れないかも」  ぼぼぼぼぼ。  はい。真っ赤。  ――――……何でわざわざ自分からそんな事言って、  そこで真っ赤になってんだ。 「……舌、触りたくなる?」  べ、と舌を出して見せると。  もう十分赤かったのに、ますます、赤面してく気がする。 「ち、がうんだけど……っ……」 「――――……」  狼狽え方が……可愛すぎる。  腕を引いて、キスして、舌で、優月の舌に触れる。 「……っ……」  少し大人しくなって瞳を伏せてた優月が、キスが離れると同時に、ゆっくり瞳を開けた。 「――――……お前、なんでキス初めてなの?」 「……何でって……」 「誰かと、付き合った事、全然無いの?」 「うん。無い」 「ふーん……あ、食べていいよ、食事」  言うと、うん、と素直に頷いて、少しオレから離れて、また食べ始めてる。  その姿を横目で見つつ。  ……何でだろ。  別に、ルックス、悪くはないし、良い奴そうだし。  女に嫌われそうなとこ、ないのに。 「……何で、付き合ったことないんだ?」 「うーん……何かいつも仲良くなりすぎちゃって……付き合うとかにならないっていうか……」  ああ。成程。良いお友達になっちまう訳か。  そういう事なら、分かる気がする。 「……そんな、ものすごい納得しなくても……」  じと、と優月に睨まれ、ぷっと笑ってしまう。 「――――……キスも初めてって……なかなか、周りに居ないんだよな……」 「そりゃ玲央の周りには居ないだろうけど……世の中には、普通にいると思うけどな」  眉を寄せて、心なしか膨らんだ優月の顔に、また笑ってしまうと。   「……笑いすぎ、玲央」  言いながら、オレを見た優月は。  そのまま、じ、と見つめてくる。 「ん?」 「――――……」  少し見つめあった後。  優月は、急ににっこり笑った。 「……でもなんか、玲央が笑ってんのは、嬉しいかも」  そんな風に言って、更ににっこり笑ってから。  また前を向いて、料理を食べてる。 「――――……」  なんとなく、伸ばした手は。  優月の髪の毛をくしゃ、と撫でる。 「……うまい?」 「うん。全部、美味しいよ」 「……そっか」 「うん」  嬉しそうに食べてるので、邪魔はせずに。  だた何だか可愛くて。髪を撫でてると。 「玲央も食べなよ。冷めちゃうよ?」  と見つめられて。  なんだか苦笑いが浮かびつつ。  優月との空間が、楽しく思えて。  不思議に思う。

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