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第49話◇

 飲んじゃったんだ、と思った瞬間。  熱くなった部分が全部一気に冷えた。青ざめてく気がする程に。  一気に、ぼろぼろ涙がこぼれてきた。 「……ごめ……っ吐いて……」 「は?」 「……っ出して、飲まないで」  近づいて、吐いてもらおうと、口に触れる。   「……無理。もう飲みこんだし」  ぷ、と笑って、玲央がオレの手を掴む。 「飲んだのは初めてだけど……全然平気」 「――――……っ……」 「泣くなよ」  クスクス笑って、玲央がオレの頬に触れて、涙を拭う。 「ご、めん……玲央……」  拭われても、涙が止まらない。 「オレがしたくてしたのに、なんでお前が泣いて謝んの」 「だって……玲央の口……汚して……」  こんな、カッコいい人の口に、なんでそんなもの。  ……ありえない。ほんと、ありえない。  しかも初めてって。そんな初めて、なんでオレでしちゃうんだ……。  しつこく泣いてると、玲央が笑み交じりのため息をついた。 「じゃあさ?」 「……?」 「……今度、してよ。オレに」 「――――……」 「てことで、どう?」  さっきのを、オレが、玲央に? 「したら、飲みたくなる気持ち、分かるかも」 「――――……」  玲央みたいには出来ないと思うけど……。 「……うん。分かった」  言うと、玲央は「してくれるんだ?」と驚いたみたいに言って。それから、クスクス笑った。 「――――……うまくできないかもだけど……ていうか、今は……?」 「ん?」 「今、しなくていいの……?」  言うと、玲央はまた、ふ、と優しく笑った。 「こんなマジで泣いてるのに、させる訳ないだろ」  くしゃ、と髪を撫でられる。 「でも……やっぱり、玲央、ごめん……出せるなら出して」 「だからもう出せないっつってんのに」  可笑しそうに笑って、玲央がオレの頬に触れてくる。 「んー。……今は、キスされたくない?」 「え?」 「今は嫌?」 「――――……」  どういう意味だろと思ったけど。  すぐ、今まで玲央がしてた事を思って、あ、そういう意味か、と分かって。 「――――……」  ぷるぷると、首を横に振った。 「嫌じゃないのか?」 「……玲央が口に入れてくれてるのに、オレが嫌っていうのも変でしょ……」 「――――……優月、おもしろいなー……」  玲央がしみじみ言って。  それから、そっとキスされた。 「……なんか味する?」 「……っ聞かないで、してよ」  また玲央が、ぷっと笑う。  ――――……なんか。  オレの想像できる範囲の普通のベッドシーンに。  こんな、よく笑う光景なんて無くて。  玲央は何かことあるごとにクスクス笑うし。すごく、おかしそうに笑うし。  ……それはやっぱりオレが笑わせちゃってるのかなとも思うし。  ムードとか、全然出せないしなー……。  嫌じゃないのかなー……とも思うのだけれど。 「……お前、ほんと――――……かわいーな……」  細められた瞳が、優しくて。  とくん、と胸の奥が、弾む。

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