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第58話◇

 テーブルに連れて行って優月を座らせると、優月がふと見回して、それからオレを見上げてきた。 「どーした?」 「昨日残したごはんは?」 「ああ。今日部屋、クリーニングきてもらうから片付けてもらう」 「捨てちゃうの?」 「ん。一晩だしっぱなしだったからな」 「そっか……片づけとけばよかったね」 「ん……そうだな」  なんだか、困ったような顔で言われた言葉に、自然と頷いてしまった。  気にした事無かったけど。あんまりにまっすぐな優月の顔を見てたら、そうだな、と素直に思って。 「次から食べれる量で頼むから」 「――うん」  まっすぐオレを見上げて、にこ、と笑う優月。なんとなく、ふ、と笑い返す。 「とりあえず、これは食べれるだろ。 食べて」 「うん。 いただきます」  手を合わせて、食べ始める。  少し食べた後。コーヒーを飲んで、カップを置く。 「……あのさ、玲央」  少し、改まった口調でオレを呼んで、まっすぐ見つめてくる。 「玲央さ、昨日からさ」 「ん?」 「……今度とか次とか、言ってくれるんだけどさ」 「うん」 「……次って、あるの?」 「……ん?」  その質問に、優月を、マジマジと見つめ返してしまう。 「……次、ねえの?」  思わずそう聞いたら、優月は、首を傾げた。 「それ、オレじゃなくて……玲央が決める事、でしょ?」 「――――……は?なんで?」 「だって……オレとじゃつまんないって、玲央が言うなら、無理だし」  ……何言ってんだろう、こいつ。 「オレ、お前に触るの楽しいって言わなかった?」 「――――……だけど……」 「じゃあお前、オレがもう良いっていったら、それでいいの?」 「――――……しょうがないと思うよ?」 「――――……」  しばらく無言になってしまう。 「ちょっと考えるから、食べてて」 「……うん」  頷いて、黙って食べてる優月を目に映しつつ。  何だか納得のいかない優月の話に、思考をめぐらす。  ――――……どーいうこと。  何だ、しょうがないって。  そんなに簡単に「しょうがない」で片付けんのか?  そんな簡単に、会わないって事にして、いいのかよ。  なんかすげぇ…… モヤモヤする。 「……オレ、お前に触りたいけど」 「――――……じゃあ……また会ってくれるの?」  「会ってくれる」というその言い方に、やっぱり会いたいと思ってるんだろ、とか。少しそれに気をよくして。何だか他にも、色々言いたい事がある気がするのだけれど。  けれど何だか、うまく言葉にならない。 「……まだ全然……途中までしかしてねえし……会おうぜ?」 「――――……っ」  それが言いたかったんだろうか、オレ。  でもそれ以外、何が言いたいかよく分からず。  優月は、オレのそんな言葉に、かあっと赤くなってる。 「食べ終わったら、連絡先教えて」 「……うん」  にこ、と笑う、優月。 「……優月、今日何限から」 「1限。玲央は?」  2限、と言いかけて。 「一緒に行く」 「うん」  嬉しそうに頷いてる。  なんとなく自然と、優月に手が伸びて。  頭を撫でてしまう。 「オレ、お前撫でるの――――……」 「……?」 「結構好き」 「――――……なにそれ」  クスクス、柔らかく、笑ってる。    腰を浮かして少し近づいて。ちゅ、とこめかみにキスすると、すぐ赤くなる優月に、ふと笑ってしまう。 「食べ終わったらドライヤーかけてやる」  言うと、嬉しそうに笑う優月。  よしよし、と撫でて、もう一度腰かけて。コーヒーを口にした。

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