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第59話◇

【side*優月】  どんどん、快感が高まって。  気持ちよすぎて、おかしくなりそうで。  溢れて落ちてくる涙を止める事も出来なかった。  玲央のしてくれる事は全部、気持ちよくて。  最後、一緒に握らされて――――……。  ……何回目、だったろう、イったの。  もう、瞼が、重すぎて。  体、力、入らなくて。  そしたら、ゆっくり、キスされて――――……。  眠って、しまった。    翌朝、ふ、と目を開けたら。裸の胸が目の前で。びっくりして退いたら、何かが肩の後ろにあって動けなくて。精一杯動ける範囲で見上げたら、目の前に、玲央が居た。  一瞬で胸がドキン!と弾んで。昨夜の事、全部一気に思い出した。  と、同時に。  裸の胸が、玲央だった事に、何だかすごくホッとして。 「あ……れお……おはよ」  とりあえず、挨拶したら。目の前の超イケメンが。ふ、と笑んだ。 「…なんで、ホッとすんの」 「……一瞬何だか分かんなくてびっくりして……玲央だったから、良かった、と思って」  言ったら、何を思ってるんだか、じっと、見つめられる。  わー……。  朝いちでも……ほんと、カッコいい人だなあ。  オレ、この人と昨日……なんて事してたんだろう……。     「6時だけど……起きるか?」 「……ん」  朝の6時から……全部、声までほんと全部、イケメンな……。  こんな人、現実にいるんだなあ……なんて思って、起き上がって。  ほとんどはだけた全裸みたいな状態で寝てしまったから、焦って自分に触れたら。ちゃんとバスローブ、着せられてて。  あ。着せてくれたんだ……。  思った瞬間、玲央が少し笑った気がした。 「……優月、昨日の事、覚えてる?」 「え」 「寝る前の事も全部、覚えてる?」 「……うん」  聞かれてしまうと余計に思い出してしまい、かあっと赤くなってしまう。 「あの……玲央?」 「ん?」 「――――……あれって……途中、だよね?」 「まあ……最後まではしてねえけど」  そう言われて。  絶対そうだとは、思っていたんだけど。  やっぱりそうだったんだよね……どうしよう。  玲央にばかり色々させて、気持良い事だけしてもらっちゃって、結局、オレは何もしないで、しかも最後まで、しないで……ぐーぐー寝ちゃって、バスローブとか着せてもらって、泊めてもらって……。  何やってんだ、オレ―――……?!  泣きながら脱走してしまいたい位。恥ずかしい。 「どした?」  なんて、玲央は聞いてくるけれど。  どしたなんて……どしたなんて…………どしたも何も……。 「オレ、寝ちゃった、てことだよね?」  ほんとどうしたら…そう思って、言ったら。 「……そーだなぁ……。これからって時になぁ……?」  玲央のゆっくりした口調が、余計に罪悪感をいっぱいにしてくる。  ……ほんとにほんとに、ごめんなさい。  一体どーしたらいいのかな、何したら許して……。     ……あ。 「ご、ごめんなさい。……あの、今からでも――――……」 「――――……今から?」  咄嗟に言ったけど、聞き返されると、朝からオレは何言ってるんだと、恥ずかしさの極致。 真っ赤になったまま、でも、頷いて。でも恥ずかし過ぎて、俯いていたら、玲央が笑った気配。 「嘘だよ」  優しい声がして、髪をくしゃくしゃに撫でられる。  見上げると。玲央が楽しそうに笑ってる。 「玲央……?」  なんでそんな笑顔……? 「もう昨日はあそこまでにしようと思っただけ。最後、オレも一緒にイっただろ?優月が寝ちゃったってよりは、オレが寝かせてやったんだし」 「……ほんとに?」 「ほんと。だから、今からとか言わなくて良いって」  優しい笑顔と、言葉に、少しだけ、ほっとする。  ……でも。  でも。最後までしないでくれたのは、きっとオレが、もういっぱいいっぱいになっちゃってたから、だよね。  正直、あの時点でもうオレ、頭も体も、全部、限界だった気がする。  玲央がそれ、気付いてくれて、仕方なく寝かせてくれた、んだよね……。 「……でも最後までしなかったの、オレのせいでしょ?」  そう聞いたら。  玲央は少し考えたあと。 「――――……せい、とかじゃねーよ」  そうは言ってくれるけど。でも…。  そう思って、応えられないでいると。 「……もっとゆっくり慣らしたかっただけ」 「――――……」  玲央がニヤ、と笑って言った言葉の意味を少し考えただけで。  一気に顔に熱が集まった。 「……っゆっくりって、何……?」  恥ずかしいのに、思わず、聞いてしまったら。 「昨日、キスとか乳首が気持ちいいのは、分かったろ? オレにイかされるのも、少しは慣れたろ?」 「……っ……」  もっと恥ずかしくなるような答えが返ってきてしまった。  うう。聞くんじゃなかった……。  すごく後悔してるのに。 「オレ、もっと、お前の気持ち良いとこ、ゆっくり探したいし」  そんな事言う玲央に、耳に息を吹きかけられて。 「っっ!」  自分が大げさなほどに震えたことに驚いて、まだゾクゾクが残る耳を押さえて後ずさった。 「――――……耳も、すげー弱いよな……」  何でそんなに楽しそうに笑っちゃうんだろう。  笑ってる玲央はカッコいいし。  ……そんなカッコいい人の前で、何オレ、超笑われるような反応ばっかりしてるんだろう。 うぅ。もうだめだ。  笑いを収めた玲央が不意に立ち上がった。ズボンしかはいて無くて、上半身裸。昨日も見たけど――――……朝日の中で見ると、なんか余計に綺麗に見えて、まっすぐ見ていられなくて、視線を外した。  その後も、服を貸してくれるし。朝食を取ってくれる間に、シャワーを浴びておいでと言われて。何だかもう、いたたまれなくなる位、優しくて。  なんだか本当に、申し訳なくなってきて。 「ごめんね、オレ、寝ちゃった上に、泊めてもらって……」  そう言ったら。 「……だから違うって。寝かせてやったし、泊まらせたんだよ」  玲央は、すぐにそんな風に否定してくれた。 「する気ならできたし、寝かせないで帰らせる事だって、出来たっての」 「――――……」  ――――……なんか。  本当に。優しくて優しくて――――……。  しばらく、玲央を、見つめてしまう。  すごく心の中、暖かくなってしまって。  ふ、と笑ってしまった。 「やっぱり、玲央、優しいね。……ありがと」  会ってから、ずっと。本当に、優しくて。  優しすぎて――――……何だか困る位なんだけど……。  そんな事を思った時に、ふと気づく。  玲央、何もしゃべらない。 「――――……玲央?」  玲央を見上げると、優しい仕草で頭を撫でられて。そのまま背中を軽く押された。 「……シャワー浴びてきな」 「うん」 「バスタオル、脱衣所の鏡の上に入ってるし、お前のズボンは乾燥機で乾いてるから」 「ん。ありがと」  玲央から離れて、バスルームに向かう。  熱いシャワーを浴びて。  頭がすっきりするにつれて。  昨日から今までの事、全部、思い起こしてしまう。  ――――……なんか……オレ。  ほんとに、玲央の事、好きになっちゃいそうで、ヤバい。  ……ていうか、ほとんど好きかな、これ。  …………ていうか、最初から、だ、オレ。  玲央と一緒に居たいって。  そばに居れるなら、寝てもいい、とか。  ……好きじゃなきゃ、オレは、そんな事、思わないし……。  玲央に会うまで、男となんて、想像すらした事無かったのに。  変わり果ててしまった、自分の思考に、我ながら驚く。  驚くけど、でも。  オレに触れてくれる、玲央は。  もうあんなの、惹かれるしかない、気がしてしまう。

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