60 / 856
第60話◇
色々考えながら、シャワーを浴び終えて出て行くと。
下着の話から、なぜかまた触られることになってしまって。
朝からあっと言う間に手でイかされてしまって、情けない事に泣いてしまった。
もうオレの許容範囲は軽く飛び越えて、色んな物が溢れ出て来てる気がする。泣いてた事を、恥ずかしいと思えた時にはもう、玲央が目の前でちょっと困ってて。思わず、ごめんね、と謝ってしまった。
でもなんか。お前に触るの楽しいって言われたのは、何だか嬉しくて。
許容範囲めちゃくちゃ飛び越えてしまってても、オレは玲央が笑ってくれると嬉しいんだな、と、思った。
玲央って、また、オレと会ってくれるのかなと思って、聞いたら。
何か、そこに随分間があったし。嫌なのかなともドキドキしたけど。
何か色々考えた末に、会おう、と、言ってくれた。最後までしてないし、とかも、言ってた。そうだよね。しないで寝ちゃったし……。うぅ、オレ、ほんと意味わかんない……。
食事を取り終えると、言ってくれた通り、玲央がまたドライヤーを掛けてくれる。
「――――……気持ちいい?」
洗面台の鏡の前で、玲央が後ろから聞いてくる。鏡越しに目があって、自然と笑顔になってしまう。
「……うん」
頷くと、玲央はふ、と目を細める。
「寝ちまいそうな顔してるもんな」
そう言って、クスクス笑いながら、優しい手で髪に触れる。
……玲央ってほんとに優しいな……。
美咲が言ってた言葉の意味が、自分の中で、分かってきた。
玲央は、きっと、色んな人と、楽しんでたい、そういう人で。
オレにそういう事をしてる玲央って、楽しそうだし。気持ちイイ事が好きで、っていうの――――……玲央に会う迄のオレにはまったく分からなかったけど。
恋人でもない玲央と、色々してしまった今のオレには……もう、分からなくも、ない。
そういう事を複数の人としたいっていう所は、やっぱりよく分からないけど。玲央みたいな人が、玲央みたいな感じでするなら……そういう人も居るのかな、と、思えてきてしまっている。
気前も良いし、めちゃくちゃカッコいいし、優しいし。
キスもそういう事も、めちゃくちゃ慣れてて。まるで愛されてるって勘違いしそうな位に優しいから、美咲の友達みたいに本気になっちゃう人もそりゃ当然居て……。
……でも、玲央は、楽しむ相手に、そういうのは求めてないから、そういうのを期待する人とは、別れて終わりに、してるんだ。
優しいから、期待を持たせないように、そこは、冷たくきっぱりと……。
たぶん、それを、美咲は悪く思ってるんだろうなと。
でも、玲央のしてる事は、今のオレには、分からない事も無くて。
オレは、それをしてる玲央の事を、嫌だとは、思えなくて。
――――……もし、玲央が、オレと会いたいって、思ってくれるなら。
会いたいって言ってくれた時に、会えるの、嬉しい、かもしれない。
その関係を、何て呼ぶかは――――……。
……美咲にどやされそうだけど。
「ん、おわり。 お前の髪、フワフワな……」
ドライヤーを止めて、玲央がそう言ってクスクス笑いながら、髪に触れる。
ドキドキするのはもう、ごまかしようが、ない。
「玲央……」
「ん?」
ドライヤーを片付けながら、まっすぐ見つめてくれる。
一つだけ。気になってることを聞いてみる事に、した。
「……玲央って、恋人はいないの?」
特別な恋人が居るなら。その人にも悪いし。――――……特別に想う人が居る人とそういう関係を持つって、全然意味が分からない。そんなのは無理。
「……恋人は居ない」
何だか随分間が空いて、玲央は、まっすぐにオレを見つめながら、そう言った。
「そうなんだ……」
オレは、一度頷いて、俯いた。
恋人は、居ない。
――――……そっか。
「じゃあ、あの……」
「……ん?」
「……玲央は、こんな風に会う人、他にも居るよね?」
「――――……ん。セフレは居る」
「――――……じゃあさ」
「――――……」
「オレも、セフレ、ていうのに、してくれる?」
「――――……は?」
玲央は、それだけ口にして。
それきり、しばらく全然、返事をしてくれなかった。
ともだちにシェアしよう!