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第61話◇

 まっすぐ見つめ合ったまま、かなりの時間が経って。  何だか急に、恥ずかしくなって、赤面してしまった。  ……オレってば、昨日最後まで出来ないで寝ちゃったし、ご飯食べさせてもらって、服も洗ってもらって、ドライヤーしてもらって、って、全部してもらってばっかりで、セフレなんて、ありえない……って事?  よく考えたら、いや、よく考えなくても、オレ、そもそも、玲央と最後まで、してないのに、今の状態で、セフレとか、こいつは何言ってんだろ、と、玲央が思ってるとしか、思えない。  ……神様、今の発言、取り消してください……っ……。 「セフレって――――……そんなの、お前、なれるの?」 「……っ」  俯いた、頭の上で、玲央の、声。  ……………っなれません。  ていうか、そんな技術? 技能?がないというか。  わーん、ごめん、玲央、オレがバカでした。 「――――……っっ……」  もう謝ろう。  数いる玲央の魅力的なセフレの方々と比べて、そこに並ぼうとしてるオレが、バカだったんだ。  会おうって、玲央が言った意味すら、よく分からなくなってきた。  最後までしてないし、会おう、と言われた。  ……あ、最後までしたらもう、会わないつもりだったのかも。  あそこまで色々して、最後までしないとか、そんなのやっぱりありえないから、そう言ったのかも。  なのにオレってば、なんて図々しいお願いを……。  ……もう、謝るしかない。 「玲央、ごめん、オレ、図々しかっ――――……」  顔を上げて、謝ろうと言いかけた瞬間。  腕を少し乱暴に引かれて、唇が重なった。 「……っ……ん、う……っ……?」  まったく予期してない所に。  舌が捻じ込まれて。ぎゅ、と目を閉じる。 「……っふ……っ……ん……?」  何でこのタイミングで、キスするんだろう。  ……っ謝れてないし。  せめて、謝らせてほしい。  全然何も出来てないし、これからだって、大した事もできなそうなのに、玲央のセフレになりたい、なんて。  取り消させてほしい、んだけど……。 「……っん、ぅ……っ」  キスが深すぎて、息が苦しすぎて、少し離したくて頭を引こうとするのに、玲央の手に押さえられてて、まったく動けない。引こうとしたのを責められてるみたいに、より近づけられて、口内を嬲られる。 「……っん……」  自然と涙が滲んできて。  玲央の服を掴んでた指が、握り締めてないと、震える。  ――――……なんで、いま、  こんな内容の、会話の途中で、  こんなキス、するんだろう。  全然、わかんない……。  何も――――……考えられない。 「――――っ……ンっ……」  頭の中が真っ白なまま。  どれだけキスされてたか、よく分からない。  膝が、かくん、と抜けて。でも、玲央に抱き止められてるから、そのまま続いた。 「……っ……ん……」  最後に押し付けるみたいにキスされて。  離れた唇に、ゆっくり瞳を開けると。  玲央が、オレをじっと見つめてて。 「――……玲央?」 「……オレと、セフレに――――……なりたいの?」  セフレに……なりたいかと聞かれたら……。  その名前のものになりたいかと考えると、そうじゃない気はするんだけど。  でも、玲央と居れるなら。  全然、それでもいいのかも。   「……オレ、玲央と居たいから。なれるなら、なりたい」 「――――……」  そう言ったら。  玲央は、じっとオレを見つめて。  何だか、またしばらくの間があいて。     「――――……分かった。いいよ」  そう言った。  それから、玲央が、手を頬に滑らせてきた。 「――――……お前と会いたいって、オレ言っただろ……」  そんな言葉に、ふわ、とめちゃくちゃ嬉しくなるあたり。  どうかしてるかもしれないけど。  でもオレ、今、どんな形でもいいから、この人の側に、居たい。  ……美咲に、何て言おうかな……なんて、一瞬思うけれど。  でも。  オレ的には。  玲央と居られるなら、その関係が何でもいいと思ったと。  ……伝えるしかない、かな。

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