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第62話◇

【side*玲央】  優月の髪の毛をドライヤーをかける。  優しくふわふわ撫でながら、乾かしてやってると。  ものすごく気持ちよさそう。  いつまでもやっていたかったけれど、乾いてしまったので、仕方なくスイッチを切る。 「ん、おわり。 お前の髪、フワフワな……」  髪に触れると、優月がふ、と微笑んでる。  ドライヤーを引き出しに片付けていると、名を呼ばれて、見上げると。  何だか神妙な顔。 「……玲央って、恋人はいないの?」  優月からのその質問に、一瞬で、ぱっと色々浮かぶ。  ……恋人になりたいって事か?  ――――……確かに優月は、可愛いけど……恋人……。  恋人にするのは、抵抗がありすぎる……。  ……ってどんだけオレ、「恋人」が嫌なんだ。  ため息をつきたい気分になりながら。 「……恋人は居ない」 「そうなんだ……」  優月は、一度頷いて、俯いた。 「じゃあ、あの……」 「……ん?」 「……玲央は、こんな風に会う人、他にも居るよね?」 「――――……ん。セフレは居る」 「――――……じゃあさ」 「――――……」  恋人にして、と言われたら、何て言おう。  ――――……。  優月がどうとかじゃなくて、  恋人は、当分、要らない。と、そう思ってる事を、伝えようか。  でも、それだと、優月はオレとは会わないのかもしれないし。  でも恋人――――…… 誰か一人に決める事への、煩わしいという感情が、一気に心に沸き上がってきた、時だった。 「オレも、セフレ、ていうのに、してくれる?」 「――――……は?」  思っていたセリフとは、全然違った。  つい、たった今まで、恋人と言われたら、何て断ろうか、どう伝えようかと考えていたのに。  ……何だか一気に、不快な気持ちに陥った。  は?  セフレ???  ――――…… 何、言ってんの、優月。  意味わかって言ってんのか?  恋人、は断ろうとしていたのに、セフレを求める優月になんでだかものすごくモヤモヤして。でもそんな自分勝手な言葉は、何も、出せなくて。  かなり長い事、無言で見つめあう。  すると、優月は、何を思ったのか、一気に真っ赤になった。  ――――……つか、お前、すぐそうやって、真っ赤になって、恥ずかしがるくせに。セフレとか…… 何言ってんの。 「セフレって――――……そんなの、お前、なれるの?」  俯いてる優月に、そう聞いた。 「――――……っっ……」  びく、と震えて。でも、全然顔を上げない。  何だか、本当に、モヤモヤする、よく分からない感情が、止まらない。 「玲央、ごめん、オレ、図々しかっ――――……」  思い切ったようにオレを見上げた顔を、見た瞬間。  どうにも、感情が高ぶって。  引き寄せて、 何やら、ごめん、とか言いかけていた唇を、塞いだ。 「……っ……ん、う……っ……?」  舌を絡めて、中をなめる。優月は、すぐにぎゅっと目を閉じた。 「……っふ……っ……ん……?」  なんで今、キスなんかするんだ、と。思ってるんだろうな……。  喘ぎの最後が、何か、言いたそう。 「……っん、ぅ……っ」  息もできないようなキスをしてると逃れようとする。それを、さらに自分に引き寄せて、キスする。 「……っん……」  目が涙に濡れて。オレの服をきつく握り締めてる。  体から、力が抜けていく優月を抱き締めたまま、キスした。  何でイライラするんだか。  ――――…分かんねえけど……。  キスされてる優月は――――……可愛い。  愛おしい、と思う位。  一生懸命なのも、苦しそうに歪むのも。でも気持ちよさそうなのも。  出さないようにしてる声が漏れるのも。  可愛くて、一度キスを離したけれど、もう一度唇を押し付けた。  ゆっくり、キスを離して、優月を見つめてると。  優月が瞳を開けて、見つめ返してきた。 「――……玲央?」 「……オレと、セフレに――――……なりたいの?」  本当に、オレと、セフレになんか、なりたいのか? 「……オレ、玲央と居たいから。なれるなら、なりたい」 「――――……」  何て言うのがいいんだか。  過去に色々ありすぎて、恋人は欲しくない。  だけど――――……優月とは、居たい気がする。  恋人は欲しくないのに。  優月に、セフレになりたいなんて言われると……。  セフレが何人も居るって言ってるオレに、恋人になりたいなんて、優月は言わねえか、とも、思うのだけれど。  ……それでも、なんだか、すげえ苛つくし……。  色々葛藤した後。     「――――……分かった。いいよ」  そう言った。  恋人は、いらない。  ――――……優月とは会いたい。  優月がセフレでいいというなら――――……。  とりあえず、それで、会えるなら。 「――――……お前と会いたいって、オレ言っただろ……」  言いながらも、何だか納得しない自分。  なのにオレの言葉に、なんでだか嬉しそうに笑う優月。  つか……。  優月との間に、セフレなんて言葉、使わずに、会おうと、思ってたのに。  納得は行かないわ、モヤモヤするわ。  連絡先を交換しながら学校まで歩き、1限に向かう優月と別れた後。  バンドの部室に入り、椅子に座ってテーブルに突っ伏した。  くっそ。  なんか――――…… 意味わかんねぇ。 「……って、うっわ、何、玲央! 早や! 何してんの!」  ドアが開くと同時に叫びながら入ってきて、目の前に立ったのは、勇紀。 「朝からうるせーよ……お前こそ何してんだよ」 「オレは彼女が1限だからって付き合って学校来て、暇だったからここで時間潰しにきただけ」 「……あ、そ」  また彼女できたのか。  もうそこに突っ込む気もせず。突っ伏したまま向けてた顔をまた、下に戻した。 「何、どーしたの?」 「――――……ちょっと整理してるから、黙ってろ」 「じゃ整理したら話して」  そんな声に、ああ、と頷いて。  ため息を吐いた。

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