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第64話◇

 何かを話している3人の会話は全く頭に入ってこない。  優月と、セフレ、か。  ………何でわざわざ、セフレになりたいなんて、言うんだ。  そりゃ、セフレは複数居るけど。  ……まあ、このまま、優月と会って、抱いて、それでも恋人にならないなら、関係としてはそれになるのは分かるんだけど。  優月の無邪気な顔が頭に浮かぶと。  そこに、セフレなんて言葉を当てはめるのに、抵抗を感じる。  ………だからといって、恋人――――……。  あー。  ……恋人、つっー響きがすでにめんどくせえ、な……。  くっそ。何でこんな、イライラする訳……。 「で? 玲央は、そろそろ話せる?」  不意に自分に向いた声に、嫌々顔を上げる。  ふー、とため息。  3人がオレを見てる。中でも、颯也は、何だかめちゃくちゃ嫌そうな顔をしてる。 「……何でお前、そんな顔してンの?」  颯也をまっすぐ見つめながら、そう聞くと。 「……玲央がこの時間にここに居るし、その理由が、誰かに付き合ってあげて、とかだし、しかも、そんなウダウダ悩んでんのとか、もう嫌な予感しかしねえから」 「はは。確かに」  勇紀と甲斐が苦笑いしながら、頷いている。 「どんだけ嫌な事があったんだろうと思うと、聞くのが嫌なんだけど」  続けて言った颯也に、思わず首を傾げた。  ――――…嫌な事、な訳じゃ、ねえな……。 「……あー。 悪い。別に、心配させるような事じゃねえ」 「――――……そうなのか?」  少し顔の表情が和らぐ3人を見て、頷く。 「……こないだオレ、面白いの見つけたって言ったろ」 「……ああ。先週言ってたな」 「昨日そいつと過ごした訳。あの部屋で」  そこまで言って、何と言おうか数秒止まる。3人は、黙って、オレの事と場を待っている。 「――――……なんか、すげえ可愛くて」 「「「は?」」」  不意に3人から、重なった、単語。 「んだよ」  そう言うと、顔を見合わせる3人。 「悩んでるのかと思ったら、ノロケか?」  甲斐の言葉。 「しかも、玲央のノロケなんて、オレは初めて聞いたかも」  勇紀の言葉。 「つか、可愛くて、何。その先は?」   颯也は、先を促してくる。 「――――……そいつ、キスも初めてだったから……結局、最後までしなかったけど、これからも会おうと思ってた訳」 「キスも初めてって……玲央、そういうの避けてたじゃん。絶対重くなるって」 「何、避けられない位、イイ女だったの?」 「あー……まあ……男だけど」  言ったオレに、え!っという顔で、勇紀が目を見開いてくる。 「え、男なの? 男でキスも初めてで、それが可愛くて、最後までしなくて。って、一晩過ごして最後までしないって、何? どーしたの、玲央。しかも、そいつのために、こんな朝早くから学校きたって事??」  勇紀が並べて言い募る。 「ぜんっぜん、意味わかんねー」  最後にそう言った勇紀に、颯也が 落ち着けよと苦笑い。 「別に玲央は男初めてじゃねーし、そこは驚くとこじゃねえだろ」 「……まあそうだけど」 「……まーいいや。で、おまえは何を、悩んでンの?」  颯也が先を求めてそう言ってくる。 「あーだから……これからも会おうとは思ってたんだけど」  思っていたんだけど……。  ――――……。 「……セフレにしてくれるかって、聞かれて」  そう言って、黙る。  すると、3人も、黙る。  4人とも無言で、数秒。 「……うん、それで?」  勇紀が首を傾げてくる。 「それでって?」  逆にオレが聞くと、ん?と勇紀が更に不思議そうな顔をする。 「セフレにしてくれるか聞かれただけでしょ? で? うん、でいいじゃん」 「恋人にしてって言われたんじゃないんだろ?」  甲斐も、続けてそう聞いてくる。 「……そうだよな」  ……まあそうなるよな。  そうだよな。うん。  ……セフレでよろしく、でいいよな……。  今までのオレ、いつもそれでやってきたし。   「どーいう事? セフレ、なりたくなかったの? やっぱり初めての奴って面倒だった? ていうか、あれか! それで断ったら、すごいしつこくされちゃったとか! それでしょーがなく学校もついてきたのか!」  返事もしてないのに、勝手に納得して、なるほどなるほど!と勇紀が頷きだした。 「ん? そーいう事なのか?」  甲斐が視線をオレに向けてくる。 「……全然ちがう」  ため息交じりで答えると、えっ、と勇紀。 「え、違うの? あ、じゃあ、あれ――――…」 「つか、勇紀ややこしくなるから、黙ってろよ」  颯也が、強い口調で言い、勇紀が、はい……、と黙ってる。   「……でも勇紀の言う事も分かるけど。 いつもの事じゃん。恋人はいらない、干渉したり束縛しない事伝えて、それでいいならセフレになろうって。 セフレで良いって、そう言ったんじゃないのか?」  颯也の言葉に、そうなんだよな……と頷きながら。 「……セフレにしてくれるかっていうから……いいよ、とは言った。 恋人ってのは――――……すげえ抵抗あったし」 「――――……」  オレの言葉に、全員、しばらく無言。 「……何、なんで、黙ってンの?」  そう聞くと。  甲斐が、ぷ、と笑った。 「なに、そいつの事、好きになったの?」  甲斐の言葉に、眉を寄せてしまう。 「……は?」 「気付いてないでしゃべってるよな、玲央」  勇紀もクスクス笑ってる。 「……何がだよ」  甲斐と勇紀の言葉の意味が分からなくて、面白くない。思わず更に眉を寄せていると。 「恋人が抵抗あった、とか言ったけど――――……恋人、ていう選択肢も、考えたって事なんじゃねえの?」  颯也の言葉に、ん?と固まる。 「だって、恋人がどうのとか、お前の口から、超久しぶりに聞いた。セフレにしてって言われたんだから、いつもなら、いいよで、終わりじゃん」 「――――……」  続けて言われた颯也の言葉を、自分の中で、繰り返す。 「……いや……別に……」  そこまで考えたわけじゃ――――……。 「――――…………」  そこで、言葉に詰まる。 「……やっぱ、オレの事、放っといて」  再び突っ伏すと。  何やらこそこそと話してる3人。  クスクス笑う声も聞こえて、腹立たしいが。  無視を決め込んで時間を過ごした。  1時間後。  全く何の進展もない思考とともに、立ち上がり、面白そうにオレを見てる3人と、特に何も話さず、部室を出た。 「昼集まろうぜ、どこで食べる?」  甲斐がそう言う。 「3号館の下の学食がいい。オレ、ハンバーグ定食が食べたい」  そう言った勇紀の言葉で、決まった。  甲斐と颯也と別れて、勇紀と2限の教室に向かう。 「玲央さあ……マジな話、そいつに惚れたの?」 「……ノーコメント」 「ぷ。惚れてないとは言わないんだね」 「……惚れてなんかねーよ」 「ふーん……?」  クスクス笑う勇紀を睨む。 「……まあでも、玲央の場合は慎重になるのは分かるけど。そいつ、この学校なんだよね。ちょっと見てみたいな。すごい綺麗とか?」 「見た目、すげー普通」 「え、そうなの??」 「すれ違っても絶対素通りする……」 「ますます謎なんだけど。なんで、そーいう事になんの?」 「――――……」  ……何でだっけ。  …………ああ。猫、か。  猫と遊んでる姿を――――……乱したくなったって。  ……何だそれ。  我ながら、意味が分からない。   「まあ……偶然……」 「偶然? 何だそれ」  言いながらも、それ以上は突っ込んでこず。 「どっかで見かけたら、教えて」  勇紀が面白そうに言うので、はあ、と息をつきながら、頷いた。  

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