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第66話◇
2限が終わって、昼食時間。
友達たちに、「優月昼いこ?」と話しかけられたけど、約束があるからと断った。智也と美咲に会うのはいつも同じ学食。学部が違うから授業はほとんど一緒にはならなくて、お昼後の授業も皆バラバラの建物なので、中央にある学食で集まる事になってる。
広い食堂なので、大体いつも、同じ辺りに座って集まる事にしてる。
あたりを見回すと、2人、発見。
「おはよ、智也、美咲」
あ、もう、おはようじゃないか、なんて自分で思いながら。
振り返った二人に、見つめられる。
「――――……」
二人が、なんだか、オレを見て、ほっとしたような顔をした。
「良かった、元気そうで」
智也のそんな言葉に。
昨日の今日で元気ない訳ないのに。そんな言葉が出てしまう位、心配させちゃったんだなと、思って。
「心配かけてごめんね」
そう言ったら、智也が「大丈夫だよ」と言いながら、オレに手招きをした。
「こっちおいでよ、優月」
智也に呼ばれるまま、智也の隣に座る。
いつもはこんな風に呼んだりしないんだけど……。
きっと、美咲の真横にしないでくれたんだろうなと、智也の気遣いに、心の中では、苦笑い。
……だってまだ美咲、一言もしゃべってないし。
昼なのに、食事も買いに行かず、3人で、少し顔を寄せる。
「昨日あれから、どうした?」
「……えっと――――……会えて、玲央のマンションに、行った」
ぴく、と美咲が眉を寄せる。
「……えーと……それって……早い話、あいつとそーなった、てこと?」
智也がそう聞いてくる。
「……最後までは、してないんだけど……」
2人が、え?という顔で、オレを見つめる。
「なんか、多分オレがいっぱいいっぱいになっちゃったから……途中で終わらせてくれて……オレ、寝ちゃったし……泊めてもらって、そのまま学校に来た、感じ……」
そう言うと、2人が顔を見合わせてしまった。
「あいつと二人きりになって一晩居て、そんなの、ありえんの?」
智也の声に、オレも少し首を傾げながら。
「……不思議なんだけど……実際そうで」
色々はされたんだけど……。
……色々――――……。
……あ、やば……。
不意に、昨夜の事を思い出した瞬間、かあっと耳まで熱くなった。
「――――……」
「――――……」
智也と美咲が、オレの反応に、また顔を見合わせてしまった。
「……ねえ、優月」
初めて、美咲がちゃんと声を出した。
「……優月は、これからあいつとどうなりたいの?」
どうなりたい。
……どうなりたい……。
「……オレ、朝、玲央と話してて……どうしても、玲央と、これきりになりたくなくて……」
「――――……なくて?」
2人がすごく、自分を見つめてくるのを、見つめ返しながら。
……なんて言ったらいいんだろう。
……って、もう……正直に言うしか、ないかな。
「……セフレにしてって――――……お願いした……」
美咲が、ぴき、と、強張った顔をして。
智也は、あちゃ、という顔をして。
あ。やばい事、さらっと言ってしまったなーと……思いつつも。
うーん、これ以外言いようがないし……。
「心配かけるの、分かってる。ごめんね……でもオレ、どうしても、玲央と居たくて。それでも全然良いかなって、思っちゃったんだ……」
そう言うと。
2人は。特に美咲は。
はーーー、と、ため息を、ついた。
「……あいつのこと、好きになっちゃったの?」
「……うん。多分。そうなんだと思う」
「――――……好きって、伝えたの?」
「伝えてない。だって――――……好きとか重いの、やだって、美咲の友達が言ってたって聞いてたし……」
「――――……」
「好きって言ったら、そうなるなら――――……これきりにしたくないなら、そういう関係になるしかないのかなって思って……」
「――――……」
「それでもいいって、思っちゃって……うー、ごめん……」
美咲のまっすぐな視線に耐えられず、今日何度……だろう、机に突っ伏すの。
「ごめんてオレらに言うとこじゃないから」
智也が困ったように言って、ポンポン、と背中を叩いてくれる。
「ていうか、神月はなんて?」
智也の声に、なんとか顔を上げて。
「……なんか、お前そんなのになれるの?て聞かれたんだけど……なれるならなりたいって言ったんだ、オレ」
「――――……」
「そしたら、いいよって言ってくれて……」
そう言うと、数秒黙った智也が。
「優月はほんとにそれでいいの?」
「……オレと、会ってくれてる時の玲央だけ見てれば、いいのかなって……思って」
「……優月は、ほんとは、ちゃんと付き合う関係の方が良いでしょ?」
美咲の言葉に、うん、と頷いて。
「……でも、玲央とは、恋人にはなれないから……オレ今、他に恋人になりたい人居ないし。…玲央が、他の人と会ってても、最初から分かってれば、それはそれでいいのかなって思っちゃって……」
そう言ったら、今度は美咲が、はー、と息をついて、机に倒れてしまった。
「あーもう……そこまで覚悟してたら、何も言えないじゃない……」
美咲のそんな倒れる姿、初めて見たので、困って智也に目を向けると。智也は、すごい苦笑いで、大丈夫、と言ってくれる。
「ていうか、何なの、優月、あいつの何がいいの??」
体は起こしたけど、まだ額に手を当てて、顔は下に向けたままの美咲。
「……何って……何だろう……」
玲央を、ぱっ、と思い浮かべる。
「――――……ぜんぶ……かも……?」
言ってしまったら、美咲がものすごい大きく、はあ、と言った。
ため息とかではなく、もう、はあ、と声で、はっきり言った気がする……。
うう。ごめん……。
隣で、智也はますます苦笑いしてる。
「……とりあえず、ごはん、買いにいこっか」
智也の声に、ん、と頷いて、美咲を見ると。
ふーーーとまた息をつきながら。美咲も頷いて、立ち上がった。
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