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第67話◇

 食事を買ってきて、席に座ると同時に美咲が話し始めた。 「ていうかね、優月」 「うん」 「あたしは反対だからね。昨日は行った方が納得すると思ったし、優月が決める事だとも思ったけど……そんな関係は、反対」 「……うん」 「あ、オレはちょっと保留。考え中な?」 「ん」  智也はご飯を食べながら、美咲の言う事を聞く事にしたらしい。 「優月は、それでも良いって言ってるけど、そんなの良いなんてほんとに思えるの? 自分の好きな人が、他の人と会ってるとか、良いの?」 「……んーー……嫌かもしれないけど……んー……でも、それをやだって言ったら、玲央とは居られないから……オレは、玲央と居たいな……」  ……うーん……。  食べてはいるけど、美味しさが分からない位、考えるけど……。  何ていったら、美咲が分かってくれるのか、分からない……。 「……玲央に会う前のオレなら、美咲と同じ事言ったと思うから、すっごく言いたい事、分かるんだけど……」  ……分かるんだけどさ。  でも、だって。  今のオレは。  ――――……玲央が良いなら。  玲央に会いたいし、側に居たいし……。  そっちの方が、優先で……。  そこまで聞いてた智也が、ふ、とオレを見て。 「なー優月。……神月はさ」 「うん……」 「優月に、優しいの?」 「……うん。めちゃくちゃ、優しい」 「……恋人になれなくても良いの?」 「う、ん……良いっていうか……なれるなら、なりたいけど――――……でもなんか、オレが玲央の恋人って……現実的じゃない気がして……」 「ん?どういう意味?」 「……あんなカッコよくて、モテそうな、なんでも持ってそうな人と、オレが恋人になるとかって、おかしくない??」  言った瞬間。あ、しまったと、思う位。  2人が、目に見えて、落ち込んだ。  漫画に描くなら、二人の上に、「ちーん」て文字をあてはめたい位の、目に見えて沈んだ感じに、なんだかもう、おかしくなってきてしまった。 「ごめん……だってさ……」  ほんとにそう思っちゃうんだから、しょうがない。 「なんかさ、ほんとにそう思ってて。 オレが玲央の恋人なんて、おかしいと思うし。……でも、オレ、今は、玲央に会えるなら会いたいし……」  ……キスしたり、触れたり――――……したいし、してほしい。  玲央を思うだけで、 胸が、ドキドキして、弾む。  ――――……恋人じゃないと嫌だ、なんて言って、  玲央と会えなくなるなんて。  その方が、本当に、嫌だし。 「――――……オレさ。別に、なげやりになってる訳じゃないよ?」  2人はふ、とまっすぐオレを見つめた。 「――――…何か、こんなに一緒に居たいなと思ったの初めて、でさ。でも、オレも玲央も男だし……玲央はそういう相手がいっぱい居る人、なんだろうけど……。オレにとっての玲央を、オレが好きなら……それで良いかなと思えちゃう位……なんか……今、好きなのかも……」  最後の方、すごくちっちゃくなっていく声の理由は。  美咲の眉が寄っていくから。  ……うわーん、美咲、ごめんなさいー……。  心の中で謝りながら、一応最後まで伝えると。  美咲は、むぅ、と口を閉ざしてから。  ため息交じりに。 「……あたし達さ、高校はそんなにべったりじゃなかったじゃない。たまに会う位で。だから優月がどーして誰とも付き合ってきてないのかとか、よく分かんないけど……どうせ中学ん時みたいに、仲良くなり過ぎちゃって、良い人で終わっちゃったんだろうなーとも、思ってる訳」  うん。まあ……理由がそれだけじゃないかもしれないけど、まあ、そういうとこも、多分にあるとは思う……。見てきたみたいに、美咲、言うなぁ……。 「――――…でも、優月を好きになる子は、絶対居ると思う。正直、あいつに優月がふさわしくないんじゃなくて、 あいつに優月はもったいない、からね」 「――――…」  美咲って。  ……幼馴染バカ、だよなー。ほんと。  ――――……嬉しいけど。でも。  客観的に見て、玲央がオレを選ぶ理由なんて、無い気がするんだよね……。 「……優月を、あいつの毒牙にかけるなんて……」  ――――……ど。 毒牙、って……。  男のオレが、その言葉を使われる日が来るなんて思わなかった。 「っもう、なんで優月、笑ってんのよ」  「え、だって……美咲……」 「それは笑っちゃうかも……」  智也もちょっと笑っちゃってる。 「……はー。もう、優月、ほんとにほんとにほんとに、いいの?」 「ん……ありがと、心配、してくれて」  ふ、と笑って、美咲と智也を順番に、目を合わせた。 「……でもオレ、そうなって、それで……どこかで玲央がもう終わりにしようって言っても…会えてた時の事、後悔しない気がするんだよね……」  言うと。  智也は、苦笑いとともに、オレの頭をぐり、と撫でた。 「――――……オレはもう優月に任せる。まあ昨日行きたがってた時点で、優月の意志はほぼ決まってたし」  それを聞いた美咲は、深いため息。 「――――……優月って、決めたらもう、迷わないよね……はー、厄介」  ぱくぱくぱくぱくと、めっちゃ続けて食べて、ごちそうさま、と言ってから。美咲は。 「悩んだら言うのよ? あと泣かされたら絶対言って、乗り込むから」  美咲の言葉に、オレはぷ、と笑って。   同じく苦笑いの智也と、顔を見合わせた。 「……ありがと」 「ていうか、あたしは絶対反対だからね、覚えといてね、賛成はしてないからね」 「うん。分かった」  頷くと。やっと、美咲も、少し、笑ってくれた。

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