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第73話◇

【side*優月】  3限の授業が始まった。  ギリギリ滑り込んだので、前の方の席に、1人で座った。  もう今日の授業は、全滅確定。  たった今別れてきた玲央の事しか、頭にない。  教授の話は、まったく、耳にも入ってこない。  後で誰かに、ノート頼も……。 「――――……」    玲央の側に居ると、ドキドキする。  玲央に触れられると、熱くなる。  キスされると――――……幸せな感じ。  大脱走した後に、オレを、捕まえてくれた玲央は。  ――――……キスが、触れ方が、やっぱり優しくて。  ……どんだけ、好き……かな、オレ。  ふ、と思わず、笑んでしまう。  玲央に会ってから、数日。  生まれて初めて、みたいな内容の事も、すっごく色々、考えた。 「男同士」て事も。 「会ったばかりの全然知らない人と」て事も。 「セフレ」なんていうものについても、初めて、自分の事として、考えた。  自分が、恋人でもない玲央と、そういうことをする、て事と。  玲央が、自分じゃない人とも、そういうことをする、て事についても。  ――――……いっぱい、考えた。  考えたけど。  一番大事なとこだけは、揺るがなくて。  玲央と居られるなら、一緒に居たい。  ……っていうとこだけは。 何を考えても、変わらなくて。  セフレなんて、とか。  他にセフレがいっぱい居るなんて、とか。  それに対する「嫌」という気持ちよりも。  やっぱり、玲央と居られなくなる方が、「嫌」。  正直なところ。  今までずっと、そうして過ごしてきたのを知ってる玲央と、  昨日、あんな風に過ごせてしまった時点で。  そこらへんは、そんなに、嫌じゃない、のかもしれない。  智也と美咲に言ったけど、  オレの目の前に居る玲央が、ずっと、今の玲央のままなら。  オレと会わない時に、何してても、別にいいかも、と、思う。  勉強してても、運動してても、バンドの活動してても、誰かと一緒にいても……誰かとそういうことをしてても。玲央の自由って意味では変わらない。  さすがに目の前で、誰かとされたら、嫌だけど。  見えない所なら、良い気がする。  だって。  玲央と、居たいから。     投げやりでもないし、適当に考えてるのでもないし、全部諦めてる、とかでもない。  玲央が、オレだけを見てくれたら、いいな。  そんなことを、1パーセントも思ってない、なんて言ったら嘘かな……。  他の人見ないで、オレだけ、毎日、見てくれたら、嬉しいと思うけど。  ――――……玲央をひとり占めとか…荷が重すぎる、かな。  カッコ良すぎるし。なんか。夢の中の、人みたいで。  玲央の24時間の内、少しだけでもいいから。  オレに使ってくれたらいいなー。  と、思ってしまう。  オレがこれで良くて、玲央も、オレと会ってくれるというなら。   これで、良いんだと、思う。  だって、今、玲央の事、思うと、ほわっと心の中が、あったかくなるし。キスされるのとか、思いだすだけで、心の中、熱くなるし。  後で、玲央に電話して良いんだって思うだけで。  こんなに、気持ちが浮き上がる。  ――――……あの時聞いた、「ひとりぼっち」みたいな言葉も。  聞き違いだったのか。ほんとに言ったならどういう意味なのか。  そばに居れば、そこらへんもいつか、分かるかもしれない。  玲央が――――……。  玲央の事が、何でなのか。  今までの常識や価値観、かなりひっくり返ってしまってる位、  信じられない位、好き。な気がする、けど。  ――――……玲央には、好きなんて、言わない。  恋人になりたいなんて、言わない。  重いとか、思われたくないし、拒否されたくないし。  玲央にとっての言葉上、どんな関係でも、  オレは、玲央の側にいる時間があるなら、それでいいや。  オレが、すごく惹かれてる人と、  一緒に過ごせる時間があるなら、それでいい。   決めてしまえば、すっきりしてて。  あとは。  玲央が、オレと、居たいって言ってくれるように、接すれば……。 「――――……」  ……?   んん??    ……あれ、オレ。  何をすればいいんだろ???  そもそも、なんで、玲央って、オレと会いたいって?  興味があるって言ってたっけ……??  ……興味…?  ……どこに?   ……あれ、何て言ってたっけ……。  ――――……んー……?  ……玲央に聞いてみようかな。  ……うーん……でも、さすがに本人に、オレが何したら一緒に居たいって思ってくれるか、聞くのは変なような……。  ……どーしよー……。  ……うーん……。  あとはもう、それしか考えられなくて。  前に座ったからとても近くにいる教授の、マイクの音が、驚くほどに全く耳に入ってこないまま。  授業が終わってしまった。

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