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第75話◇

「で? セフレなら良いって言われたって事か?」  まだ少し笑いながら、蒼くんは、聞いてくる。オレはむくれた。 「……別に言われては、ないけど」 「……ん? ちょっと待って。なら、お前の希望でセフレんなったの?」 「希望っていうか……」  何て言えば良いんだろう。  どこからどうやって話そう……。 「はっきりしねえな? お前がセフレになってくれって頼んだのか?」 「うーん……」 「何、全然分かんねえな。はっきり言えよ」  やっと笑いを納めて、蒼くんがまっすぐオレを見つめてくる。 「……その人、恋人は重くてやなんだって。で、すごくモテる人だから、セフレがいっぱい居るの」 「……はあ……」 「オレ、その人の側に居たいから……セフレにしてもらえるか聞いたの」 「――――……はあ」 「……そういう事、なんだけど」  ちょっと眉を寄せて、蒼くんは黙ってる。 「……なかなか凄い話だな??」 「――――……」 「……オレ、セフレっつーのは居ない。誰とも付き合ってねえ時にエッチした事はあるけど。つか、それはいっぱいあるけど。でもそれは、相性よければ付き合ってもいいと思ってたし。付き合ってない奴と、何回もってのは、無いから、セフレってやつは、居た事ない」  あれ。意外。  ……めっちゃ居るかと思ってた。  そう思って、でも言わずに蒼くんを見ていると。 「お前、オレはセフレいっぱい居そうだとか思ってるだろ」 「……っそ、そんな事……」  ――――……蒼くんはたまにエスパーみたいだ。 「ふざけてんな、お前……」 「ご。ごめん……」 「……まあいいけど。――――……つか、すげえな、セフレがいっぱいいる女とか、あんま聞かねえぞ。つか、居てもいーけど、それをまわりに公言する女って、何。何でそんな女と、お前がそーなんの? あ、すげえ年上とか?」  次から次へと質問されてる間に、オレは、かなり大事な部分をまだ伝えてない事に気付いた。 「あ」 「え?」 「……あの」 「あ? 何だよ?」 「…………」  女じゃなくて、男、なんだけど。  ……てか、オレ、これを最初に伝えてないってどーなの……。  バカだ、オレ。  最初に、言うべきだった……。  すごい、言いにくい。 「優月?」 「――――……あのね、蒼くん……すごく、落ちついて、聞いてね?」 「……つか、お前の口からセフレとか出た時点で、もう落ち着いてねえけどな。ヤバいっつの。お前、変な女に騙されてんじゃねえだろうな。金とか取られてないか?」 「――――……お願いだから落ち着いてください……」 「……」  思わず敬語で言ったオレに、蒼くんはため息をついて。  立ち上がって自分の鞄の所に行き、中から水のペットボトルを取り出した。 「――――……ふー……」  水を飲んで、長く息を吐いて。  そのペットボトルを持ったまま、再びオレの隣に腰かけた。 「……ん。何?」 「――――……あのね、相手なんだけど」 「ん」 「……女の人じゃない、んだ」 「――――…………」  マジマジと、真正面から見つめられる。  それはそれは、長い間。  沈黙、耐えられないレベルだけれど、絶対聞こえてるからこその、この沈黙なので、それ以上は何も言わず、蒼くんの言葉を待つ。 「……男って事?」  低い、声。 「――――……」  頷くのが怖いけれど、蒼くんの目を見ながら、頷いた。すると。 「……お前、男対象だっけ?」 「……初めて、そう思った」 「……好きなのか?」 「うん。好きだから……側に居たくて」 「んー――――……イケメン?」 「……うん。すごい、カッコいいと思う」 「オレより?」 「……」  頷きにくいけど。  うん、と頷くと。 「……そんな奴いる?」  ってすごい自信だな。  ぷ、と笑ってしまう。 「男、ねえ……」  また少し沈黙。 「……優月、飯行くぞ。詳しく話せ」 「え」 「拒否権なし。行くぞ」  立ち上がって手早くオレの画材を片付けてしまうと、さっさと歩いていき、入口で部屋の電気に手をかけてる。 「消すぞ、早く来い」 「待ってよ、蒼くん」  オレ、絵が終わったら、怜央に電話……。  ……無理だ。  今、蒼くんの前で電話なんてしたら、きっと電話取られて、玲央と話し出しそうだ……後にしよ。 「車出すから早く来い」 「うん」  先生には孫みたいに。蒼くんには弟みたいに。  ずっと、可愛がってもらいながら、絵を続けてきた。  家族みたいな縁を切りたくないのもあって。もしかしたら、この教室でなければ、二人が居なければ、絵を習い続けはしなかったかもしれない。  先生も、蒼くんも、信頼してるし、大好き。  だけど。 「つか、なんか、納得いかねえ事になってるよな。よーく、話し合おうぜ、優月」  運転しながら、なんか、不敵に笑う蒼くんは、怖い……。  美咲よりも強敵かもしれない。  でも、それよりなにより、とりあえず、玲央に電話したい……。

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