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第76話◇

【side*玲央】  今日の授業が終了。  結局、誰の誘いにも乗ってない。  ……どーすっかな……。  教授が出て行き、玲央がスマホを持ったまま座っていると、周りに居た男連中も先に帰って行った。  だんだん静かになっていく室内。 「――――……」  今頃、絵、描いてるのか――――……。  何描いてんのかな。人? もの? 風景?  ――――……ヌードとか? ……てか、あいつ、描けるのかな……。  赤面しながら描いてそうで、そんな想像をしてる自分に苦笑い。  どっちにしても、まだまだ連絡は無いだろうし。 「玲央、どーしたの?」  一旦誰も居なくなってた教室に、近づいてくる声にそちらを見る。  セフレの一人。|久美《くみ》だった。また今日も胸を強調した服、着てるな……。 「暇なの?」 「……んー……まあ、今はな」 「じゃあ、ご飯食べにいかない?」 「――――……いいけど」 「えっ」 「……何?」  久美の驚いたような顔を見上げて聞くと。 「ほんとにいいの?」 「どういう意味だよ?」 「だってこんな風に玲央がつかまる事なんて珍しいから。ご飯も珍しいし」  嬉しそうに笑って。  ふと、影が出来て、キスが重なった。 「…ご飯の後も空いてるよ?」  ふふ、と笑う久美。  ――――……別に今更キスなんて、何でもない。  その後も、別に――――……久美とするんでも、良い。 「――――……とりあえず飯いくか」 「うんっ」  立ち上がると、細い腕が、腕に絡んでくる。  柔らかい。 ――――……背もだいぶ低い。  香水の匂い。服もアクセサリーも、オシャレに着飾ってて、可愛い。  基本、女の子の方が好きなんだと思う。  ――――……男はほんと数人。何回も続いてるのは、|奏人《かなと》位かな……。 「ね、玲央、掲示板の前通っていっていい?」 「ああ」  言われて、正門を通らず、4号館前の掲示板へと足を向ける。 「あ。玲央」  掲示板で明日の予定を見ていたら、そこで、今思い出したばかりの、|白石奏人《しらいしかなと》に遭遇。 「玲央、今週どっかで会える?」  腕を組んでる久美を気にする事もなく、そう聞いてくる。  逆に久美も、気にしてない――――……ようには、見える。 「あー……保留でいいか? 週末ライブだから、練習もあるし」 「あ、土曜、見に行くよ。チケット手に入ったから」 「じゃあそん時な」 「ん、じゃあね、玲央」  奏人は頷いて、離れていった。 「……奏人くんて、綺麗だよねー」  久美がその後ろ姿を見ながら、そんな風に言ってる。  ……まあ。男にしては、綺麗だな。派手な顔してて目立つし。  ――――……と、そこで優月がふと、浮かんでくる。  ……目立たねえよな。優月は。  たぶん、知り合ってなかったら、余裕で素通りするし。  存在すら認識しない感じ――――……。   「……玲央?」 「ん?」 「なんか、笑ってるから。どうしたの?」  クスクス笑われて、久美を見つめ返す。 「……笑ってないだろ、オレ?」 「んーん、なんか、笑顔だったよ? 優しくてイイ感じ」  ぎゅ、と腕に絡みついてくる。  ――――……何か腑に落ちない。  優月を、目立たないなーなんて思ってて。何でオレ、笑ってんだ。  笑ってた? 思い出して?  少し腑に落ちないまま。   久美と食事をして、時間を見ると、もう20時を回っていた。  電話はかかってきていない。  夕方から行って、まだ終わんねえのか。  ――――……絵の習い事って、そんな時間掛かるものなのかな。知らないから、何とも言えない。 「玲央、この後、どうする? 玲央のマンション行ってもいい?」 「――――……」  別に、優月が来ると約束はしてない。電話しろと言っただけ。  だから、久美をあのマンションに連れて帰って、一緒に過ごしても別に何の問題もない。  ――――……ない、のだけれど。 「……今日この後、用事が入るかも。悪いな」 「えーそうなの? 残念……」  店の下で久美と別れて。  スマホを見ても、連絡はなし。  ――――……遅くてもいい、とは言ったけど……。  ほんと、遅いんだな……。  ……忘れてる、とか?  ……それは無いかな。  掛けてみるか。  ――――……出れないなら後で折り返してくるだろうし。  いやでも、連絡してと言っといて、自分から連絡するっていうのも……まるで待てないみたいな……。  しばしの葛藤の末。 「――――……」  ――――……やっぱり、優月に会いたい気がする。  優月の番号に、発信した。    

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