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第77話◇
【side*優月】
オシャレな居酒屋の完全個室。
音楽も鳴ってて、叫ばない限り、隣に声は聞こえなそう。
「飲みたいとこだけど…車だしな…お茶でいい?」
「うん」
「なんか食べたいものある? ないなら適当に頼むけど」
「うん。蒼くんが決めてくれていいよ」
蒼くんはお茶と料理を一緒に頼み、店員が消えると同時に、オレを見つめてきた。
「それで?詳しく話しな?」
「ん……んー……と……玲央を、好きになって……一緒に居たいと思って…… セフレにしてもらった、て感じ?」
我ながら、超簡潔……。
途端、蒼くんが大きく溜息をついた。
「……お前、ふざけてんの?――――……そんなんで、終われるとでも思ってるのか?」
……ですよね。
「んーと……バンドのボーカルしてる人で、超お金持ちらしくて……すごい目立つし。ほんとカッコよくて……あ、でも」
「――――……」
「……カッコいいから好きな訳じゃないんだけど……ってこれ以上何を言ったらいい?」
困って、蒼くんを見つめると。
んー、とため息をつきながら。
「とりあえず……お前、騙されてない?」
「うん。――――…オレを騙しても、何もメリットは無いと思う」
「……優月、セフレって、何か知ってるか?」
「――――……会いたい時に会って……そういう事する相手……?」
言うと、蒼くんは、ふ、と苦笑い。
「お前、男と、できんの?」
「――――……1回……」
「ん?」
「途中までは、ベッドで……したの」
「どこまで?」
「……キスと……触られて……」
うぅ。オレ何言わされてんだろ。
恥ずかしいけど、そこは茶化さないでくれたから、助かった。
「――――……最後まではしてねえんだ?」
「……うん……オレが寝ちゃったから」
言った瞬間。
蒼くんは、ぶっと笑い出した。
「寝たの? 途中で?」
「……うん。なんか、意識なくなるみたいに、すーっと寝ちゃって……」
「へえ。それで――――…しなかったんだ、そいつ」
「うん」
頷くと、蒼くんは、ふーん、としばらく面白そうな顔をしてる。
「そいつ――――……玲央?はさ、お前の事が好きなのか?」
……え。
ぴた、と止まる。
それは、考えた事がなかった。
「……分かんない。でも優しいし…… 嫌われては、ないと思うけど……」
そう言った。
「寝ちゃっても怒らなかった?」
「全然……むしろ、寝かせたんだって言ってた、気がする」
「……ふーん」
ドアがノックされて開き、飲み物と食べ物が置かれていく。
店員が消えてから、蒼くんが、とりあえず食べようと言うので、一緒に食べ始めた。しばらくしてから、蒼くんが、んー、と唸ってから。
「……お前が辛くないなら、基本、反対はしねえけど」
「……蒼くん、ありがと」
「でもさっき、悩んでたよな。すげえぼーっとして絵も描けないくらいにさ。そんなんなるなら、反対」
「あれは……オレ、セフレは良いと思ったんだよ、玲央と居たいから。居られる限り居たいって覚悟も決めたし。でも」
「うん」
「玲央が、オレと居たいって思ってくれるように頑張ろうと思ったら、そもそも、何でオレに興味持ってくれたかも分かんなくて、何、頑張ればいいんだろうって……」
「……お前、そもそも何て言って、誘われたの」
「会って何分かでキス、されて……興味がある、とか……触りたい?……とか。それで、昨日、会う事になって…」
「昨日?昨日の夜一緒に過ごしたの?」
「うん」
「何だ、じゃあまだ、始まったばっかりって事か。 なあ…そのシャツって、そいつの?」
「あ、うん。朝、借りた」
「なんか、らしくねーなと思ってたんだ。すげえ納得」
ふ、と笑う蒼くん。
「んー……展開早ぇし、心配ではあるけど……お前はそれでいーの?」
「……うん。良い」
まっすぐ見つめて、オレが答えると。蒼くんは、ふ、と笑った。
「じゃあどうにもならなくなったら、助け求めてこいよ」
「……うん。ありがと」
「つーか、だいたい、その年まで何もない方が、オレ的には、やばいと思ってたし。経験値高そうな奴でそこがちょっと心配だけど……まあ、お前の経験値もつられて上がるかも。 ただ、男ってのが……なあ。まあ、男でも良いんだけど――――……」
「……うん? けど??」
「男しかダメになったらどーすんの?」
「えええーーー……なんか、それはやだ……」
考えてもなかった事を言われて、すごいぐったりすると。
蒼くんは可笑しそうにまた笑ってる。
「……あ、でもオレ、玲央以外の男と、そんな事したいって思わないから……大丈夫じゃないかなあ……」
そう言うオレに、蒼くんはまた、ぷ、と笑った。
「じゃあ、もし男しかダメになって人生どうにかなりそうになったら、オレんとこ、おいで」
「え゛?」
「一生面倒見てやってもいいよ」
「……蒼くん、絶対、からかってるよね」
「んー? まあ……オレ今まで男なんてこれぽっちも考えもした事なかったし、優月がそっちとか思った事もなかったけど。……まあ、でも、考えてみりゃ別に、死んでもありえない程には、嫌でもないかも。オレ、もともと結婚願望とかないし」
「――――……いやいや、蒼くん、絶対嘘だ……しかも言い方、死んでもありえない程嫌でもないかもって……何それ……」
ため息つきながら言うと、蒼くんはぷ、と笑って、よしよし、とオレの頭を撫でた。
「まあ、何にしても助けてやっから。だから、後の事は考えず、思いっきり、初恋してくれば?」
「え」
急な単語に、驚いて固まってしまう。
「なに、えって」
「初恋??」
聞き返すと、逆に蒼くんが首を傾げる。
「だって、まともな恋愛、初めてだろ?」
「……はつこい……」
瞬間。
かあっと、顔が熱くなった。
めんくらった顔してる蒼くんに、照れ隠しの文句。
「初恋とか、恥ずかしいからやめてよ」
「つか……お前、可愛すぎんだけど。20才間際で、こんな事で赤くなる奴いねえからな。どんだけ経験値低いんだよ」
「……もー、うるさいよっ 蒼くん、ほんと、やだ」
むむむむむ。膨れていると。
蒼くんはため息。
「だってお前、今までのって、ちょっと可愛いなーとか、ちょっと好きかもとか、そんなんしかなかったろ? 明らかに、これが初恋なんじゃねえの?」
「……恋じゃないし。……恋なんて、玲央に言ったら、終わっちゃうし」
オレがそう言うと、蒼くんは少し黙ってる。
「これは、恋なんかじゃない、から」
黙ってた蒼くんは、また少し、首を傾げた。
「……何で、恋っつったら、終わるの決定なんだ?」
「玲央、好きとか、重くて嫌なんだって」
「――――……何で?」
「何でって……嫌なんだと思うけど……セフレが楽みたいで……」
「……だから、それって何で?」
「……?? 分かんないけど……」
「今度、聞ける時に聞いてみな?」
「――――……うん、分かった」
そう言われると、理由は知らないかも。
……ただそういう、自由なのが好きな人なのかと思ってたけど…
好き、を重く感じる何かがあったって、事なのかなあ……。
そんな深そうな所、聞けるだろうか……。
「とにかくさ。オレが、セフレになりたいって言ったら良いって言ってくれたから…… だから側に居れる可能性がある訳だし……」
「――――……」
「恋とか言ってると、自分が勘違いしちゃいそうだしさ」
ふーん……と、蒼くんは、ニヤニヤしてる。
「なに?」
「――――……そんなさ。セフレが何人も居るような、モテモテのバンドやってるイケメンがさ」
「……?」
「何で優月と居ようなんて思うんだ?何で興味なんて湧く訳? お前、何したの?」
ぐ。それ、まさに考えてた所で。
……言葉に詰まって、何も言い返せない。
「……それ、今、自分で一番考えてるんだから……突っ込まないでよ」
やっとのことでそう言い返した時。
ポケットのスマホが震えた。
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