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第85話◇
「かゆいとこある?」
「……お店みたい」
ふ、と笑うと、玲央も笑ってる気配。
「ないよ。気持ちいい」
言うと、またしばらく優しい手つきで洗われて、シャワーで泡が流される。
目を開けると、ふ、と笑う玲央。
「今度、玲央、そっちむいて座って?」
「ん?何で?」
「オレが玲央の頭洗うから」
「じゃなくて、なんでむこう向くんだよ? こっちで良いじゃんか」
「…………」
だって、玲央がこっち向いて座ってて、オレが立って玲央の頭洗ってたら、玲央の目の前にちょうど腰の位置……。
「……それは無理」
言うと、ぷ、と笑って。玲央が体を動かして、バスタブ側に足を向けてくれた。
「これでいい?」
「うん」
立ち上がって、玲央の頭にシャワーを掛ける。シャンプーを付けて、玲央がやってくれたみたいに、優しく頭、洗っていると。
玲央が、ふ、と笑った。
「ん?」
「――――……お前と会ってからまだ、5日目か……」
「……うん?」
そうだ。金曜に会って、土日月火。
――――……なんか。不思議。
なんで男と、バスルームで、色んな事して、
髪、洗いあったりしてるんだろ。
先週の木曜までのオレに、今の状況を話す事が出来たら。
……絶対、信じないだろうなー……。
玲央の言った5日目っていう言葉に、どんな意味が有るのかは良く分からないまま、玲央の髪を洗い続ける。
「――――……かゆい所ありますかー?」
「はは。無いよ」
「はーい。じゃあ流しまーす」
少し頭を下げてもらって、泡を流す。
流し終えると、玲央が濡れた髪を掻き上げた。
うわー……。――――……カッコいいな。ほんとに。
もう、作りとして、本当に、綺麗。
思わず見惚れていると。
ふ、と顔を上げた玲央と、目が合った。
ドキン。と、胸が弾む。
と思ったら、ぐい、と引き寄せられて。
抱き込まれて、唇が重なった。
「……っ……ん……っ……?」
超至近距離で、見つめられたままの、キス。
「……ふ……っ……ン……」
――――……カッコいい、なぁ……ほんと。
何でオレ、この人と、キス、してるんだろ……。
……何回――――……キスしたかなあ。
その内見つめる余裕が無くなって、瞳を伏せてキスを受けながら、そんな風に思う。
「……優月」
長いキスが離れて。
名を呼ばれて、瞳を開くと。
ふ、と笑まれる。
「ほんと――――……すぐトロンとすんのな……」
クスクス笑いながら、頬を指でなぞられる。
むぎゅ、と抱き締められて。
なんかもう…… 。
胸の中のどよめきが、おさまらない。
「――――……出る?」
「……ん」
ざっとシャワーをかけられる。先に出た玲央に、バスタオルで包まれる。
……なんか――――……。
……ぽーとしちゃう、なー……。
……キス――――……。
……玲央、ほんと、キス、好きだなあ……。
……玲央のキス、大好き。
バスローブを肩にかけられて。 腕を通した。
ドライヤーのコンセントをさして、玲央がまた、ドライヤーをかけてくれる。
至れり尽くせり。
……何だか、そんな言葉が頭に浮かんでくる。
ふふ、と笑ってしまうと、玲央が、ん?と見つめてくる。
「優しすぎ、玲央……」
「――――……」
ふ、と笑って。
玲央が、ちゅ、と頬にキスしてくる。
「――――……つーかさ……」
「……うん?」
「……お前が、可愛いからだし」
乾いた髪を、くしゃくしゃに撫でられながら。
真正面から、見つめられて言われると、ぼっと、顔に熱が走る。
ぷ、と笑う玲央に。
「っ……か、らかって……っ」
「からかってないし」
「うそだ、また笑ってるし……っっ」
「だから、可愛いからだって」
クスクス笑う玲央が自分の髪にドライヤーを当て始める。
むー、と、息をついてから。
玲央の手から、ドライヤーを奪い取る。
「オレがやる」
「――――……ああ」
クスクス笑う玲央。
綺麗な、髪の毛。
背、高くて――――……。
ドライヤーが自然と上向きになる。
バスローブ一枚でも、
着飾ってなくても、
こんなにカッコいいって。
――――……すごいなあ……。
どーなってんだろ。
玲央が少し俯いて目を伏せてくれているのをいいことに、その顔の作りをじっと観察しながら、髪を乾かす。
うん。瞳つむってても。ほんと、カッコいい。バランスが完璧なんだなあ。整ってる。んー……玲央の絵、描きたいなあ。
でも、別にオレ、カッコいいから玲央を好きになった訳じゃ無いよな……。
好きだから、カッコ良すぎてドキドキするだけだし。
……カッコいいってだけなら、蒼くんがずっと近くにいたしな……。
そもそもオレの恋愛対象は女の子だったはずだし……。
ちょうど髪が乾いた頃、ぱち、と玲央が瞳を開けた。
真正面で、見つめあって。
ふ、と緩む瞳と、優しく頬にかかる手に、ドキ、と胸が痛い。
「見過ぎ…」
あ。
この、笑い方。
優しく緩む、この笑い方、
すごく、好きなのかも。
重なってくる、キスも、優しくて。
される度に、好きになってく、のかも。
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