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第86話◇

 ペッドボトルの水を渡されて。  飲み終えた所で、寝室に連れてこられた。 「――――……オレの好きにしていい?」 「……何で、聞くの?」  ……さっきあんなに、色々したのに。 「……んー。ベッド来ると、怖気づいたりしないかと思って」  そんな玲央の気遣いに、こんな時なのに少し笑ってしまう。   「大丈夫……」 「それは良かった」  ふ、と笑って、ベットの上に玲央が座って。  引かれて、玲央の上に、向かい合って座らされる。  少しだけ、下にある玲央の顔。  うなじに回った手に引き寄せられて、キスが、重なる。 「……玲央?」 「ん?」 「……今日は、最後まで、する、よね?」 「――――……何で?」 「……何でって……心の準備しようと思って……」  さっき、後ろ、触られたし。  ……中洗ったし。……そういう事、だよね?  昨日はいっぱいいっぱいなまま進んで、最後がどうとか考えてる余裕はなかったけど。……てか、今日も余裕がある訳じゃないけど、昨日しないで終わらせてもらったっていう、それが何だか……。 「んー……」  じいっと、見つめられる。 「――――……心の準備、ね……」  クス、と笑う、玲央。  優しい笑い方に、何も言えず、ただ見つめ返していると。  かなり長い沈黙の後、玲央が、ふ、と息をついた。 「……オレさあ……そんな急いでしたくないんだよな」 「……?」 「せっかく何もかも初めてなんだし。めちゃくちゃ丁寧に、体開発したいの。……意味わかる?」 「かいは……つ……?」  楽しそうに瞳を緩ませて、そんな事を言って見つめてくる玲央に。  開発って言葉をちゃんと頭で認識した瞬間、かあっと熱くなる。 「確かに、めちゃくちゃに抱きたいって思う時もあるんだけど……」 「……っ……」  玲央の目が、妖しく、緩む。  絶対何か、恥ずかしい事、言う気だ、この人……っ……。    目をつむって、耳を塞ぎたい気分だけれど、  敵わないまま、玲央のまっすぐな瞳を見つめ返すしかないまま。 「いっこずつ丁寧に覚えさせて――――……体全部、オレのにしたい」 「――――……っ……っ」  ……なんか。  …………恥ずかしくて、死ぬかも……。 「はは。 真っ赤……」  笑う玲央が、そっと頬に触れる。 「めちゃくちゃ、熱いな」  頬にキスされて、ぺろ、と舐められる。 「……っ」  びく、と震えたら。玲央が、ふ、と笑って。  頬から耳に、するりと指を滑らす。   「オレが、どこ触っても、気持ちよくなるように、したいんだけど……」 「……っ」 「いい?」  ……いい?って――――……。  ……っそんなの……。 「っこれ以上……」 「ん?」 「これ以上は、なんない、と思うけど……」 「……ん?」 「オレ、今も……そうだから……」  今だって、もう、  玲央が触るとこ、全部、ゾクゾクするから。 「――――……あぁ。 今も、オレが触ると気持ちいいってこと?」 「…………っ」  頷くと。  玲央は、くっと笑って。 「……もっとな。気持ちいいって泣くくらい」 「……っ……」  ……もう無理。  玲央の肩に額を押し付けて、沈み込む。 「優月?」  笑いを含んだ声で、名を呼ばれる。 「――――……わっ……」  顔を上げられないでいたら、ふわ、と体が浮いて。  かと思ったら、背が枕に沈んで。自分の体勢に気づいた時には、上に居る玲央を、見上げていた。 「……だから、今日は、それの心の準備はしなくていいけど」 「――――……っ……」 「気持ちいい事、いっぱい覚えろよ」  くすくす笑う玲央に、息を飲んでると。  顔の横に玲央の手がついて。  ドキドキして、動けないまま。 唇に、深く深く、キスされた。

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