92 / 856
第92話◇
【side*玲央】
優月の顔を見つめたままいつのまにか眠りについて。
もぞもぞ小さく動く気配に目が覚めると。優月がオレに背を向けた所だった。
変わらず腕の中には居るけれど。
何となく背を向けられた事が不満で、後ろから抱き締めた。
「何で、背中向けたんだよ?」
聞くと、決まりが悪そうに、「え。何となく……?」と答える。
真正面から抱かれてるのが恥ずかしいとか。そんなとこかな、と思うと。可愛く思えて。
「ふーん?」
と、わざと耳元に口を寄せると。くすぐったがって、肩を竦める。
ついさっきまで触ってたのに。
もっと、声を聞きたくなって。触り心地の良い肌に触れたくなって。
胸を撫でてると、焦った優月が振り返ろうとしてくる。
触れたい衝動が止まらなくなって、そのまま乳首を刺激した。
「っ……れお?」
「……ここ、気持ちよくなってきた?……」
「……や……」
胸と首筋に触れてるだけで、簡単に息が上がって、顎が反る。
あー……ほんと、感度、良い。
「……ん、ン……っ」
首を振りながら、手を押さえて、止めようとしてくる。
「……や……」
「――――……嫌か?」
「……すぐ――――……」
「すぐ、なに?」
「……ぞくぞく、しちゃうから……っ」
「して良いよ」
――――……逆効果なの、分からないんだろうか。
そんな事を言われて、ここでやめる男が居ると、思うのかな。
優月の首筋に舌を這わせながら、早くも反応してるそれを刺激する。びくん、と震えながら。
自分ばっかり気持ちよくて嫌、みたいなこと言いだした。
最後までしていいのに、と。
つーか。お前気持ちよくするのが楽しいって思ってんのに。
……自分ばっかりじゃやだとか……ほんと。可愛いな。
納得させてから、優月をイかせて。優月が落ち着いた時に。
さっき、考えていたのを、聞いてみる事にした。
「セフレって、意味分かってる?」
そう聞いたら。優月は、しばし固まってしまった。
「うん、意味わかってる、と思う……どうして?」
……ほんとに、分かってんのかよ。
優月の頬に触れる。
「セフレって何?」
「何って……セックス……する関係?」
「――――……」
……そのまんま、だな。
…………分かって言ってんのか?
優月との間に、セフレなんて言葉は入れる気はなかった。
今居る、お互い納得済みのセフレとは違う気がして。
相手も経験多くて、お互い干渉せずのセフレと、優月を一緒にするつもりは、無かった。
……なのに、セフレになりたいと言いやがって。
……ほんとに、意味わかってんのか。と。思ってしまう。
セックスするだけの、セックスでつながっただけの、関係だぞ。
お前は、オレとセックスだけ、してりゃいいって事かよ。
「……お前、ほんとにオレのセフレになりたいの?」
「……だって、玲央と会いたいし……」
「――――……オレ、セフレ、他にもいるけど……」
「それは、最初から知ってるよ……?」
「――――……嫌では、ねえの?」
「――――……」
オレが他のセフレと会うの、嫌じゃないのかよ?
「……セフレとか――――……優月の柄じゃねえなと思うんだけど」
「――――……」
黙ってしまった優月に、続けて、そう聞いた。
「玲央じゃなかったら……そんな事言わなかったと思うけど……」
「――――……」
「……だって、もともと……玲央がそういうの、自由なの知ってて、オレ、玲央の所に来たし――――……」
「――――……」
……そもそも知ってて来たから、大丈夫、て事か?
割り切ってる、て事か。
「……玲央、何が聞きたいの?」
………何が聞きたい?
そんなの一つだ。
優月が、セフレなんてものに、本当になりたいのかって、事。
「――――……セフレなんて、そんな関係……優月はいいのか?」
そう聞いたら、長い、沈黙。
その後。
「……セフレでいいのって――――……セフレがやだって言ったら、どうするの?」
聞かれた言葉に、核心をつかれて、今度は玲央が沈黙してしまう。
セフレが嫌だって、優月が言ったら。
普通に恋人になりたい、と言われたら。
――――……。
優月が恋人……。
……なら、大丈夫、だろうか。
過去の色々が脳裏に浮かんで、結論を躊躇う。
「うそ。やだなんて、思ってないよ」
「――――…」
少し黙ってしまったら、ぱっと表情を変えて、優月が明るく、言った。
「オレ、玲央と会いたいし。……玲央とキスするのも、触ってくれるのも、好き。だから玲央が良いなら、今のまま――――……会ってくれる時に会えたら……嬉しいんだけど」
「――――……」
「オレと会ってない時に、玲央が誰と会ってても、気にしないし」
「オレと会ってない時に、玲央が誰と会ってても、気にしないし」
「……オレが他のセフレと会っても、お前は、いいのか?」
「うん」
「……嫌じゃねえの?」
「……? だって…… もともと知ってて、オレ、玲央と会ったし……」
優月は、何でもない事のように、そう言う。
「オレと付き合う、とかは……考えねえの?」
「……付き合うって?」
「恋人とか――――……思わねえの?」
久しぶりに、人に、「恋人」という単語を出した。
自分でも。まだ相応の覚悟が出来たとはいえない状態だったけれど。
でも。少しでも――――……久しぶりに、そうなる可能性を。
少しだけでも、考えて。
そう聞いたら。
「思わないよ」
さっきからずっと、考えながらのゆっくりな返答だったのに。
この質問に対してだけ、ものすごい、即答。
何だか何も言えずにいると。
「だって、オレ、男だし――――……玲央の恋人なんて……無理」
その言葉に、ふ、と思考が止まる。
――――……男だから。
……恋人は、無理、か。
――――……確かに。
……男の恋人は、今まで作った事、ねえな。
「――――……分かった」
今の言葉で、とりあえず、決めた。
「セフレが、良いんだよな? お互い束縛なし、干渉しない。会った時に、楽しむ。で、良いんだな?」
「うん」
「――――……会いたくなったら連絡入れる。お互い都合があえば、会う」
「うん。他には……?」
「……本気になったら終わり。どっちかに恋人ができた時も」
「……ん、分かった」
何だか――――……言ってる内に、嫌になってきた。
優月が、普通に、うんうん頷いていくのが、また更にムカつくし。
「――――……いっこ聞きたいんだけど」
「……うん?」
「……オレが、お前以外の奴、抱くの、ほんとに嫌じゃねえの?」
「――――……」
――――…完全に割り切って、考えられんの?
優月は、じっとオレを見つめながら、しばらく考えていて
その内、うん、と、頷いた。
「…………」
……なんか――――……すげえ、苛つく。
「……優月」
「――――……?」
引き寄せて、唇を重ねて、抱き込む。
少しも後ろに退けない位に抱きしめて、舌を絡める。
「……ん?……ん、ぅっ……」
少し藻掻く優月。
離す気は、無い。
「……ッン……ぅ、ん……っ」
本気で、キスする。
舌を絡めて、口内を嬲って、呼吸を奪う。
「……っ……ふ……は……っ……」
「――――……めちゃくちゃ……気持ちよく、してやるよ」
セックスがつなぐというなら――――……。
もう無理って、なるくらい。
――――……優しく。気持ちよく。してやる。
ともだちにシェアしよう!