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第92話◇

【side*玲央】  優月の顔を見つめたままいつのまにか眠りについて。  もぞもぞ小さく動く気配に目が覚めると。優月がオレに背を向けた所だった。  変わらず腕の中には居るけれど。  何となく背を向けられた事が不満で、後ろから抱き締めた。 「何で、背中向けたんだよ?」  聞くと、決まりが悪そうに、「え。何となく……?」と答える。  真正面から抱かれてるのが恥ずかしいとか。そんなとこかな、と思うと。可愛く思えて。 「ふーん?」  と、わざと耳元に口を寄せると。くすぐったがって、肩を竦める。  ついさっきまで触ってたのに。  もっと、声を聞きたくなって。触り心地の良い肌に触れたくなって。  胸を撫でてると、焦った優月が振り返ろうとしてくる。  触れたい衝動が止まらなくなって、そのまま乳首を刺激した。 「っ……れお?」 「……ここ、気持ちよくなってきた?……」 「……や……」  胸と首筋に触れてるだけで、簡単に息が上がって、顎が反る。  あー……ほんと、感度、良い。 「……ん、ン……っ」  首を振りながら、手を押さえて、止めようとしてくる。 「……や……」 「――――……嫌か?」 「……すぐ――――……」 「すぐ、なに?」 「……ぞくぞく、しちゃうから……っ」 「して良いよ」  ――――……逆効果なの、分からないんだろうか。  そんな事を言われて、ここでやめる男が居ると、思うのかな。  優月の首筋に舌を這わせながら、早くも反応してるそれを刺激する。びくん、と震えながら。  自分ばっかり気持ちよくて嫌、みたいなこと言いだした。  最後までしていいのに、と。  つーか。お前気持ちよくするのが楽しいって思ってんのに。  ……自分ばっかりじゃやだとか……ほんと。可愛いな。  納得させてから、優月をイかせて。優月が落ち着いた時に。  さっき、考えていたのを、聞いてみる事にした。 「セフレって、意味分かってる?」  そう聞いたら。優月は、しばし固まってしまった。 「うん、意味わかってる、と思う……どうして?」  ……ほんとに、分かってんのかよ。  優月の頬に触れる。 「セフレって何?」 「何って……セックス……する関係?」 「――――……」  ……そのまんま、だな。  …………分かって言ってんのか?  優月との間に、セフレなんて言葉は入れる気はなかった。  今居る、お互い納得済みのセフレとは違う気がして。  相手も経験多くて、お互い干渉せずのセフレと、優月を一緒にするつもりは、無かった。    ……なのに、セフレになりたいと言いやがって。  ……ほんとに、意味わかってんのか。と。思ってしまう。  セックスするだけの、セックスでつながっただけの、関係だぞ。  お前は、オレとセックスだけ、してりゃいいって事かよ。 「……お前、ほんとにオレのセフレになりたいの?」 「……だって、玲央と会いたいし……」 「――――……オレ、セフレ、他にもいるけど……」 「それは、最初から知ってるよ……?」 「――――……嫌では、ねえの?」 「――――……」  オレが他のセフレと会うの、嫌じゃないのかよ? 「……セフレとか――――……優月の柄じゃねえなと思うんだけど」 「――――……」  黙ってしまった優月に、続けて、そう聞いた。 「玲央じゃなかったら……そんな事言わなかったと思うけど……」 「――――……」 「……だって、もともと……玲央がそういうの、自由なの知ってて、オレ、玲央の所に来たし――――……」 「――――……」  ……そもそも知ってて来たから、大丈夫、て事か?  割り切ってる、て事か。 「……玲央、何が聞きたいの?」  ………何が聞きたい?  そんなの一つだ。  優月が、セフレなんてものに、本当になりたいのかって、事。 「――――……セフレなんて、そんな関係……優月はいいのか?」  そう聞いたら、長い、沈黙。  その後。 「……セフレでいいのって――――……セフレがやだって言ったら、どうするの?」  聞かれた言葉に、核心をつかれて、今度は玲央が沈黙してしまう。  セフレが嫌だって、優月が言ったら。  普通に恋人になりたい、と言われたら。  ――――……。  優月が恋人……。  ……なら、大丈夫、だろうか。  過去の色々が脳裏に浮かんで、結論を躊躇う。 「うそ。やだなんて、思ってないよ」 「――――…」  少し黙ってしまったら、ぱっと表情を変えて、優月が明るく、言った。 「オレ、玲央と会いたいし。……玲央とキスするのも、触ってくれるのも、好き。だから玲央が良いなら、今のまま――――……会ってくれる時に会えたら……嬉しいんだけど」 「――――……」 「オレと会ってない時に、玲央が誰と会ってても、気にしないし」 「オレと会ってない時に、玲央が誰と会ってても、気にしないし」 「……オレが他のセフレと会っても、お前は、いいのか?」 「うん」 「……嫌じゃねえの?」 「……? だって…… もともと知ってて、オレ、玲央と会ったし……」  優月は、何でもない事のように、そう言う。 「オレと付き合う、とかは……考えねえの?」 「……付き合うって?」 「恋人とか――――……思わねえの?」  久しぶりに、人に、「恋人」という単語を出した。  自分でも。まだ相応の覚悟が出来たとはいえない状態だったけれど。  でも。少しでも――――……久しぶりに、そうなる可能性を。  少しだけでも、考えて。  そう聞いたら。 「思わないよ」  さっきからずっと、考えながらのゆっくりな返答だったのに。  この質問に対してだけ、ものすごい、即答。  何だか何も言えずにいると。 「だって、オレ、男だし――――……玲央の恋人なんて……無理」  その言葉に、ふ、と思考が止まる。  ――――……男だから。  ……恋人は、無理、か。  ――――……確かに。  ……男の恋人は、今まで作った事、ねえな。 「――――……分かった」  今の言葉で、とりあえず、決めた。 「セフレが、良いんだよな? お互い束縛なし、干渉しない。会った時に、楽しむ。で、良いんだな?」 「うん」 「――――……会いたくなったら連絡入れる。お互い都合があえば、会う」 「うん。他には……?」 「……本気になったら終わり。どっちかに恋人ができた時も」 「……ん、分かった」  何だか――――……言ってる内に、嫌になってきた。  優月が、普通に、うんうん頷いていくのが、また更にムカつくし。 「――――……いっこ聞きたいんだけど」 「……うん?」 「……オレが、お前以外の奴、抱くの、ほんとに嫌じゃねえの?」 「――――……」  ――――…完全に割り切って、考えられんの?  優月は、じっとオレを見つめながら、しばらく考えていて  その内、うん、と、頷いた。  「…………」  ……なんか――――……すげえ、苛つく。 「……優月」 「――――……?」    引き寄せて、唇を重ねて、抱き込む。  少しも後ろに退けない位に抱きしめて、舌を絡める。 「……ん?……ん、ぅっ……」  少し藻掻く優月。  離す気は、無い。 「……ッン……ぅ、ん……っ」  本気で、キスする。  舌を絡めて、口内を嬲って、呼吸を奪う。 「……っ……ふ……は……っ……」 「――――……めちゃくちゃ……気持ちよく、してやるよ」  セックスがつなぐというなら――――……。  もう無理って、なるくらい。  ――――……優しく。気持ちよく。してやる。   

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