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第94話◇

【side*玲央】  優月と朝食を食べ終わって、すぐマンションを出てきた。  5分の道のり。  優月は楽しそうに、絵の習い事の話をしてて。それを聞いてる間に、あっという間に、学校に着いていた。  ギリギリまで寝かせていたせいもあって、あと5分で講義が始まる。 「あ、もうこんな時間だ。オレ一番遠いとこだから急がないと。玲央、じゃあね?」  オレが頷くと、優月は急いで走り去っていった。  何となく、その後ろ姿を見送ってから、2限の教室に向かう。  広い教室に入って、誰の所にもよらず、窓際の端に座る。  肘をついて、窓から外を見てると、誰かが近寄ってくる気配。 「おはよ、玲央。隣座っていい?」 「由香……ああ」  通路から声をかけてくる由香に、頷いた。  一瞬躊躇ったけれど……別に、断るほどでもない。 「……眠そうだね?」 「……ああ……寝不足かも」  長い髪。ぱっと目立つ、派手な顔。  「そうなんだ……」 「……ん?」 「玲央今夜空いてるかなーて思ったんだけど……元気じゃないなら諦めようかな?」 「――――……別に元気じゃないって訳じゃねーけど」  言うと、ぱっと嬉しそうに由香が笑う。 「じゃあ行ってもいい?」 「んー…今日バンドの練習があるから。週末のライブで新曲やるし、練習何時までか分かんねえ」 「あ、そっか。ライブ、行くよ」  その時、少し遅れて教授が現れた。  私語にうるさい教授なので、由香も黙る。  今は都合が良かった。  ――――……練習が何時までか分かんなくても……。  別にその後、終わったら連絡すりゃいいだけ、なんだけど。  なんか気分じゃねえっつーか……。  小さくため息をつきながら、ノートを取る。文字をなぞってるだけ。何を書いてるかすら、いまいち良く分からないレベル。  講義も耳に入ってこない。    ――――……つか……。  ……昨日、優月と、セフレの事を話した時。  自分でも分からないままに「恋人」という単語を出して。  即、無理と言われて。  男同士でさすがに恋人は、無理。遊び程度のセフレでちょうどいいか、と、自分でもすぐに思ったのに。  ――――……苛つきが半端なくて。  そこから優月にした事は、正直、ひどかったと思う。  最大限気持ちいいと思う事をし続けて、限界で止めて、イかせず焦らして、また――――……あんなやり方で、あんなに泣かせたこと、今まで無かった。  ふっと意識を手放した優月の顔を見ていたら、急に罪悪感が襲ってきて。  色々考えていたら、全然眠れず、朝になった。  あんまりなやり方を、怒っても良いと思っていたけれど。  朝目が合った優月の瞳に、嫌悪はなくて。怒ってもいなくて。  何だか心底ほっとした。  ごめん、と、柄にもなく謝ったら、何でだか、真っ赤になって。  嫌われてなくて、良かったと、思ってしまった。  昨日も、優月を駅で待っている時間、最初は何となく色んな店をぶらついていたら、優月に似合いそうな服を見つけて、つい、買ってしまった。  勝手に買ったんだしそんなの気にしなくていいのに、服代払ういくら?としつこいので、金はいらないから今度、別の形で何か返してもらう、と言ったら、何で返せるか、真剣に考えてるし。  ぷ、と笑うと、ん?と怪訝な顔。    つーか。  1時間もわざわざ待って、そいつの服買ってとか。  優月はオレの事を知らないから、オレが元々そういう奴だと思ってるんだろうけど……オレ、待たされるとかすげえ嫌いだし。  用もねえのに、朝イチから一緒に学校なんか来ねえし。  ていうかそもそもよっぽどの事が無い限り、夜一緒に過ごしたりしないし、寝顔見ていたりもしない。    誰かの事をこんな風に考えるとか――――……。  正直、あんまり、しねえし……。  一緒に過ごす時は、そこそこ普通に優しくもするし、何か買ったりおごったりとかはするけど――――……一緒に過ごしてない時、セフレの誰かの事を思うなんて、殆どした事が無い。むしろ、しないようにしてきたし。    優月と会ってから、相当、オレらしくないのは分かってる。

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