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第99話◇

 あと少しの所で、優月の頭が、見えた。  余計、進みが、速くなる。 「……優月」 「あ。玲央」  ベンチに座って膝にクロを抱きながら、優月が見上げてくる。  その隣に座って、優月の膝にいるクロの頭を少し撫でた。 「……玲央は、3限大丈夫なの?」 「ああ」 「あの……もしかして、さっき会った時、オレが何も言わなかったから?」 「――――……ん?」  困ったような顔で、優月が見上げてくる。 「玲央、女の子と一緒だったし。邪魔しちゃダメかなと思って。普通知り合いなら話すけど……でもなんか、オレの立場からだと、声かけていいのかなーとか……」 「……何、オレの立場って」 「……あ、変な意味じゃなくて――――……さっきの子がセフレ、なら……何か……セフレ同士に挟まれて玲央が話すのも……変かなとか」  んーーー、と、どんどん首を傾げていく。 「それで、とりあえず声かけなかったんだけど、ここ来てから、話しかけた方が良かったのか、さっきので良かったのか、すっごい考えてて」 「――――……」  優月の眉毛が、ハの字になってる。   「考えてたから、会えて良かった。……玲央は、どっちが良いの??」 「――――…………はー……」  膝に肘をついて、頭を下げて。深く、ため息、ついてしまう。  セフレを連れてる時に別のセフレに会って、密かな火花を散らされた事はあるけど。  ――――…こんな風に聞かれたのは初めて。  ……つか、優月に、対抗心とかは、無いのか。  ――――……無さそうだな。 「玲央……?」 「……オレは、お前が何も言わないで通り過ぎてって、なんかムカついた」 「え?」  そんな答えが返ってくるとは思ってなかったらしい優月が、目をぱちくりさせて、オレを見た。 「え、だって――――……え、ムカつくって……何で?」  言いたい事は物凄く分かる。  ……オレが女を連れて歩いてたんだし。  邪魔しなかった優月に、ムカつくとか、普通、ねえよな。  話しかけた方が良かったかどうか聞きたかったか位で、まさか、オレの方がむかつくなんて、そんな事を言われるとは思わない、よな。  でも。 「……無視すんなよ」  片手で、ぶに、と優月の頬を寄せ、唇を突き出させる。 「……そんな事、言ったって……」  困った顔で、少し退いてる優月に。  また少し心が穏やかじゃなくて。  ふざけた触れ方はやめて、普通に顎押さえて引き寄せて。  唇を重ねさせた。 「……すげえ気分悪いから、無視すンな」 「――――……」  じ、と見つめ返してきていた優月は。  少しして、目をパチパチ瞬かせて。 「……でもオレ、さっきもさ、目合わせたし、無視はしてないよね??」 「そうだけど」  優月は少し黙って、それから、ふ、と、笑って、頷いた。 「じゃあ、声、一応かけるね」  一応って何だ。  またそんな言葉にも、引っかかる。  けれど、ふふ、と笑ってる優月が。  …なんか。  なんだか。  よく分からないけど、なんだか。  ……優月を見てると、あったかい。  それから、あったかいのとは別に。  ……すげえ、触りたくなる。

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