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第102話◇
たった今、おばちゃんたちとの会話で思い出していた、玲央が。
見える横顔だけでも、すごく綺麗な感じの女の子に腕を組まれて、歩いていた。
……えーと……。
邪魔しない方がいいよね。
とっさに思ったのは、それだった。
さっきまで一緒だったから、挨拶する事もないし。
女の子と一緒の玲央に、話しかけるような話題も、ないし。
ていうか、話しかけたら邪魔だよね。
そう思ったから。
目が合った状態で、少しだけにっこりして見せて。
そのまま、学校の方に、視線も足も、向けた。
――――……びっくりした。
学校の中ならここまで驚かないけど、ここ、学校の裏に出て、さらに進まないと来ないから、玲央に会うなんて、思わなかった。
「あ、クロ」
途中でクロを見つけて、一緒にいつもの場所に連れて行く。
「はい、食べていいよー」
クロにもエサをあげてから、自分のお昼も食べ始める。
はー、のどか。
ここに来る時は、1人のんびりしたい時だと知っているので、美咲も智也もついては来ないし、他の友達にも、ここを教えてはいない。
ぼーと考える時に、ほんと、良い。クロに癒されるし。
「――――……」
すっごいイケメンの子、って。
おばちゃん達も言ってたなあ。
また、玲央の事、考えてしまう。
玲央って、きっと、ただ歩いてるだけで、周りの人に見られてるんだろうなあ。特に女の子とか。……男でも見ちゃうかな。
オレ、去年文化祭で表彰されてた時以外、一度も玲央を見かけた記憶ないんだけど。しかもものすごい遠くからだったし。
……うーん、オレ知らない人の顔、あんまり見ないからな……。
蒼くんには、人物の絵も描くんだから、もっと人の顔に興味持てとか、よく言われるけど。
――――……前も、すれ違ってたのかなあ。
そうだ……さっき、オレ、何も言わないで、こっち来ちゃったけど。
あれで良かったのかなあ……?
腕組んで歩いてたから、友達じゃないよね。
やっぱり、邪魔しちゃダメだよね……。
て事は、あれで よかったんだよね。
顔見たのに、何も言わないで離れたとか……。
思われてないよね??
「――――……」
んー……セフレって……。
どうしてたら、普通なんだろ。
そもそも、恋人だって居た事ないのに、
セフレなんて関係、難しすぎて、何が正しいのか、全然分からない。
「――――……はー……」
ほんと……分かんないよー……。
できるだけ、玲央と、一緒に居れる限り、居たいと思うけど。
……できるだけ、変な事したくないし。
でも、セフレがどうするべきかとか。
……オレに正しいのが分かる訳、無いんだよね。
「はー……クロ……おいで」
考えるのに夢中で、味が良く分からなかったお弁当を片付けてから、クロを膝に乗せた。
ナデナデしてると、ほんと癒される。
はー。可愛い……。大好き、クロ。
……もう少しで授業かー……。
その時。
後ろポケットで、振動。スマホを開くと。
玲央からのメッセージだった。
『優月、3限、必修か? 必修じゃないなら、サボれる?』
と、入ってきてた。
何だろう。と考えてから。
「一般教養だから……1回くらいサボっても大丈夫だけど……何で?」
そう入れてみた。
普段サボらないし。……今、オレの人生で一番重要なとこにある人からの誘い出し。
……いいかな、と思って。
サボるってそれだけでも、オレにとっては、すっごく珍しい事、なんだけど。
『今お前どこにいる?』
「クロとご飯、食べ終わったとこ」
聞かれるままに答えると。
『とりあえず、そこに行っていい?』
その質問には、ん?と止まる。
ついさっき、女の子とどこかに向かって行ってたよね。
……ん? 一緒には、来ないよね??
ちょっと戸惑いつつ、「うん」と返した。
それきり、何も返信が無い。
……オレに、会いに来てくれるのかな?
………なんでだろ、急に3限サボって、とか。
うーん。
……なんか思い当たる事は、ひとつだけ。
さっき、話しかけずに、通り過ぎた事、かな。
――――……あれがあんまり良くなかった……とかかな。
でもなー……女の子と居るんだから、オレが話しかけたら、邪魔だよね。
んーでもなー、そこしか、ないかなあ。
だって……今朝は普通に別れたし。
さっきの一瞬の事しか、玲央との間に何もないし。
授業サボってまで会うような事、何が……。
しばらくクロを撫でながら、色々考えていたら。
後ろから玲央の声。
「……優月」
「あ。玲央」
……とりあえず、良かった。1人だった。
そんな感想と共に、玲央を見上げる。
――――……ほんと。カッコいい人だなぁ……。
見惚れてしまう。
玲央は、オレの隣に座ると、クロの頭を優しく撫でた。
ふふ。……自然と撫でてる。
何だか微笑んでしまう。
玲央って、猫、好きなんだろうな。最初に会った時も、クロに話しかけて、抱っこしてたもんね。触れ方が優しい。
「……玲央は、3限大丈夫なの?」
「ああ」
頷いた玲央を見て、心を決める。
「あの……もしかして、さっき会った時、オレが何も言わなかったから?」
「――――……ん?」
玲央は、不思議そうな声を出して、オレを見つめ返してくる。
「玲央、女の子と一緒だったし。邪魔しちゃダメかなと思って。普通の知り合いなら話すけど……でもなんか、オレの立場からだと、声かけていいのかなーとか……」
「……何、オレの立場って」
「……あ、変な意味じゃなくて――――……さっきの子がセフレなら、何か……セフレ同士に挟まれて玲央が話すのも……変かなとか」
言ってる内にどんどん、意味が分からなくなってくる。
オレが今言ってる事って、変?
オレの立場とか言った時、ちょっと玲央の眉が寄ったような……。
なんか、変な事、言ってるような気もしてきた。
「それで、とりあえず声かけなかったんだけど、ここ来てから、話しかけた方が良かったのか、さっきので良かったのか、すっごい考えてて」
「――――……」
とりあえず、最後まで、なんとか言い切ったけど。
……玲央が、何ともいえない顔で、オレを見つめ続けていて、ちょっと居た堪れない。
……もう。ここまで言ったんだから、最後まで言って、
玲央にどう思うか、聞いてしまおう。
分からない事は、聞くしか、ない。
「考えてたから、会えて良かった。……玲央は、どっちが良いの??」
「――――…………はー……」
意を決して聞いたのに。
玲央が、がっくりと俯いてしまって。ため息をついている。
「玲央……?」
わー……オレ、何か間違ってる?
……わかんないよー……どーしよ……。
言い直す? でもどこまで巻き戻ればいいのかすら、よく分からない。
「……オレは、お前が何も言わないで通り過ぎてって、なんかムカついた」
「え?」
ムカついた?
「え、だって――――……え、ムカつくって……何で?」
ムカつくような事だっけ……?
無視した訳じゃないし……あ、笑いかけたけど、気付いてなかった?
あれ、でも目、合ってなかったっけ……。
オレが無視した事に、なってる?
「……無視すんなよ」
玲央の片手が頬をつまんで、唇が出た変な顔にされる。
「……そんな事、言ったって……」
オレ、無視はしてない…。
ていうか、玲央の前で変な顔させないでほしいと、退いてると。
する、と顎を捕らえられて。そのまま引き寄せられてキスされた。
なんでキス……?
至近距離の玲央の整った顔を、ただ見上げる。
「……すげえ気分悪いから、無視すンな」
「――――……」
……だから、オレ……無視、してないよ。
そう思いながらも、何だか少し拗ねたように見える、めちゃくちゃカッコいい人を見つめていたら。
――――……何だか、少し、可愛く、見えてしまった。
可愛いなんて言ったら、怒られるかも、と思うけど。
「……でもオレ、さっきもさ、目合わせたし、無視はしてないよね??」
「そうだけど」
無視してない事、認めてくれたけど。
そっか。玲央は、ああいう時、何も言わずに通り過ぎられるのは、嫌な人なんだ……。
ふ、と笑ってしまう。
「じゃあ、声、一応かけるね」
ああいう時に、なんて話しかければいいのか、正直良く分かんないけど。
「女の子と居るから邪魔すんな」とかじゃないんだなーと思って。
無視されるの嫌だ、とか言う玲央が、可愛く思えてしまって。
「可愛い」なんて形容される人じゃないと、分かっているのだけれど。
なんか、愛おしくて。
じっと見つめてくる玲央の瞳を見つめ返しながら。
玲央といると。
胸が、ドキドキして、ふわふわと、浮いてるみたい。
――――……そんな風に、思ってしまった。
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