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第109話◇

  「ドアんとこで待ってたのに出てこねえから、見逃したかと思った……」 「……何で?」 「勇紀が、お前が一番でかい教室に居るって言うから、待ってた」  玲央は、じっとオレを見下ろしてくる。  あまりにまっすぐな視線に、何て言ったらいいか分からなくて、玲央を見つめ返していると。 「――――……さっき、置いてって、ごめんな」 「――――……」  玲央の言葉に、何も言葉が、出てこない。  さっきからずっといっぱい考えていた、聞きたい事も、なんでだか何も出てこなくて、頭が真っ白で。 ただ、玲央を見上げる。 「さっきの、嫌いじゃないってやつさ……本気になったら終わりって、オレが言ったのが、関係ある?」  また、何も、返せない。  そう、なんだけど――――……。  でも――――…… それ、頷いたら……。  オレが、本気で好き、だから、言えなかった、って事に  なっちゃう訳で――――……。  なんかもう――――…… 何も玲央に、言えないじゃん、オレ。  せっかく、来てくれても、何も――――……。  ……やば。  ――――……泣きそう。    咄嗟に、俯いた。 「優月?」  呼ばれるけど。顔、見れない。視界が、滲む。 「――――……優月?」  顎に触れられて、上向かされて、見つめあってしまった。 「……っ……」  いやだ、こんな事で、泣いてる顔、見られるの。  背けようとしたけど――――……。  「……っ……?」  唇が重なって。優しく、キスされた。  触れるだけ。すごく、優しいキス。  ゆっくり、少しだけ離れた玲央を見上げる。  「……れお……」 「――――……ごめん、泣かせて……」  頬に触れた指が、すり、と優しく撫でる。 「――――……あー……なんか……」  呟いた玲央に、ぎゅ、と抱き締められる。 「……ごめん――――……何かオレ、まだ、分かんねえ事ばっかで」 「――――……」 「……お前と会ったばっかりだし――――……今思う事しか、言えねーんだけど……」 「――――……」 「……オレ、お前のこと―――……可愛くて、たまんねえ」 「――――……」 「――――……お前と一緒に居たいって、すげえ思うし……お前の事、好きだと思う」 「――――……っ……」  ……今、好きって言った?  好きって。  と、思ってると。 「……お前にセフレになりたいとか言われると――――……なんか、ムカつくのも、初めてだし」 「……え?……ムカつく……の?」 「――――……セックスだけしてえの?って、思うし」 「え――――……っ……ちが……うん、だけど……」 「違うのは分かってるけど――――……なんかむかつく」 「――――……」  玲央のムカつきポイントが、よく、分かんない。  けど――――……怒ってるというよりは、拗ねてるみたいな言い方に。  戸惑うけれど、何だか――――……また少し、可愛くて。 「オレ、お前と、終わりにする気なんかねえから。……セフレとか言ったのも……もう1回、考えさせて」  そんな風に言う、玲央。  お互い、少し黙って、見つめあう。 「……玲央、あの……オレも……まだ会ったばっかりで――――……」 「……ん」 「……多分、オレの方が、全部、色々わかんないんだけど……」 「――――……」 「あの――――…… とりあえず、なんだけど……」  そこまで言って、でも、聞いて良いのか悩む。  どうしよう。  終わりにする気がないって、言ってくれたから――――……。  聞いても、いいかな……。 「とりあえず、なに?」 「――――……」 「……黙んなくて良いよ。つか、何でも言えよ。多分、オレ、お前の言葉、何も嫌じゃねえと思うから」 「――――……」  何かすごく、嬉しい事、言ってくれた気がする。 「とりあえず、何? 優月」  もう一度、促されて。  玲央を見上げた。 「あの――――……玲央のこと、好きって」 「――――……」 「……言っても良い?」  そう言ったら。  途端に、玲央が、ふ、と瞳を緩ませて、オレを見つめる。  う、わ。 「はー…… お前、ほんと可愛い」    頬に触れた指が、首をまわって、後頭部に置かれた。  まっすぐ玲央に向けさせられて、見つめあってしまって。    胸のドキドキが激しすぎて。  ――――……オレ、ほんとに、この人の事が、好き、なんだけど。  ……どうしよう。  と、思った瞬間。 「ずっと、言ってて良いよ」 「――――……」  言った玲央の唇が、重なってきて。  めちゃくちゃ優しいキスが絡む。  ずっと言ってて良いって……。  ……何それ。  ……なんか、可笑しく、なってしまうんだけど。  ――――……なんか。  すごく、嬉しくて。 「――――……ん……ふ……っ」  角度を変えて、何度も、口づけられてる内に。  涙が滲んできた。ぼやける視界で玲央を見つめてると。  気付いた玲央が、少し眉を寄せて、少しだけ唇を離した。  親指が涙を拭ってくれる。 「……泣くなよ」 「……なんか……嬉しくて、だよ……」 「……それでも、泣くな」  ちゅ、と頬にキスされる。 「――――……玲央」 「……ん?」 「……玲央のこと、好き」  結構な、覚悟で、そう言ったら。 「……ん」  ふ、と嬉しそうに、笑った玲央に、ちゅ、とキスされて。  ぎゅー、と、抱き締められた。

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