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第110話◇

【side*玲央】  本気になったら終わりと言ってあるから。  好きと言えなかった……?  もう、さっきの優月の頑なな「嫌いじゃない」の理由は、もうそれしかないと、思えてしまって。  ――――……マジで。オレ、最悪。  固まってるオレを見つめて、3人は顔を見合わせる。 「……分かりにくいけど、あれは落ち込んでる?」 「とりあえず、固まったな……」 「……絶対、練習無理だろ、あれ……」  ぼそぼそ。勇紀、甲斐、颯也の声。 「……あのさ、玲央。優月さ、一番でかい教室って言ってたから……3号館の1階の教室だと思うんだよね」  勇紀の言葉に、続いて。 「練習、歌無しでやってるから、謝ってきたら?」 「……ここに居たって、練習ちゃんと出来ねえだろ」  甲斐と、颯也の声も続く。  聞き終えると同時に、立ち上がった。 「悪い。行ってくる」  そう言ったら、3人とも、何とも言えない顔をした。 「……んだよ?」 「いや。……いつも、そういうの面倒くさがるのに」 「今日は行くんだなー、と思って」  甲斐と勇紀が面白そうに言って、颯也も、ふ、と笑ってる。 「仲直り出来たら、連れておいでよ。いってらっしゃーい」  勇紀に言われながら、部室を出る。  ――――……嫌いじゃない。  言われて、腹が立った。  好きだと、言わない優月に。  ……本気になったら終わり、と言ってあるから――――……。  本当に好きだから、好きだと言えなかった、て、事なら――――……。  もし、優月に確認して、オレの事が、好きだと分かったら。  ――――……好きだと分かったら、どうするんだ?  セフレが何人も居て。  ――――……恋人は、欲しくなくて。  男同士で。  セフレ位なら良いけど、感情込で男と付き合うって――――……。  まだ全然、整理できない。  正直まだ会ったばかりで、知らない事ばかりだし。  でも。  ――――……ただ、思うのは。  優月の事が――――……可愛くて、しょうがない、て事で。  教室の出入り口の前で待ってると、授業が終わった学生たちが次々に出てくる。何だか、すごく、ソワソワして落ち着かない。  出てきて――――……オレを見つけたら。  どんな顔をするんだろう。  ――――……離れていくかも……?  気付かないふりして――――……素通りするか?  それも仕方ないけど――――……そうだったら、追いかけるか?   普段なら、そんなの絶対、追いかけない。  別にそれまでの関係だと思う。というかそもそも、ここに来てない。  全然考えがまとまらないまま、ずっと優月を探しながら待っていたけれど。  出てくる列が途切れても、出てこない。  ――――……見逃した? はずは、ねえんだけど。  オレが買った服、ちょっと目立つ青だし……。  思いながら、中を覗くと、1人、机に突っ伏していて。  洋服からも、形からも、優月――――……。  ――――……何だか……ドキドキする。    話しかけた時、あいつは、何て言うだろう。どんな顔、するだろ。  ――――……でも、授業が終わっても、一人立ち上がらずに、伏せているのは、きっと、オレのせいで。  ――――……きっと、オレの事を考えてくれているのだと。思って。 「……お前、何、してンの……?」  自分で、少し、緊張気味な声だと、思ってしまう。  ば、と顔を上げた優月は、ただただ驚いた顔。 「ドアんとこで待ってたのに出てこねえから、見逃したかと思った……」 「……何で?」 「勇紀が、お前が一番でかい教室に居るって言うから、待ってた」  まっすぐに、見つめてくる瞳。  良かった。まだ、ちゃんと、オレを見つめてくれて。 「――――……さっき、置いてって、ごめんな」  後悔してる事を、まず口した。  優月は、何も言わず、ただ、見上げてくる。  まっすぐな瞳。  さっきは、視線を外して、置き去りにした。 「さっきの、嫌いじゃないってやつさ……本気になったら終わりって、オレが言ったのが、関係ある?」  そう聞いたら。  優月は何も答えなくて。  ふっと一瞬眉を寄せた後。俯いてしまった。 「優月?」  ――――…泣いてる? 「――――……優月?」  たまらなくなって、顎に触れて、顔を上げさせる。  一瞬見つめあった瞳は、涙で潤んでて。  見た瞬間、色んな感情が湧いてきて。  何もまとまらないまま。  勝手に、体が、動いて。 「……っ……」  ゆっくり。キス、してた。  触れるだけの。それ以上は、今はできなくて。 「……っ……?」  見上げてくる瞳を見て、強く思うのは。  優月を、泣かせたくない、という想いで。 「……れお……」 「――――……ごめん、泣かせて……」  頬をなぞる。触れてると、余計に、思う。  ――――……こんなに可愛いって思ってんのに。  ……オレ、何してんだ。 「――――……あー……なんか……」  思わず呟いて、抱き締めてしまう。 「……ごめん――――……何かオレ、まだ、分かんねえ事ばっかで」 「――――……」 「……お前と会ったばっかりだし――――……今思う事しか、言えねーんだけど……」 「――――……」  腕の中にある、優月の存在が。   ――――……すごく大事だと、思う。 「……オレ、お前のこと―――……可愛くて、たまんねえ」 「――――……」 「――――……お前と一緒に居たいって、すげえ思うし……お前の事、好きだと思う」 「――――……っ……」  優月が下から、見上げてくる。  お前を、好きだと思うのに――――……セフレとかって……。  じ、と見つめ返す。 「……お前にセフレになりたいとか言われると――――……なんか、ムカつくのも、初めてだし」 「……え?……ムカつく……の?」 「――――……セックスだけしてえの?って、思うし」 「え――――……っ……ちが……うん、だけど……」 「違うのは分かってるけど――――……なんかむかつく」 「――――……」  そんな風に言っていると、困った顔してる優月が、なんか、可愛い。 「オレ、お前と、終わりにする気なんかねえから。……セフレとか言ったのも……もう1回、考えさせて」  まだ、分からない。  今のこの気持ちが、この先どうなってくとか。この関係がどこに落ち着くとか。全然、はっきりは言えない。  でも――――……お前の事は、ずっと好きな気がする。  何か本気でそう思う位――――……気に入ってる。  そんな風に思ってる自分が、少し不思議で。  黙って優月と見つめあってると。 「……玲央、あの……オレも……まだ会ったばっかりで――――……」 「……ん」  優月が、そんな風に、話し出した。 「……多分、オレの方が、全部、色々わかんないんだけど……」 「――――……」 「あの――――…… とりあえず、なんだけど……」  しばらく待つけれど、言葉が続かない。     「とりあえず、なに?」 「――――……」  聞くけれど、続きが出てこない。 「……黙んなくて良いよ。つか、何でも言えよ。多分、オレ、お前の言葉、何も嫌じゃねえと思うから」  …何だか、ほんとに、そう思う。  優月が素直に向けてくる言葉なら、何でも、受けれそうな気がする。 「とりあえず、何? 優月」  もう一度促すと。  心を決めたように、顔を、上げてきた。  こんな必死な顔をして、何て言うつもりなんだろう。 「あの――――……玲央のこと、好きって」 「――――……」 「……言っても良い?」  優月はそう聞いて、少し不安そうな、一生懸命な顔をして、見上げてくる。  好きって言っても良いかって。  何だそれ――――……。  ……やばい。  ――――……可愛すぎる。 「はー…… お前、ほんと可愛い」    優月に触れて、まっすぐ自分の方を向かせて。  その瞳を見つめる。  ……ごめんな、好きって言って良いか、なんて聞かせて。  ――――……言って良いに、決まってるし。  ていうか――――……むしろ……。 「ずっと、言ってて良いよ」  自然と、そんな言葉が出ていた。  キスしたくてたまらなくて、唇を重ねさせる。  ――――……可愛い。 「――――……ん……ふ……っ」  ふ、と感じた視線に目を開けると、優月の瞳に涙が潤んでて。 「……泣くなよ」  拭いながら言うと。 「……なんか……嬉しくて、だよ……」  とは言うのだけれど。 「……それでも、泣くな」  言いながら、ちゅ、と頬にキスする。と。 「――――……玲央」 「……ん?」 「……玲央のこと、好き」  一生懸命な顔で、そんな風に言われる。 「……ん」  ダメだな。   ――――……可愛すぎ。  キスして、抱き締める。 「優月」 「…ん?」 「……オレ色々あって、恋人は要らないって思ってて――――……。本気になられると困るから、好きだとか、可愛いとか、言わないようにしてた訳」 「……うん」 「……でもオレ、お前が、可愛くて。言わないようにしてたのに、つい、言っちゃうんだよな……」 「――――……」 「……好きって思われるのも、面倒で嫌だったんだけど……お前が、嫌いじゃないとか、言うのなんかイラついて。何で好きって言わないんだって、すげえ思って…」 優月が、じっと見上げてくる。 「オレは、お前に、好きって言って欲しい」  優月はしばらくオレを見つめていたけれど。  少し泣きそうにも見える、でも、嬉しそうな笑顔で。  オレの瞳を見つめたまま、頷いた。 「オレ、お前のこと可愛いって思ったら言うし、好きだってのも、お前には言う。だから――――……お前も、言って?」 「……うん」 嬉しそうに笑った優月が愛しくて。  もう、思うまま、抱き締めて。  よしよし、と、頭を撫でた。

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