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第111話◇

「――――……優月、今日用事ある?」 「ないよ」 「とりあえず、オレ今練習抜けて来ててさ。練習あるから、戻らねえといけないんだけど……」 「あ、うん。ごめんね」  言いながら、優月が立ち上がった。 「つか、オレが悪いんだから謝んな」  そう言ったら、優月はじっとオレを見上げてきて。  それから、くす、と笑った。 「……じゃあ――――……来てくれて、ありがと」 「――――……」  にこにこ笑ってそう言う優月に、何だか、すごく照れる。  なんだかくすぐったいと言うのか――――……。 「……ん」    呟いて頷く。 「……な、今日もオレと過ごせる?」  聞くと、優月はまた嬉しそうに、うん、と頷いてから、あ、と止まった。 「明日の必修の授業のノート、無いとダメだから、オレ今日は家に帰らないと……」 「ああ……じゃあ一緒に取りに行く」 「え?」 「……なに?」 「……オレんち、付き合ってくれるって事?」 「だって、その後、オレんち連れてくし。ダメ?」 「……良い、けど……良いの?」 「良いっていうか、それしかないだろ?」  優月は、んー……と少し困った顔をしてる。 「でも、面倒だよね?……あ、そうだ。玲央が練習してる間に、オレ、取ってきて、戻ってくるよ」  良い事思いついた、とばかりにそう言う優月の頬を、ぶに、とつまむ。 「一緒に行くって言ってんだろ?」 「――――……う、ん」  照れたみたいに笑う優月が可愛くて、ちゅ、と頬に口づける。 「――――……練習見においで」 「え。見に行っていいの?」 「いいよ」 「行きたい」 「じゃあ行こ」  嬉しそうな優月の腕を引いて、一緒に教室を出た。  さっき、ここに向かっていた時は、気分最悪だったから。  ニコニコの優月が、 隣に並んで歩いてるのが――――……やたら、嬉しい。  らしくない感情にまた、くすぐったいと感じる。 「あ、ちょっと飲み物買う」  自販機の前で止まって、適当に4本購入。 「悪い、半分持って?」 「うん。 バンドの人に?」  2本優月に持ってもらう。 「ああ。抜けてっから。  優月は何飲む?」 「んと……カフェオレがいい」 「これ? こっち?」 「こっち」 「ん」  優月のも一緒に買って、練習場所へと歩く。 「場所20時までだから、結構待たせるかも。夕飯、その後で大丈夫か?」 「うん。全然大丈夫」 「ん」  練習場所に着いて、ドアを開けた。 「おっそ、玲央!やっと来たー」 「もうオレら大分合わせたから、あと歌だけだぞ」  そんな声に、悪い、と言いながら。 後ろに連れてきた優月を、部屋に招き入れた。 「あ、優月!」  勇紀が、何だかやたら嬉しそうに笑いながら、優月に駆け寄ってくる。 「玲央と仲直りしてくれたの?」 「え。……別に、喧嘩してた訳じゃないよ?」 「あれ?そうなの? 玲央がアホみたいなことでキレたんじゃないの?」 「……優月、飲み物貸して」 「あ、うん」  勇紀の余計な言葉を遮りながら、優月から受け取ったペットボトルを勇紀に「好きなの取って」と渡す。 「おーサンキュー」  勇紀が3人で分けに行くのを見送りつつ。 「優月、こっち来て」  物珍しそうに部屋を見まわしてる優月の肩に触れて歩かせる。 「ここ座ってな」  部屋の端にあるソファに連れて行き、さっき買ったカフェオレを渡して、座らせた。 「待ってて、終わるまで」 「うん」  素直に座って、笑顔で見上げてくる優月に、ふ、と笑って、くしゃ、と髪を撫でる。  それから、くるりと体の向きを変えて、3人の方に歩こうとした瞬間。 「はー?なに? 優月相手だと、甘々になっちゃう訳??」  勇紀が大げさに騒いで笑って、甲斐と颯也に言ってる。 「るせ。 ……悪い、待たせた。やろうぜ」  あまり反応せずに一蹴して、そう言うと。  3人は苦笑いを浮かべながら、配置についた。 「とりあえず新しい3曲、仕上げよ」 「OK」  曲の演奏が始まって、歌い始める。  ――――……何も考えずに、優月連れてきたのだけれど。  ………なんか、すげえ、恥ずい。ような気がする。  ……なんだこれ。  初体験な感情。   ……つか、照れくさいとか、あんまり考えた事なかったな…。  3曲、歌い終わって、「まあとりあえずいっか」と颯也が言うので、さっき配った飲み物で、一旦休憩。 「ねー玲央さあ」  隣に来た勇紀が、ぷぷ、と笑って。 「なんか照れが入ってない?」 「……入ってねーし」 「嘘だよー絶対、なんか照れてるよねえ?」  ぷぷぷ、と可笑しくてたまらないと言った顔で、近寄ってくるので、「まじでウザイ」と、押しのけた。

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