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第113話◇

   結局19時半過ぎには、練習がお開きになった。  優月も一緒にご飯食べに行こうよと誘ってくる勇紀に、オレよりも早く、 玲央が。 「これから用あるから無理」 「ていうか、オレ今玲央に聞いてねーし!」  苦笑いで勇紀が突っ込んでる。 「なあ、優月と話したいよね、甲斐も颯也も」  くるりと、少し後ろにいる2人を振り返って、勇紀が言うと。 「まあ……色々興味はあるな」 「オレも……」 「ほらほら、甲斐も颯也もこう言ってるし」  ……興味って何だろう。  困ってるオレを、玲央が勇紀から引き離して、自分の隣に引き戻す。 「今日はオレがまだ色々話したいから、無理。またな」 「――――……」  まだ色々話したいって。  ……オレと。色々、何を話してくれるんだろ。  そんな風に思いながら、玲央を見上げる。 「今度でいいだろ、優月?」  玲央が、まっすぐ優月を見つめてくる。  今度。……今度、この中に入れてくれるってこと?  勇紀は仲、いいから良いけど……。  次から次に浮かぶ疑問に、何とも答えられず、オレが玲央を見上げていると、1人の人がオレに一歩近づいた。 「オレ、甲斐。 で、こっち、颯也ね。呼び捨てでいいから。オレらも、優月って呼ぶし。――――……なんか、お前、長い付き合いになりそーだし」  こっち、と言われた颯也が、じっとオレを見つめてくる。  顔、めちゃくちゃ整ってる人達だなー……。このバンド、顔良い人ばっかり。  そんな風に思っていると、颯也の目が、少し緩んだ。 「長い付き合い、ね。そだな。……よろしくな、優月」 「……あ、うん。 よろしく」  長い付き合い……になる、のかな? なにを思ってそんな風に言うんだろ……?  かなり戸惑いはありつつも、頷いてから。  あ、そうだ、と3人に笑いかけた。 「急に練習見せてもらってごめんね。すっごく良かった。ありがとう」  オレを見てる3人に、とりあえずお礼を言わなくちゃと思って、そう言うと。不意に、颯也が、くっ、と笑い出した。 「? え?」 「あ、いや――――…… 悪い、なんか……」  クックッと笑って。そのこらえきれない笑いをなんとか抑えようとしてるみたい。 「何ー? 颯也がそんな風に笑うの、珍しいんだけど」  面白そうに笑って、勇紀が、なになに?と聞いてる。 「玲央が落ち着くのが、ここなのかと思ったら、何か……つい」  そんな事を言った颯也に、玲央は、すごく嫌そうな顔で。 「……お前、マジで、うざい」  低くそう言った。 「……はいはい、悪かったって」  颯也は、玲央にそう言ってから、ふ、とオレを見つめた。 「ほんと、色々だらしないけど……まあまあ、良い奴だから」 「フォローする気ねえよな……」  すかさず低い声で玲央が突っ込みを入れてて。  そんなやりとりが可笑しくて、オレがくすっと笑うと、横で玲央がため息をついた。 「……もう行こうぜ、優月」  ぐい、と腕を引かれる。 「うん、あ、待って?」  ソファに戻って、荷物を持つと、玲央の隣に並ぶ。 「じゃあ先行くぞ」 「はーい。 またねー、優月」 「うん」  3人に挨拶しつつ、部屋を出ると、もう、あたりは真っ暗だった。 「先に飯行くか?それとも優月んち行ってから、また家で注文して食べる?」 「帰ってからゆっくり、でもいい? オレの家、ここから歩いて20分位」 「どっち方面に20分?」 「駅から、歩いて十分。電車に乗れば、すぐ着くけど」 「じゃとりあえず駅まで歩くか」 「うん」  一緒に並んで歩きだす。  隣を歩く、めちゃくちゃ派手な人を見上げてしまう。 「ん?」 「――――……」 「何?」 「……ううん。バンドの練習、見せてくれてありがと。なんか……特等席て感じ、嬉しかったし、すっごくカッコ良かった」 「――――……ん」  くす、と笑って、玲央が頷く。  ほんと――――…… なんでこんなにカッコいいかなあ?  ほんとに、ただぼー、と、見惚れちゃう。 「……玲央のバンドってさ」 「ん」 「相当カッコいい人ばっかりなんだね」 「……最初オレと甲斐でやろうって言い始めて。それから甲斐が、顔と人気で、颯也と勇紀を選んだからな」 「あ、そうなの? なんかすごいね」  そんな決め方もあるんだーと、うんうん頷いていると。 「……つか、お前の好みは誰?」 「え?」  咄嗟にまた玲央を見上げる。 「お前の好みなのは、誰って聞いてんの」 「――――……」  何聞いてるんだろう、この人は。  本気で、聞いてるのかな?  それとも、玲央って、言わせたいだけ?? からかってる?? 「……玲央、に決まってるじゃん……」  そう言うと、玲央は、ニヤ、と笑って、オレの頭を撫でてくる。 「別の奴の名前言ったら、どうしてやろうかなーと思ってた」  ……え。  ……本気で聞いたって事??……な事、ないよね??  何で答えたらいいのか迷っていると.玲央が、そんなオレを見下ろして、クスッと笑った。   「嘘だよ――――……絶対オレの名前言うと、思ってた」  可笑しそうに笑いながら「んな面白れぇ顔すんなって」と、玲央が言う。  ……も、ほんとに分かんないから。  ……からかわないでほしい…。  隣で可笑しそうに笑ってる、めちゃくちゃカッコいい人を見上げながら、 ふ、と息をついた。

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