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第116話◇

 練習がやっと終わって、3人に構われてる優月を自分のもとに引き戻した。  長い付き合いになる、だの。  オレが落ち着くのがここだと思うと笑える、だの。  なんだか勝手に楽しそうな3人と別れて、2人で一緒に歩いて優月のマンションにたどり着いた。 「すぐ用意するから、待ってて?」 「ん」  何でなのか、自分の家なのに居心地悪そうにしながら、優月が奥の部屋に消えていった。  ――――……なんとなく、少し部屋を見回す。  綺麗にしてんな。なんとなく、優月っぽくて……心地良い部屋。  ふと、机の上にある2枚の紙が目に入ってきた。 「――――……」  ――――……これって。  そっと、触れる。  これって、絶対――――…… オレ、だよな。  ……いつ描いたんだ、これ。  月曜からずっとオレのマンションに連れてきてたんだから、描いたのは金土日のどっかだよな。  ――――……オレとの約束。  考えながら、描いてたって、事だよなきっと。  なんかすげえ、カッコよく描いてくれてる気がする。  ふ、と笑ってしまっていると。  背後から優月の声がした。 「玲央、おまた――――……」 「なあ、これって、オレ?」  優月の言葉を遮って、振り返りざまそう聞いた。  その質問に不思議そうな顔をした直後。   「ち……ちが――――……」  ぶるぶる首を振りながら否定してるけど。  一生懸命、取ろうとして来る優月の反応。  否定するだけ、無駄だよな……。 「違くないよな? オレだろ?」 「……っ……」  みるみる真っ赤になっていって。 「すげー真っ赤……」  優月って、なんでこんなに真っ赤になるんだろうか。  頬、また、熱い。 「何で? 別にいいじゃん。うまいし」 「……っ……」 「もらっていい?」 「……っ……」  すごい首を振られて、拒否される。 「何で?」 「……っ……月曜の約束を……どうしようって、考えてた時に……ついつい、手が動いて……でも、顔見てたの数分だったし……なんかうろ覚えで……こんなのあげられない」 「――――……でも、絶対オレだって分かるけどな」 「――――……っ」  何を言っても、ブルブル首を振ってる。 「何でそんな恥ずかしいの? 真っ赤すぎだっつの」 「……っ……」  どこまで赤くなるんだろう。そう思いながら見ていたら、涙まで浮かんできた。  ――――……泣いた? なんで?  もう、何か、謎。 でも、可愛い。 「あーあ、泣いてるし……」  思わず笑ってしまう。絵を、机に置いて、抱き締めた。 「ほんと――――…… 可愛いなーお前」  キスして、舌、絡めて、髪の毛を撫でてやってると。  ――――……少し落ち着いてきたらしい。  ちゅ、と頬にキスしながら、思わず笑ってしまうと、見上げてくる瞳。 「――――……絵、ちょーだい?」 「……っなんで……」 「んー。よく分かんねーけど……欲しいから」  よく分かんねえって言ったせいで、余計に、なんで、と思ったらしい。複雑そうな顔で見つめてくる。 「お前が、初めてオレを描いた絵だろ? なんか欲しい」 「――――……今度、ちゃんと、描くよ?」 「それもいいけどさ」 「――――……」  無言で見つめていたら。結局、もらえることになった。  ものすごい、渋々、だったけど。  優月が、初めて描いたオレの絵。  オレが持っていたいに決まってるし。  つーか。普段絵描いてる奴のくせに、何でそんな恥ずかしがるんだ? 絵って、描いたら見せるものなんじゃねえのか?  意味、わかんね――――……。  あー……。  ……オレが、優月の前で歌ってて、照れくさいのと、同じか?  なんかそう思ったら。  急に腑に落ちた。

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