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第121話◇

 めちゃくちゃキスした後。 優月がドライヤーをかけてくれて、2人でリビングに戻った。  さっきテーブルに置いた食事を袋から出して、並べていくと。 「中華も、すっごく美味しそう……」  ぱあ、と笑顔になる優月。  ……子供っぽい位、素直な笑顔。  ぷ、と笑ってしまいながら、「座れよ」と言う。 「あ、でもオレ着替えて来ようかな。玲央普通に服だし」 「オレは配達が来るから着ただけだし――――……いいよ、バスローブで」 「じゃあちょっと下着だけ履いてくる。なんか落ち着かないから」 「……ああ」  ふ、と笑いながら頷くと、優月がリュックの所に歩いて行った。 「優月、水でいいのか?」 「うん、水でいい。ありがと」  グラスに水と氷を入れて、テーブルに2つ並べた瞬間。  テーブルの上でオレのスマホが音を立てた。  下着を履いて、戻ってきた優月が座りながら、オレを見上げた。 「いいよ、出て?」 「ん――――……あー……いいや」 「……いいの?」 「ん。飯先にしよ」  由香だった。今日の夜、早く終わったらと言ったきりだから、電話してきたんだろうけど。  鳴り続けた電話が切れて。  ふ、と息をついた瞬間、もう一度鳴り始めた。 「オレ、待ってるから、出て?」 「――――……ん」  立ち上がり、通話ボタンを押して、耳に当てる。 「……もしもし?」  そうしながら、優月から少し離れて、窓際に立った。  窓に映ってる優月は、テーブルの上の料理を、楽しそうに覗き込んでる。 『あ、玲央? ね、今日はもう練習終わった?』 「練習は終わったけど……今日はちょっと無理」 『えーなんで? 今からでも行くよ?』 「――――……由香、無理だって」 『――――……んーー……』 「――――……」 『……分かった。 またね、玲央』 「……ああ」  最後の方、ものすごいトーンが落ちた由香との通話が切れて、ふぅと息をつく。こうなってくると……ドライな関係じゃなくなってくる。まあ辛うじて、何も言わず、電話は切れたけど。  すぐにテーブルに近付きながら、こちらを見てる優月と目が合う。 「――――……食べようぜ、優月」 「うん」  優月にもたぶん会話は聞こえていたとは思う。部屋の中は静かだから。  けれど、何も、表情に出さず、にっこり笑ってる。 「……優月、あのさ」  何か言おうと名を呼んだ瞬間。手に持ってたスマホが、また鳴った。  由香か?と思い、スマホを見ると、今度は、奏人だった。  ああ――――……今週どっかで、とか、言ってたっけ。 「ちょっと待ってて、すぐ終わらせるから」 「うん」  また少し、離れた。 「……もしもし?」 『あ、玲央?』 「ん、何?」 『何って。……すごいツレないなー。 今週どこかで会えないって聞いたじゃん?』 「……悪い、ちょっと無理」 『明日も明後日も無理なの?』 「……ああ」 『別に、何時からでもいいよ? 学校の空き時間とかでも、いーし』 「――――……また今度でいいか? 今ちょっと忙しいから」 『……ん、分かった。空いたら連絡して? オレはいつでもいーからさ』 「……わかった」 『じゃあね、玲央』  奏人はいつも通りな感じで電話を切った。  大体セフレから誘われたら、空いてる時を教えて、とにかく、会わないという返事をした事が、ほとんどなかった。  ……優月が聞こえる所に居るから、どう思ってるかが何となく気になって、必要以上にそっけなくなってしまって。だから余計に、食い下がられたんだと思うけれど。  ――――……セフレからの誘い、面倒って思ったの、初めてかも。  長押しして完全にマナーモードにしたスマホをソファに置いて、優月の近くに戻った。 「もう大丈夫?」 「ああ」 「じゃあ食べよ? すっごい美味しそう」 「ごめんな待たせて。食べていいよ」 「うん」  優月の隣じゃなく、真正面に座る。 「あれ? そっちなの?」  きょとん、とした顔。 「お前の横にいると、どーしても触っちまうから……」 「――――……な……」  ぼぼぼ。  赤くなる。  可愛くて、ぷ、と笑ってしまう。 「もう遅いし、普通に食べていいよ」 「……ん、いただきます」  手を合わせて、そう言って、まだ赤くなったまま、食べ始める優月。  電話については、  全然、気にしていないように、見えるけど。  何となく、じ、と見つめる。

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