123 / 850
第123話◇
自分の中の想像のムカつきを優月に押し付ける訳にはいかず。
なんとか、気持ちを落ち着けながら、話し始める。
「……優月さ」
「……うん」
「オレが誰かと寝るとか、ほんとに気になんねえの?」
……オレは、相当ムカつくけど。
「――――……全然気にならないっていうんじゃないんだけど…… うーん……でも、やっぱり最初から分かってたっていうのと…… あと、ほんとに、オレが言う事じゃないっていうか……」
困った顔の優月。
どうやら、心底そう思ってるらしい。
何だかよく分かんねえけど、これもまた、厄介、な気がする。
「……じゃあ、お前は?」
「え?」
「オレが他の奴としていいなら――――……お前も、誰かと、すんの?」
「何を?」
「誰かと、そーいうこと。すんの?」
「――――……」
数秒無言の後、優月は、ものすごい勢いよく、ブルブル首を振った。
「っオレが違う人とするわけないじゃん。ていうか、オレ、誰とするの?」
焦ったみたいに、そう言ってる。
ちょっと、ほっとする。
その感情も、内心、ちょっと意味が分からないが。
その瞬間。遠くでブーブーと、長い振動音。
オレのはさっきマナーモードにしたから優月のか……。
しばらく鳴り続けてるので、メールなどでなく、着信ぽい。
「……電話じゃねえの?」
「あ、うん……でもご飯中だし。玲央と話してるし、あとでいいよ」
一度は切れたのだけれど、もう一度鳴り始めた。
「……急用かもしんねーし、出てきたら?」
「……うん。ごめんね」
立ち上がって、リュックの所に歩いていく。
何となくその後ろ姿、見送りながら。
何を話せば通じあうのか、いまいち分からない。
オレと優月のそっち関係の経験が、違いすぎて、
それから、オレ自身が、今までの自分と、何だか違いすぎて。
さらに、優月の反応が、思ってるのと、どうも違いすぎて。
――――……でもとりあえず、優月はオレ以外の奴とする気は、ない。
ていうのは、良しとして。
別にオレも今優月と居たいから、誰ともする気もねえし。
……あとは、なんだ?
なんか色々話したいのに、どうしたいのかが良く分からない。
むしろ、今まで、悩むとか考えるとか無く、いつも直感で即決で生きてきたから。
――――……全部初めてで、ほんとよく分かんねえな。
「あ。なんだ、蒼くんか……どーしたの? 電話珍しい」
優月が笑いながら話し始める。
「ん。――――……うん。うん。ふふ。でしょ」
……楽しそうだな。
「……だって蒼くんより上だもん……。……うん。……ん?? ――――……んー……どうだろ……わかんない…… うん…… ん。…… ……っ……まだ、だよ……」
なんか優月がうろたえてるので、ふと目を向けると。優月、顔、赤い。
何を話してそんな顔してる訳。
「……っとにかく、分かんないけど、まだなの…… あーもぅ、また話すから……。 それ以上用ないなら切るよ――――……ん? ……そう。……そうだよ。……っ……だから、わかんないって……。え? ……あ、えっと――――…… 聞いてない。 うん。分かった。 ……はい。じゃあね」
通話を切って、スマホを置いて。
はー、とため息をつきながら、うずくまってる優月の背中。
「優月?」
「……あ、うん。 終わった」
顔が、まだ赤い。
――――……オレだけに赤くなるのかと思ってたら違うのか。
誰と話して、そんな、可愛い顔して――――……。とか。何言ってんだオレ。ほんと……。
でも。かなり。
……なんでだか、ムカつく。
……何がムカつくのかよく分からないが、とにかくこの感情は、ムカついてるとしか、思えない。さっき、優月が誰かに抱かれるとこを想像しかけた時も死ぬほどムカついたけど。
……今回、実際誰かと話して赤くなってるから、
なんだか、ムカつきが、さっきの比じゃない。
が、それを思い切り優月に言うのは、さすがに躊躇う。
なぜなら――――……。
これって。
オレが 今まで、ひたすら鬱陶しいと思ってた事だから。
ともだちにシェアしよう!