124 / 850
第124話◇
「……誰から?」
結局、それだけは、聞いてしまった。
「え? ……あ。 えーと……蒼くんって言って……絵の先生の息子さん。ていうか、蒼くんも先生みたいなものなんだけど……」
「……それ、昨日も一緒に居た奴?」
「あ、うん。そう」
「――――……仲いいの?」
「んー……7才から知ってるからね。ほんとのお兄ちゃん、みたいかなあ。いっつもからかわれてるだけな気もするけど」
そんな風に言いながら、ふ、と息を付きながら、椅子に戻ってきた。
……からかわれてる?
――――……可愛がられてンじゃねえの?
……そこは、何だか口にできない。
オレの心中も全く気付かず、優月は水を一口飲んでから、まっすぐオレを見つめてきた。
「……それよりさ、さっきの話なんだけどさ」
「――――……ん?」
「……オレは、玲央が居てくれる間は、玲央としかしないよ……?」
「――――……」
相当、ムカついていた、のだけれど。
……なんだか、そんな言葉と可愛い言い方に、ちょっと。いやかなり、ムカつきが、軽減する。
現金な自分に、少し、呆れる。
「ていうかさ、オレ、玲央でいっぱいいっぱいなのに、他の人に行く余裕なんて、ないし……」
「――――……」
もう。玲央ってば、何言ってんだろう、とばかりに、優月が口をとがらせて文句を言ってる。
――――…… 腕の中に、引き込みたくなる。
……何で、こんなに、可愛いって、感じるんだろ?
………すげえ、謎……。
「……優月」
「……ん? 何?」
「早く食べて」
「……え? うん。食べるよ?……ていうか、オレもう、結構食べたんだけど……」
確かに、たまにポカンと口開いてる時以外は、ずっともぐもぐ食べてはいた。
「――――……触りたいから。早く食べ終わって」
「――――……っ」
ぴた、と箸が止まる。
……逆効果か……。
何も言わずに食べさせた方が早いか。
そう思って、黙ってると。
「……あのさ、玲央」
「ん?」
「……こっち、来て?」
「――――……」
「……ここに居る時いっつも、隣座ってるから……なんか、遠い」
「――――……」
つか。 ……お前、バカなのかな。
そんな風に可愛い感じでもごもご言われて、隣に行ったら、オレ絶対、お前に触るけど。
――――……触る、ていうか……
ただ触るだけじゃ済まなくて、ベッド直行だけど。
「もう、食べなくていい? 良いなら、そっち行く」
聞くと、優月がぱ、と顔を上げて、オレを見つめた。
恐らく、何となくでも意味が分かった瞬間なんだと思う。かあっと、赤くなった。
「……こ、れだけ食べちゃう」
皿にのってる食事に視線を落として、優月は言った。
残してもったいないとか言ってたから、一昨日のよりは、注文を少なめにしたんだけれど、やっぱりまだ少し残ってる。
「じゃ食べ終わってから行く。オレ隣に行ったら絶対触るし」
「……」
ん、と、赤い顔で、頷いてる。
――――……ほんとすぐに、赤くなる。
可愛い。
……つか。オレ以外の事でも――――……さっきも赤くなってたな……。
何話して、電話で赤くなってたんだ。
やっぱり、少し、心にひっかかる。
……これって、オレ、何が気になってるんだろ?
ともだちにシェアしよう!