132 / 856
第132話◇お互いに。
【side*玲央】
翌日。1限と2限の合間。
席を取って、廊下から、下を覗き込んだ。
なぜかと言うと。
この窓は、優月と出会ったあの場所の斜め上にあるので、下を見ると芝生とあのベンチが見えるから。
――――……優月、居ないか。
……まあ、昼時でもねえし。 居る訳ないか。
ていうか、ここから見てる奴が居たら、オレ達がキスしてたの、丸見えだったな。……まあ別に良いけど。
――――……今日、風、気持ちいいな。
なんとなく、ぼーーっとその場所を見つめながら、風に当たっていると。昨夜から、ついさっき迄の事が思い浮かぶ。
昨日も結局最後まではしないで終わらせた。
散々イかせて、キスして、後ろ慣らして。
そこまで結構な時間もかけてたし――――……「大好き」とか言った後くらいからは、半分、うとうとし始めて。
あまりに可愛く思えてしまって、一緒にイって、寝かせてやる事にした。
まあ。別に、今更急いでもねえし。
朝起こしてシャワーを浴びさせて、食事を食べて、1限の優月に付き合って学校に来た。1限は部室でソファに寝転んで、ライブの曲を聞きながら過ごした。
優月とのこんな生活が、何だかおかしい。
朝が早くて、一緒にしっかり朝飯を取って、朝に学校に来て。しかもオレには1限がないのに。
――――……健康的な生活が、笑えてくる。
優月と会う前まで、誰かとセックスして、夜中まで起きていて、朝遅く起きて、2限に間に合うように学校について。授業を受けて遊びに行って誰かと会って――――……みたいな、そんな生活だった。 食事も、特に朝はまともに取ってなかったっけ……。
「クロー?」
そんな声に、ふと下を見ると。
――――……優月だ。
昼だけじゃなくて、こんな隙間の時間にも、ここに来る訳?
「あ、クロいた、おいでー」
3階だけど、優月の声が結構聞こえる。優月の声がわりと高めだからだろうか。一瞬呼びかけようとしたけれど、何だか少し観察したくなって、口を閉じた。ちょっとした、好奇心。
「おはよークロ」
よしよし、とクロを撫でながらそう言って、優月はその場にしゃがみこんだ。急いでコンビニに買いに行ってたのか、はあ、と息を整えながら、缶詰を開けて、紙皿みたいな物に移してるのが見える。
「食べていいよ」
クロの頭を撫でながら、優月が言うと、クロは食べ始めた。
角度的に、ちょうど優月の顔が、何となく見える。
ふ、と微笑みながら、クロを見つめてるのが分かる。
「今日お昼来れないからさ。ちょっと早くてごめんね」
なんて、話しかけてる。
はは。 なんかほんと――――……無邪気。
クロは食べ終わると同時に、すり、と優月の脚にすりよった。
「んー、なんでお前はこんなに可愛いかな~…… 美味しかった? 明日はおやつ持ってきてあげるからね」
そんな風に言いながら、クロを撫で回している。
――――……は。なんかあいつって、いつか騙されそう。
ちょっと心配になる。
……つか、今オレと、色々なってる時点で、ちょっと騙されてねえかな?
ほんとなら、優月とオレなんて、接点も一切無く、少しも絡むはずの無かった関係な気がする。
あそこでクロを挟んで会って、会話が無ければ。
学校ですれ違うだけなら、一切触れあわずに、過ごして終わった筈。
知り合う事もなくて。
触れ合う事もなくて。
可愛いなんて、思う事も、無く。
「――――……」
何だか。
――――……すごく、ざわつく。
ともだちにシェアしよう!