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第135話◇

 授業が終わり、皆と一緒に教室を出て歩きながらも、ずっとモヤモヤしていて。でもここでわざわざ、さっきの玲央の話だけど、とか言い出して、庇うのもなんだかな、と思うと、何も言えず。  ……しかも、オレさっき、玲央の事好きだしとか、口走りそうになってたけど……それって変かな?とかも思ったり。 「優月、今日は一緒にご飯いく?」  皆はいつもこの時間が終わると、大体同じメンバーでそのままご飯を食べに行っている。オレもこのまま行く事もあるのだけれど、クロの所に行ったり、智也達と食べたりもするから、毎回確認される。  でも今日は、今まで確認された中で一番、不機嫌に答えてしまった。 「……オレ、今日は約束があるから」 「ああ、神月と?」 「……違うけど」  思わず、ますますムッとしてしまうと。  先を歩いていた皆が、くる、とオレを振り返った。 「……優月、もしかしてさっきので怒ってる?」 「……怒ってないけど」 「怒ってるじゃん?」 「めずらしー」  皆、人が怒ってると思ってる割には、何だかクスクス笑ってて、余計にムカムカしてしまう。 「……別に怒ってるんじゃないし。でも皆、よく知らないのに……」  我慢できなくて、言った瞬間、だった。 「優月?」  ――――……あ。この、声。  振り返ると、予想通り、玲央が立っていた。  もしかして、オレと玲央って。今までもちょくちょくすれ違ってたのかな。  気付かなかっただけで。  学校では会った事が無いと思い込んでて、会えないと思っているから、急に会えると、すごく心が弾む。 「玲央……」  ああ、なんか。  朝まで一緒だったのに、改めて会うと、めちゃくちゃ、カッコいい。  ただでさえ目立つのに、身に着けてる物がカッコ良すぎて似合うから。  ……なんか、ファッション雑誌のモデルがそのまま雑誌から抜け出て、歩いてるみたいな。  ていうか、きっと、どんな格好しててもカッコいいんだろうなあ……。  ――――……カッコよすぎるから、皆の評価が、ちゃらいとか、なんかそんなのになってしまってる気がする。  もう完全に、イメージだよね。  カッコよすぎるっていうのも、大変なんだなあ……。  なんて、そんな事を思っていたけれど。  急な玲央との遭遇のせいで、話してた皆との間にちょっと気まずい雰囲気が流れているのにはっと気づいた。そりゃ噂してた所に、張本人がいきなり現れたら、こんな雰囲気にもなるよね……どうしよ、と思った瞬間。 「……優月、どした?」 「え?」 「……なんかちょっと元気ないか?」  ……近い。玲央。  頬にでも触れてきそうな。キスでもされてしまいそうな。  なんかそんな雰囲気で、じっと見つめられて。 「……ううん、元気だよ?」  焦りながら、かろうじて、笑顔でそう答えたら。 「………ならいいけど」  そう言いながら、優しく笑んで。  くしゃ、と頭を撫でられた。   「……あとでな、優月」  何だか皆が妙な感じで固まって、こっちを見ているのに。こっちというか、ほとんど皆、玲央を見てるのに。  玲央は、そんな視線はものともせずに、オレだけに視線を向けたまま、ふ、と笑って、立ち去って行った。  ――――……ああ……もう……。  ……ほんとに、全部カッコイイな……。  何でか誰も何も言わない、変な雰囲気が流れている中、オレがそんな風に、ぽけー、と玲央の後ろ姿を見送っていると。   「……神月って、あんなだっけ?」  吉原が、不意にそう言って、オレに視線を向けてくる。 「あんな、って?」 「なんか、雰囲気変わったな」 「……そうなの?」  前を知らないから何とも言えず、首を傾げていると。  まわりの皆も、笑いながら。 「……まあ、お前に優しいってのは、分かった」 「撫でるか? 普通、あんな風に、頭」 「とりあえず、背ぇ高いイケメンしかしねえよな……」  そんな風に言って皆が笑ってる。  でも、なんだかちょっと、玲央に対する嫌な感じの評価が少し変ったかも。そう思って、安心しつつも。  ……確かに。  ……大学生にもなって、しかもオレ男だし。  あんな風に優しく頭を撫でられちゃう事とか、普通無いよね……。  まあ、ぐしゃぐしゃと撫でられることは、オレ、割とある気がするけど。  玲央の触れ方は少し、違う気がする。  玲央の動作が、オレにとっては、あまりに自然すぎて、気にしてなかったのだけれど。なんだかちょっと恥ずかしくなってくる。 「オレ、友達と約束してるから、行くね! またね」  おー、とか、んー、とか、皆の声を後ろに、智也と美咲と約束してる学食に向かって走り出した。  ――――……良かった。  玲央が優しいの。皆、ちょっと納得してくれて。  でもなんか。  ……あんな風に、優しい瞳で見つめて、優しく頭撫でてくとか。  …………皆の前だと恥ずかしいかも。  でも大好きだけど。  皆から離れて、走る足を止めた。  むしろ、ゆっくり歩きだして。  手の甲で、頬に触れる。  ああ、なんか。  ――――……顔、アツい……。  

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