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第136話◇

 あ、居た居た。 「美咲、智也。ごめん、ちょっと遅くなった」 「大丈夫だよ。飯買いにいこっか」  智也の言葉に、美咲が頷いて立ち上がる。  オレも鞄を置いて、一緒に歩き出した。 「猫んとこ、行ったの?」 「うん。1限が早く終わったからダッシュで行ってきたよ」  美咲に聞かれて、そう答えると、ぷ、と笑われる。 「ほんとよく続くっていうか…」 「だってクロ可愛いんだよ」 「はいはい」  3人で、お昼をのせたトレイを持って席に戻った。  今日誘われたのは、美咲からだった。何の話かなーと思った瞬間。 「あたし、昨日さ。神月玲央にフラれた子と会って、もうちょっと詳しく聞いたのよ」 「え。 あ。 ……そう、なの?」  うう。 なんだろ?  少し、ドキドキしてしまう。 「あたしが前に話聞いた時は、フラれた直後で、めっちゃ泣いてたし、動揺してたんだけど――――……昨日聞いてたらさ」 「うん」 「……恋人は要らないからって最初から言われてたみたい。恋人ってなると重くて、束縛とかきつくなって、楽しく居られないから、要らない、それでもいいならって言われて、一緒に居てもらったんだって。でも好きになりすぎちゃって、告白したらフラれた訳で……」  美咲が言ってる言葉が、ストンと自分の中に落ちてくる。  うん。なんか、そんなような気は、してた、かも。 「今は落ち着いてるから、その子は、自分がいけなかったって言ってた。一緒に居た時は優しいし、とにかくカッコよくて大好きだったって」 「――――……」 「あたしは、好きって言った時に、うざい、重いって言われてフラれたのかと思ってたから、ほんとに最低だと思ってたんだけど… なんかそうでは、なかった、みたいなんだけど…」  うん。まあ。  オレは、そういうことなんだろうなとは、何となく、思ってた。  セフレでもいいから玲央と一緒に居たくて、でも居るうちに本気で好きになって…て。 うん。 すごく分かる。  分からないのは、それを聞いた美咲が、今どう思って、オレにそれを話してるかって、こと。 「――――ね……優月、もうあいつと、寝ちゃったの?」  美咲の直球な質問に、ぐ、と止まると。 聞いてた智也が苦笑い。 「美咲、聞き方……」 「だってこんなのはっきり聞かないと分かんないし」  美咲が、む、と智也を見返してそんな風に言ってる。 「……まだ、だけど」  聞いたくせに、美咲と。それから智也も、え?という顔でオレを見つめる。 「……まだなの?」 「――――……うん。まだ最後までは…… っってオレ、昼間から何言わされてんの。恥ずかしいんだけど……」  顔に血がのぼってくる。 「……え、何で、まだなの??」 「何で美咲わざわざ聞いといて……まだだとは思ってなかったの?」 「――――……思う訳ないじゃん。だって、今週ずっとあいつんとこ泊ってるんでしょ?」 「何で知って……」 「一昨日泊ったのは智也が言ってたし。昨日は、その髪型。……あいつがやってるでしょセット」 「…………」  うわーん。……美咲、鋭すぎる。  オレきっと、美咲には隠し事とかできないんだ。智也にもできないし。  ……玲央にもできないし。 「何でまだなの? もう3日よね?」 「――――……オレが、いっぱいいっぱいになっちゃうから……かも」  あと、めいっぱい慣らすって言ってたけど……。  そ、それは言いたくない。 口に出したら、顔から血が噴き出して、死んじゃうかもしれない……。 「……で? 美咲はさ、その子の話を聞いて、優月に何が言いたいの?」  智也が、オレの聞きたかった事を、聞いてくれた。  そうそう、それ。 「……ていうか、とりあえず食べながら話そ」  クスクス笑って、智也が言う。 うん、と頷いて、いただきます、と食べ始めて、少しの沈黙の後、美咲が口を開いた。 「……だからあたしは――――……友達本人は納得してて。だから、こないだあたしが言ってたほど、最低野郎では、ないのかもしれない。とは思ったんだけど」 「美咲……」  ちょっと嬉しい。 「んーでも。……やっぱり、優月があいつとっていうのを、喜べはしないけど……」  ……まあ。  オレも、美咲や智也が、セフレがいっぱいいる誰かの、セフレになる、とか言ったら喜びはしない。……ていうか、玲央に会うまでのオレだったら、やめといた方がいいって言ってしまうかもしれない。 「――――……なんかほんとに、心配かけてごめんね」  そう言ったら。  智也は、クスクス笑い出した。 「オレ、今んとこ、そんなに心配してないから」 「――――……?」 「神月ともちょっと話したけど……それなりに、優月との事を考えてそうだったし。あいつと居て、優月が楽しいなら、いいんじゃねえ? 最初からずっとそう思ってて、変わってないよ」  智也優しい。じーん、としてると。  美咲が、静かに箸をおいて、オレをまっすぐに見つめてくる。 「ていうか、あたしさ、優月に最初に嫌な情報与えちゃったから。とりあえず、それは消しとこうかなーと思って、今日は話しに来たの」  そう言って――――……美咲は、ふ、と笑った。 「でも前にあんな話をしてても、優月はあいつを好きって言ってた訳だし。多分、今のこの話も――――… きっと、自分の感覚では何となく分かってたんでしょ? 話聞いても、そうだったんだ!……て感じでもないし」 「んー……きっと、そうだったんじゃないかな、とは思ってたかな。まあ思いたかったっていうのもあるかもしれないけど……」 「あたしはまだ賛成はしないけど――――……結論としてしばらく見守る事にしよっかなぁと思ってるよ。まあ、よく考えたら……優月が、心底変な奴を好きになる訳ないと思うし」 「美咲……ありがと」  なんか。良かった。  玲央への、最低野郎というイメージが拭われただけでも、嬉しい。 「でさあ」  また、食事を再開しながら、今度は少し違う口調で美咲が呼び掛けてくる。 「うん?」 「――――……何でまだ、寝てないの?」 「――――………っ……」  智也の苦笑いが目の端っこに映る。 「……あいつ、する気ないの?」 「――――……っち、がう……と、思うけど……」  めちゃくちゃキスされるし。触れられるし。  ――――……ひたすら慣らされてる、から。   たぶんいつか、するんだと、思うけど。   「優月のことが大事すぎて、できないとか?って、そんなタイプじゃないか……」  ――――……大事にはしてくれてる気がする……かなあ。  優しいもん、なあ……。  ぽー、と、日々の玲央を思い出していると。  むにっ、と頬をつままれた。 「え。なに、美咲?」  びっくりして、つままれたまま美咲を見ると。美咲はぷ、と笑って手を離した。 「あたしの前で、あいつのこと思い出して、ぽけっとすんのはやめてよね」 「ぽけっとなんて……」  ……してたか。 「今日もあいつと会うの?」  頬をさすりつつ、クスクス笑いながら聞いてきた智也に目を向ける。 「うん」  頷くと、二人は苦笑い。 「……セフレって、そんなに毎日会うもの?」  美咲がちょっと悪戯っぽく、言った。 「ぁ。それじゃなくなったのかも」 「え?」 「なんか、よくわかんないんだけど……玲央が嫌なんだって」 「嫌?」 「なんか、それだけすればいいのって言われて……よく分かんないんだけど、なんかムカつくから、オレと、セフレは嫌なんだって」 「――――……へー」  智也が面白そうな顔をして笑ってて。  美咲は、ふうん……?と、色々考えてるっぽい顔。 「――――……だから今は……友達じゃ変だし。恋人じゃないし。何だろ……。そういう名前は、ないかも……」  言うと、智也と美咲は、顔を見合わせて、笑った。 「まあ。優月が困ったら聞くからさ」 「そうよ。 印象が最悪からすこし良くなったくらいで、あたしはまだ、反対の立場だからね? やっぱり心配だしさ。何かあったらすぐ連絡して」  大事な幼馴染の二人が。  特に、最初、ものすごく嫌がってた美咲が。  玲央のことを、絶対ダメと、言わないでくれるって。 「……うん。ありがと」  二人の言葉に、嬉しくなって。頷いた。

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