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第139話◇

「甲斐 大声出して珍しい。クールなキャラどこいった?」  心底面白いと言った顔で、勇紀が笑いながら、甲斐の隣に座った。  オレの隣に颯也。 「つーか、オレ、優月を試したら抹殺されるらしい」 「あ、優月の話? 試すって? 抹殺?」 「……べた惚れっぽい事を散々普通に言うから、優月ってそんなにいいのって聞いたら、それ以上想像したらぶん殴るっていうし。今までこんな会話、散々してきたし、なんなら、勝手に試せば、位の事言ってたじゃんって突っ込んだら」 「うんうん?」  勇紀、クスクス笑ってる。  颯也は、声がでかい、とか、注意をしてる。 「……優月を試したら抹殺するって言いやがったんだけど」 「あー……」  勇紀は、ぷっと可笑しそうに笑い出して。  あはは、と笑い転げてる。 「……それはしょーがないんじゃない? 甲斐が悪いでしょ」 「はー?」 「あー、オレも玲央に加勢するからね、優月にそんな事したら」  勇紀の言葉に、甲斐ははあ、とため息。 「……しねーよ。ほんとに、秘密裏に抹殺されそーだし」  疲れたように言ってる甲斐にクスクス笑いながら。  勇紀は玲央に視線を向けた。 「なんか、オレは、玲央が優月とって、すげー嬉しい」 「――――……つか、勇紀は何で優月と知り合いなんだよ?」 「あれ、オレこないだ言ったじゃん?」 「そうだったか?」  2人で首を傾げてると。   「あん時、優月が居なくなって、その後玲央も居なくなった」  颯也がそう言って、勇紀が、思い出した、というように笑った。 「そうだ。優月が逃げちゃった後だ、話したの。――――……あれだよ、オレが駅で具合わるくなった時に、助けてくれて、家までついてきてくれた奴の話、したでしょ?」 「――――……結構前の話か?」 「うん。そん時、助けてくれたのが、優月なんだよね。そっからずっと仲よくしてたんだ」 「――――……その話、人の良い奴がいるなと思って聞いてたけど……優月だって思うと……なんか、あいつらしいな」  くす、と笑うと。  勇紀が、笑いを引っ込めて。じ、と玲央を見た。 「――――……オレ、玲央がそんな風にふわふわ笑うの、初めて見たかも」 「……なに、ふわふわって。 そんなのしてねえけど」 「してるしてる。 もうお前、それ、マジでやばいから」  甲斐が突っ込み入れてくる。 「……してるか?」  1人何も言わない颯也と目が合って、そう聞いたら。  真顔で一息つかれて。 「……いいんじゃないの? 色んな奴と遊んでも全然満たされてないお前より、ずーっと良いと思うけど」  ……結局してるって側の意見か。……それにしても。  ざくざく刺されるみたいな、颯也の言葉。  ため息しか出てこない。  勇紀はぷぷ、と笑って。 「……颯也のが一番、突き刺さるよねー……」  満たされてないなんても事も無かった、と思うんだけど。  色んな奴と出会って、遊んで。  ――――……楽しかったし。 「でもさー……優月が一番いいの? 今までの相手の中で?」  まだ聞くか。と睨むと、だって気になるじゃん、と甲斐。 「――――……つか、まだ、全部はしてねえし」  3人、また、え、という顔で見てくる。  ……なんかこういうやりとり、慣れてきたぞ。 「……だって昨日も、一緒だったんだよね? え? 昨日もしなかったの?」 「――――……色々してるけど。まだ途中」 「途中ってどこまで……」  言いかけた甲斐に冷たい視線を向ける。 「……別にそっちが良いから、あいつと居る訳じゃねえよ。つか、もう想像すんなっつの」  そんな風に言って話を終えようとすると、颯也が、ぷ、と笑い出した。  珍しい。 「――――……優月絡むと、お前が、誰か分かんなくなるんだけど、オレ」  クックッと笑って、そんな事を言ってる。 「それ分かるー。今までの玲央、どこいった?」 「……うるせーよ」  そこで知り合い達がまとまって現れ、適当に周囲に座りだした。隣に女子が座ったりしてきた事もあって、優月の話はそこまでになった。  食事を取り終えて、ぼちぼち皆で立ち上がり、3限の教室に向かう。  途中途中で皆と別れながら、5号館の前に通りかかった時。  前方に優月を見つけた。  今まで、これっぽっちも視界に入ってきた事のない奴なのに。  ――――…目が勝手に、探しているんだろうか。  なんか、ものすごく、見かける気がする。優月は村澤智也と歩いていた。  優月は、智也の方を向いて、楽しそうに笑ってる。  ふ、と顔が綻びそうになったのに気付いて、引き締めた。  隣で話しかけてくる友人に応えながら、視線は前方、階段を上っていく優月に向いてしまう。3階まで上って廊下に出ると、優月と智也も、先の廊下を歩いていく。  次の授業。同じ校舎の同じ階なんだ。と、気付いて。  何だか、少し――――…… 気持ちが弾む気がして、おかしい。  優月が笑顔で頷いた後。  智也の言った何かの一言で、かあっと赤くなって。  智也に、肩をポンポンされてあやされてる。  そのまま押されて、優月は教室に入って行き、智也は、これからオレが向かおうとしている教室に入って行った。  ――――……つか。  優月、すぐ赤くなる……。  ……可愛いから、他の奴の前であんま、赤くなるなよな。    なんて、ムカつくのは。  ほんと、何なのか。 「……悪い、先行ってて」  一緒に居た皆にそう言って。  優月が入っていった教室に、足を踏み入れる。  ――――……居た。  誰かと話しながら、列の端に座ろうとしてる優月の腕に触れた。 「?」  不思議そうに、くる、と振り返った優月が、オレを見て、えっ?と目を丸くした。 「玲央……? え? どうし」 「4限の授業って時間に厳しい?」 「え? えっと……ううん、そんなんでも……」 「――――……この授業終わったら、この階の奥のトイレに来て?」  まわりには聞こえないように、優月にそう伝えた。 「――――……う、ん……わかった」  優月はすごくびっくりした顔のまま。  ただ、頷いてる。  その手を離して、オレは優月の居る教室を出る。前のドアから教授が入れ替わりに入ってきた。廊下に出ると、オレの教室に向かって歩いている教授の後ろ姿も見えたので、足早に向かい、後ろのドアから教室に滑り込んだ。  5限が終わるまで待てば、思う通りに触れるのに。  朝別れて。2限の前に上から優月を見て。  昼の前に、少しだけ、触れて。  ――――……今、別の奴に赤くなってる優月を、見て。  夕方まで待てない。 と、思うなんて。  ――――……オレ、絶対、おかしいよな。  なんでこんなに、触りたいんだか。  そうも、思うのだけれど。  やっぱりどうしたって、触りたくてしょうがないのは誤魔化しようがない。  ――――……早く、終われ。  始まったばかりの授業に対して、そんな風に思って。  片肘をついて、ノートに視線を落とした。

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