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第140話◇

【side*優月】  何だろ……。幻??じゃないよね???  ……玲央だったよね……?  腕に触られたから振り返ったら玲央が立ってて、トイレで待っててって。  何の前触れもなく、振り返ったら玲央が居るって。  居るはずのない、教室だし。  なんか、視界に強烈すぎて。ほんとにびっくりした。  ドキドキ、する。  ただ、かろうじて、ノートを取ってる間に、授業が終わった。  「あれ、優月、次行かないの?」 「あ、ちょっとだけ用があって。後から行く」  そう言うと、皆が先に教室を出て行った。  何となく、人気が無くなってからの方がいいかなと思って、誰も居なくなってから、立ち上がった。この静けさだと、次の時間、この階は使わないみたい。  ――――……玲央が言ったのって、奥の、トイレ……?  廊下に出て、そちらに視線を向けると。トイレの更に奥の大きな窓の所に、玲央を発見。 何だか、ドキドキしながら、近づく。 「玲央……」 「――――……優月、こっち」  ぐい、と引かれて、トイレの向かい側の教室に連れ込まれる。  ぱたん、とドアが閉められる。 「――――……もう誰もいねえし。こっちでいいよな」  むぎゅ、と抱き締められる。 「……玲央、どうしたの? さっき、びっくりした」 「隣の教室だった。お前と」 「あ、うん……そうなんだ。 でも、どうしたの?」 「――――……あの、さ」 「うん?」  腕の中に包まれたまま。  玲央を見上げると。  そっと頬に触れられた。 「――――……キスしていい?」  その言葉に。  思わず、くす、と笑ってしまう。 「……もう、聞かなくて、いいのに」 「――――……」 「……オレ、玲央に嫌なんて言わないよ」  玲央が、ふ、と瞳を緩めて、笑った。  ゆっくり唇が重なる。 「……1分だけ」 「――――……ん……?」  深く重なった玲央の舌が、急に中に入ってきて。 「――――……っん……っ……」  玲央とするキス。急に、激しく熱くなる。  その内、絡めた舌から伝う唾液を、こく、と飲み込んで。  ――――……背中に、縋る。  僅かな時間に、完全に翻弄されて。  少しして、舌が外れて――――…… 最後にちゅ、とキスされて、離れた。  全部食い尽くされるみたいなキス、こんな短い間で出来るんだ、と、びっくりしてしまう。  ……はあ、と、息をついて。  ――――……ゆっくり瞳を開けると。  玲央がクス、と笑った。 「――――……かわいいな、お前」  ちゅ、と頬にキスされた。 「……オレ、今日、ずっとお前に触りたかったんだよなー……」 「――――……ずっと?……」  ……朝別れてから、お昼前に会って、今さっきも会って。  ……今日、結構、玲央が見れて、オレはとっても幸せだったけど。  ……玲央は、オレに触りたかったの?  ずっと……??? 「……何で、そんなに、オレに――――……触りたいの??」 「……さあ。――――……可愛いから?」 「……オレ、そんな可愛い?」  よく分からない。  それに、玲央、オレに何回か言ってるけど……。 「……玲央、オレの事、好みじゃないって言ってたよね……?」 「――――……あー。言ったけど……」  けど……?  そう思って、見つめていると。 「――――……最初はそう思ってたけど」 「……けど?」 「――――……今、お前が一番可愛く見えるみたい」 「――――……っ」  たぶんオレ今。  一瞬で、最大に真っ赤になったと、思う。  顔、熱すぎる。  何それ。今お前が一番可愛く見えるって。  ――――……そんな事、面と向かって、そんな風に言われるって。  玲央。なんで全然恥ずかしそうでなく、言えちゃうんだろう。 「――――……すげえ、一瞬で赤くなったな……」  クスクス笑う玲央にぎゅ、と抱き締められてしまう。  よしよし、と後頭部を撫でられる。 「――――……優月」 「……ん?」  優しい呼びかけに、ドキドキしながら見つめ返すと。 「……可愛い」  見つめられて言われて。  頬にキスされる。  ――――……なんか。  玲央って。  ……甘々すぎ、なのでは、ないだろうか。  ずっとずっと、会った時から、優しいって思ってたけど。  ……日が経つごとに、どんどん、甘くなっていく気が、する。  なんかドキドキ、しっぱなしで。  もう、オレ、耐性が全然ないんだから、手加減してほしい……。 「いくか、授業。しょーがねえ」 「うん」  しょーがねえ、の一言に笑いながら、頷いた。  すると。  玲央が、開いた右の手の平を、オレの首の下、胸の真ん中に、置いた。  ――――……え?  びっくりして固まっていると。そのまま手を下ろしながら、人差し指で、体の真ん中をなぞって、ベルトの所で止まった。  え、なに――――……。  なぞっていく、綺麗な玲央の指を、びっくりしながら見守っていたら。 「後で、めいっぱいさわるから……覚悟してろよな」 「!――――……っ」  せっかく少し引いてた熱が、また全て顔に集まった。 「――――……」  妖しく笑う玲央に、ちゅ、とゆっくりキスされて。  もう心臓が痛くて。  なんなの、この人、ほんとに――――……。  ヤバすぎる。もう。ほんとに。もう。    それから、教室を出て別れて。  少し遅れながらも授業にもぐりこんだけれど。  もう、授業なんか、受ける気分じゃ全然ない。  僅かな時間の間に、玲央のした事や言った事が、  ずっと頭の中、巡ってて。  ずっとドキドキが継続してる。  ――――……心臓、働きすぎ。  玲央と居ると、完全にオーバーワーク。  ――――……もう強烈すぎて、困るけど。  それよりも、大好きすぎて、ほんと困る。  あんまりめいっぱい可愛がってくれなくていいから。  細々でいいから、ながーく、玲央と居たいんだけどなあ。なんて思いながら。  さっき体の真ん中を這った指先の感触を思い出すと、頭、変になりそうで。  変に思われない位で、けれど少し頭を抱えて、俯いた。  ……早く、玲央と――――……会いたいなぁ……。  もうそれしか頭になかった。

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