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第142話◇
「……玲央がやじゃなければ、も少し、見ててもいい?」
「ん? 空?」
「うん。もうすぐ沈むんだよね……沈むとこが、好きで」
「――――……いーよ。気が済むまで見てな」
うん、と嬉しそうなので。ふ、と笑い返して。
2人で並んで夕陽を瞳に映す。
「すごい綺麗……」
「……絵に描きたいとか、思うの?」
「うん。思う……」
優月は視線を逸らさず夕陽を見続けていて。
オレは、たまに空を見ながら、その優月を眺める。
まっすぐに空を見上げて、楽しそうな姿も。
猫と戯れている姿も。
ほんと。無邪気で。
――――……純粋な、感じ。
きっと、まっすぐまっすぐ、生きてきたんだろうと。
……優月の事をまだそこまで知らないのに、そう思ってしまう。
まっすぐな瞳で、見つめられると。
ちょっと恥ずかしいと思う位。
なんか、違う世界で生きてきた、気がする。
「――――……」
そっと手を伸ばして、優月の頭に触れる。
髪の毛、さらさらと撫でると。
優月がふ、とオレを振り返って。
嬉しそうに、にっこり笑う。
邪魔だろうかと思って、そっと手を離した。
空を見ると、もう本当に沈む所で。
もう空の大部分は暗くて、下の方に微かに、太陽の光が残ってる。
こんな風に、太陽が沈む所、見続けたのは、生まれて初めて。
いつもの自分なら、見てと言われても、興味がなくて見なかった気がする。
手を伸ばせば、すぐ触れられる。
こっちを見て、嬉しそうに微笑む。
――――…オレとはまるで、接点の無さそうな優月と。
触れ合えば、接点ができる。
完全に光が消えると、優月がオレを見上げた。
「ありがと、玲央。付き合ってくれて」
「…ん」
「――――……暇だった?」
「……いや? 暇じゃない。綺麗だった」
「……うん」
思うまま答えると、優月がまた、ふわっと笑顔になる。
「優月」
ぐい、と腕を引いて、口づける。
優しく、キスして、少しだけ絡めた舌をゆっくりと離して。
至近距離で、優月を見つめると。
「――――……なんかさ……」
「……ん?」
「……夕陽が沈むの一緒に見て……すぐ、こんな優しくキスされるって」
「――――……」
「すっごい、ロマンチックだなーて。思っちゃうんだけど」
玲央の真下で、そんな風に言って、クスクス笑う。
「――――……」
なんか気恥ずかしくて。返事が出来ない。
「あ。……そんなの思うの、オレだけ?」
照れたみたいに、ふっと視線を外して離れようとした優月の頬に触れて。
もう一度、ゆっくり、キスした。
「――――……なんかオレ……」
「……?」
「――――……色んな事、割と何でも知ってると思ってたんだけど」
「うん?」
「見ないで過ごしてきた事……すげえあるのかも」
「……え?」
優月は、オレの言った意味が良く分からなかったみたいで。
きょとん、として、見上げてくる。
「とりあえず、夕陽が沈むとこ、初めてちゃんと見た」
「? ――――……うん。……え? 初めてなの?」
「こんな風に見たのは初めてだな」
「……そう、なんだ」
――――……夕陽見て、楽しそうな優月を、好きだなんて思うのも。
今も、何だか――――……自分でも、よく分からないのだけれど。
「……玲央が知ってて、オレが知らない事は、いっぱいあると思うけど」
優月が、んー、と考え込んでる。
「……オレが知ってて、玲央が知らない事、あるかなあ」
「……あるよ」
「ある?? そうかな……――――……今、浮かばないけど」
優月がクスクス笑い出す。
「……知らない事、教え合っていけたら楽しいね」
まっすぐな瞳でそんな風に言った直後。
「あ、でも多分、玲央が10こ教えてくれる間に、オレ1こかも… いや、20この間に1こ……」
だんだん眉をハの字にしながら。優月がぶつぶつ言ってる。
「……ンなこと、ねえから」
ぷ、と笑ってしまって。
優月の頬にキスした。
「――――……飯食いに行くか? 食べて帰る?」
「うん」
一緒に、立ち上がる。
「優月、何食べたい?」
「んー……。あ。オムライスは? 玲央、好き?」
「いいよ。どこで食べる?」
「あるんだよー、駅のとこに。美味しい、オムライスのお店」
「へえ……」
「知らない?」
「ああ」
優月は、ふ、と嬉しそうに笑って、オレの腕に触れた。
「じゃあ、1こめ、教えてあげるね」
「――――……ああ」
嬉しそうな笑顔に、ぷ、と、笑んでしまう。
……1こめじゃ、ねえけど。
お前と居ると、なんか。
今まで思わなかったことを思うし。
――――……楽しそうに隣を歩いてる優月と、駅に向かいながら。
なんだか気持ちが穏やかすぎて。
……穏やか?――――……。
んー……。
「優月」
「え?」
くい、と腕を引いて、囁く。
「悪いけど早く食べて、早く帰ろうな?」
「え?」
「……早くお前に触りたいから、オレ」
「――――……っ……」
また、赤くなる。
んー。穏やかな時間もいいけど。
こういう顔見てると。
――――……早く、泣かせたいなー。と思ってしまう。
「さ、早く店行こうぜ」
「……うん」
赤いまんまで、優月が頷くのを見て。
よしよし、とまた、撫でた。
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