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第160話◇

 あの後、キスしてトロンとしてる優月を抱き上げて、そのままベットまで運んできた。  顔が見れるように、緩く抱きしめて、一緒に横になった。 「なんか…照れない?これ」 そんな風に言われると、確かに。  優月が起きてる時には、今までしたことのない体勢。寝てる優月は抱き締めていたけれど、本人知らねえしな。 「玲央は慣れてるのかも知れないけど……めちゃくちゃ恥ずかしい…」 そんな風に言う優月を、よしよしと、撫でる。 「…慣れてねえよ」 「…ん?」 「したことない」 「…そうなの…?」 「そもそもキスだってそんなにしないって」 「んー………ほんと?」 「嘘じゃねーし」 む、と答えると、優月は苦笑いしてる。 「ねね…玲央」 「ん?」 「ライブさ、どこでやるの?」 「渋谷」 「…オレ新宿なんだよね。んー近いなー……遅れて行っても、大丈夫?」 「…来れそうか?」 「少し早く帰ってもいいか聞いてみる…」 「――――…無理しなくていいけど」 「…うん」 「でも、来てくれるなら――――…」  嬉しいけど。  そう言いかけて。  ライブ来てくれるのが嬉しいとか。  人に言ったことがなくて、止まってしまった。  誰が来ても来なくても、別に関係なかった。  会場がいっぱいになることは喜ばしい、位の感情しかなくて。  一人、誰かの存在を求めた事なんか、無かった。  「来てくれるなら」で止まっていたら、優月がじっと見つめてくるので、  その頬に触れて、すりすりと撫でた。 「――――…遅れてもいいから、来いよ」 「…うん」 「ライブの後、打ち上げだからさ。最悪そこからでもいいし」 「打ち上げ…?」 「――――…あんま好きじゃない?」 「んー…」 優月は少し考えて。   「バンドの打ち上げって、全然どんなのか、分かんない。何するの?」 「…まあ。食べて飲むだけ。あと、また少し歌ったり」 「飲む?」 「成人してる奴は酒」 「玲央は?」 「オレもまだノンアル。 颯也がそういうのすげーうるさいんだよ」  オレの言い方に、優月はクスクス笑う。 「どんな人が残るの?」 「んー…バンドに関わる人達とか。昔からの友達とかファンとかだな」 「オレ知らない人だよね… んー … ライブに間に合いそうになかったら、仕事終わってから、蒼くんと一緒に行ってもいい?」 「――――…」 「どんなことしてるのか、見たいって思うんだけど… 一人で行く勇気が…」  オレが黙っているからか、だんだん言い訳みたいに言ってる。 「――――…良いけど…」  …ちょっとそいつ見てみたい気もするけど…。  「…つか、ライブ会場なんか来るの? …先生て、おじさんじゃねえの?」 「……いや、若く見えるから、全然…。オレが行くより、浮かないと思うけどな…」 「ふうん…」  ……なんとも言えない気分。  2人少し黙って。  何となく、見つめあった。 「………やっぱり、ライブ、見たいなぁ…」  ぽそ、と呟いてる優月。 「とりあえず、蒼くんに相談してみるね」  また。  言いようのない気分。 「……優月さ」 「ん?」 「そうくんそうくん、よく言うよな…」 「え。…オレ、そんなに言ってる?」  優月が困ったみたいに見上げてくる。 「言ってるだろ?」 「…え、でも…… 絵描きに行った日にご飯たべに行ったのと、電話が来ただけで… 土曜の受付は久しぶりだし…」 「………別にいいけど」 「…………けど?」 「――――……別にいい」  けど、を付けずに言い直すと。  優月が少し困ったような顔で、見上げてきていたけれど。  不意に、優月の手が、オレの頬に触れて。 「玲央…」  少し首を伸ばして、オレの唇にそっとキスしてきた。 「――――……」  こんな風に、もともとキスしてないタイミングで、優月からしてくるのは珍しいかも。何か、言いたげだし。 …なんだ?     唇を離した優月を見つめると。   「――――…蒼くんとは、しないよ…?」  少し首を傾げて。  優月がじっと見つめてくる。 「………って違う? 心配してないか…」  しばらく無言で見つめ返していたら、優月がそんな風に言って、困ったように眉を寄せる。 「――――……優月…」  引き寄せて、ぎゅ、と抱き締める。  なんで、こんな、可愛いと思うんだか。   …………よく分からない。  でも、すげえ可愛い。

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