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第163話◇

「優月には最初から優しいんでしょ?」 「んー……優しいけど、比べてないし……」 「まあ確かに、比べようないか。 いやでもね、事実としてさ。 毎日同じ奴と会って、泊めてあげて一緒に朝起きて、1限無いのについてきてあげて、それだけでも、おかしいから。泊めてあげるだけでも、今まで聞いた事無いからね。もう颯也なんか、玲央が誰だか分かんないとか言っちゃってるし」  あははははー、と楽しそうに笑ってから。  勇紀は、オレを見つめてくる。 「……セフレいっぱいとかさ。優月にとったら意味分かんない奴なんだろうけど……今、大分面白い方向に変わってきてるから。――――……玲央と居てあげてほしいなー。もちろん、優月が嫌じゃなければ、だけどさ」 「――――……嫌なら、最初から居ないから」    そう言ったら、勇紀は、そっか、とにっこり笑った。 「あ、優月、今日練習見に来る?」 「お昼は会うけど…その後は分かんない」 「ん……って、さっきまで一緒なのに、昼も会うの?」 「カフェに連れて行きたいって言ってくれたから」  びっくりしたような顔の勇紀は、遂にはため息で、ふー、と顔を横に振り出した。 「もう普通の男ならまだしもさ。玲央がそんなに誰かにべったりってさ……もう……中身が宇宙人になっちゃってるかもとか思うレベル……」 「……宇宙人て……」  苦笑いを浮かべていたら。  勇紀がふ、と、校舎の時計を見上げて。 「あ。授業行かなくちゃだよな。またなー、優月」 「うん、またね」  何やら、ものすごい情報を、ばばーーーっと好きに話して、  消えて行った勇紀の後ろ姿を見送りつつ。  ゆっくり歩き出した。  ……んーと。  ――――……そうだなー……。  ……打ち上げ、そっか。  玲央と関係ある、玲央の事を大好きな人達がいっぱい居るのか……。   まあ。考えてみれば、そっか。  んー。……ますます行きにくいけど。  でも、もし蒼くんが平気なら、一緒にちらっと覗いて帰るだけでもいいかな。  ほんとは、お客さんが居る前で、本番で歌ってる玲央を、すっごいすっごい見たいけど。絶対カッコいいよね。見たいなあ。  端に立ち止まってスマホを取り出して、蒼くんの画面を開く。 「おはよ、蒼くん。明日の受付の事で話があるので、電話が大丈夫な時間を教えてください」と入れて、お願いしますスタンプを追加。  ほんとは早く帰れて、歌ってる玲央を見れるのが一番嬉しいんだけど。でもお金もらう以上、お仕事だし。駄目だったら諦めよ。  ……なんか。  勇紀の話を聞いてたら。  オレと居てくれる玲央は、色々すごく珍しいのかなと思って。  ――――……ちょっと、嬉しくなってしまった。  ……オレが、めちゃくちゃ好きになってる分の、少しでも。  玲央もオレの事、好きになってくれてたら。  ……嬉しいな、なんて、思ったり。  でも、あんまりそんな事、思いすぎない方がいいかな。  期待しすぎも良くないし。うん。  でも、なんか、ますます、玲央に会いたくなっちゃった。  お昼まで、2コマか。長いなぁ。早く、会いたい。  ……でもでも。  なんかここ1週間、まともに勉強できてなかったし。そろそろほんとにマズイ気がする。  頭の中は、相変わらず玲央でいっぱいなのだけれど。  切り替えて勉強しようと気合を入れた。瞬間、手に持ってたスマホが震える。  蒼くんから返事かなと思ったら、玲央からで。 『優月、眠くないか?大丈夫?』  見た瞬間。  ――――……ほわ。と、気分が上がる。 「大丈夫。1限頑張ってくるね」  そう、返事をしたら。 『ん。頑張れ。2限終わったら早く来いよな? オレもすぐ行くから』 「うん。走ってく」 『走んなくていいから』 「うん」の後に、笑ってる顔文字を入れて。  いってきます、というスタンプを入れた。  ……もう、やばい位、ほわほわな気分。で。  ……ダメだこれ。    さっきせっかく気合入れたのに。  一瞬で崩れたし……。    玲央と別れた時は、かなり時間に余裕があったはずなのに、教室にたどりついた時はギリギリで。  もうほとんど揃ってる皆の端っこに、急いで座った。       

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