163 / 856
第163話◇
「優月には最初から優しいんでしょ?」
「んー……優しいけど、比べてないし……」
「まあ確かに、比べようないか。 いやでもね、事実としてさ。 毎日同じ奴と会って、泊めてあげて一緒に朝起きて、1限無いのについてきてあげて、それだけでも、おかしいから。泊めてあげるだけでも、今まで聞いた事無いからね。もう颯也なんか、玲央が誰だか分かんないとか言っちゃってるし」
あははははー、と楽しそうに笑ってから。
勇紀は、オレを見つめてくる。
「……セフレいっぱいとかさ。優月にとったら意味分かんない奴なんだろうけど……今、大分面白い方向に変わってきてるから。――――……玲央と居てあげてほしいなー。もちろん、優月が嫌じゃなければ、だけどさ」
「――――……嫌なら、最初から居ないから」
そう言ったら、勇紀は、そっか、とにっこり笑った。
「あ、優月、今日練習見に来る?」
「お昼は会うけど…その後は分かんない」
「ん……って、さっきまで一緒なのに、昼も会うの?」
「カフェに連れて行きたいって言ってくれたから」
びっくりしたような顔の勇紀は、遂にはため息で、ふー、と顔を横に振り出した。
「もう普通の男ならまだしもさ。玲央がそんなに誰かにべったりってさ……もう……中身が宇宙人になっちゃってるかもとか思うレベル……」
「……宇宙人て……」
苦笑いを浮かべていたら。
勇紀がふ、と、校舎の時計を見上げて。
「あ。授業行かなくちゃだよな。またなー、優月」
「うん、またね」
何やら、ものすごい情報を、ばばーーーっと好きに話して、
消えて行った勇紀の後ろ姿を見送りつつ。
ゆっくり歩き出した。
……んーと。
――――……そうだなー……。
……打ち上げ、そっか。
玲央と関係ある、玲央の事を大好きな人達がいっぱい居るのか……。
まあ。考えてみれば、そっか。
んー。……ますます行きにくいけど。
でも、もし蒼くんが平気なら、一緒にちらっと覗いて帰るだけでもいいかな。
ほんとは、お客さんが居る前で、本番で歌ってる玲央を、すっごいすっごい見たいけど。絶対カッコいいよね。見たいなあ。
端に立ち止まってスマホを取り出して、蒼くんの画面を開く。
「おはよ、蒼くん。明日の受付の事で話があるので、電話が大丈夫な時間を教えてください」と入れて、お願いしますスタンプを追加。
ほんとは早く帰れて、歌ってる玲央を見れるのが一番嬉しいんだけど。でもお金もらう以上、お仕事だし。駄目だったら諦めよ。
……なんか。
勇紀の話を聞いてたら。
オレと居てくれる玲央は、色々すごく珍しいのかなと思って。
――――……ちょっと、嬉しくなってしまった。
……オレが、めちゃくちゃ好きになってる分の、少しでも。
玲央もオレの事、好きになってくれてたら。
……嬉しいな、なんて、思ったり。
でも、あんまりそんな事、思いすぎない方がいいかな。
期待しすぎも良くないし。うん。
でも、なんか、ますます、玲央に会いたくなっちゃった。
お昼まで、2コマか。長いなぁ。早く、会いたい。
……でもでも。
なんかここ1週間、まともに勉強できてなかったし。そろそろほんとにマズイ気がする。
頭の中は、相変わらず玲央でいっぱいなのだけれど。
切り替えて勉強しようと気合を入れた。瞬間、手に持ってたスマホが震える。
蒼くんから返事かなと思ったら、玲央からで。
『優月、眠くないか?大丈夫?』
見た瞬間。
――――……ほわ。と、気分が上がる。
「大丈夫。1限頑張ってくるね」
そう、返事をしたら。
『ん。頑張れ。2限終わったら早く来いよな? オレもすぐ行くから』
「うん。走ってく」
『走んなくていいから』
「うん」の後に、笑ってる顔文字を入れて。
いってきます、というスタンプを入れた。
……もう、やばい位、ほわほわな気分。で。
……ダメだこれ。
さっきせっかく気合入れたのに。
一瞬で崩れたし……。
玲央と別れた時は、かなり時間に余裕があったはずなのに、教室にたどりついた時はギリギリで。
もうほとんど揃ってる皆の端っこに、急いで座った。
ともだちにシェアしよう!