165 / 860
第165話◇
2限の授業が少し早く終わったので、そのまま待ち合わせ場所に向かう。
向かってる途中で、勇紀から電話がかかってきた。
『玲央オハヨー。今から優月に会うんでしょ?』
「……今日優月に会ったのか?」
『うん、朝。 なあ気になったんだけど。優月、明日は用があるから打ち上げからかもとか言ってたけど……』
「――――……」
『優月を打ち上げに来させるのは良いけど……あんま近づくなよ、玲央は』
「――――……」
『近付きたくなっちゃうなら、優月来させない方が…… あ、それか、オレがずっと居てあげてもいいけど――――……あーでもオレ、彼女も来るからな……って、玲央聞いてる?』
「聞いてるっつの――――……つか、お前は何で、オレがさっき気づいた事を、先回りしてあれこれ言ってくんだよ」
――――……本当、聡すぎて、たまに……ウザイ。
『あ、て事は、一応気づいた訳ね』
クスクス笑いながら勇紀がそう言う。
『てかオレその危険性、さっき優月に言っちゃった』
「は?」
『だって、あんまり無邪気に打ち上げにーとか言うからさー。危険じゃん!』
「…ああ、分かった。あ。優月来た。じゃあ後でな」
『はーい』
少し離れた所に、こちらに向かって急いでる優月を見つけて、電話を切った。
……オレがどう話そうか考えてた事。
もう優月に伝わってる訳か。くそ。…バカ勇紀。
――――……とか言いつつ、優月はそんな話を聞いても、分かってる事だと、言いそうだけど。……セフレ居ても良いっていう位だもんな……。
それでも何となく――――…伝え方に迷ってたのに。
オレに気付くと、嬉しそうに笑って走り出した。
――――…走んなくて良いって、言ったのに。
見てるだけで……和む。
「玲央早い。オレ、授業ぴったりで終わって最速で来たのに」
「少し早く終わったんだ」
「あ、そうなんだ。ごめんね、待たせて」
「そんな待ってねえよ。ついたとこだし」
「ん。ありがと」
そう言ってから、ふと、周りを見回す優月。
「クロは居ない?」
「ああ。居ない気がする」
まわりを一通り探して、少し残念そうな顔をしてる。
「帰りここ寄るか?」
そう言うと、ぱ、と嬉しそうに笑う。
「いい?」
「良いよ」
クスクス笑ってしまう。……表情が可愛くて。
「おやつ買いにコンビニも寄っていい?」
「ん」
「ありがと、玲央」
「ん。行くか?」
「うん」
二人で並んで、歩き始める。
ここ数日で、何度こうして二人で歩いただろうと、少し下にある優月の頭に何となく目を向ける。
――――……しかも、朝も昼も夜も。みたいな。
全部、オレが一緒に居たいって言ってる気がする。
――――……そう言えば、優月からは、誘われないな。
誘われる前に、いつも先に誘うから……?
なんて思った瞬間。
優月が、ぱっとオレを見上げて、目が合うと、笑顔になった。
「玲央、ピーチティー飲んだ?」
「ん。ああ」
「どうだった?」
「んー…… 一言で言うなら……」
「うんうん」
美味しかったでしょ? と求めてる、わくわくした顔に、苦笑い。
「優月っぽかった」
「え???」
「すげえ甘くて。――――……なんか、キスしたくなった」
「――――……っ」
きょとん、とした後。一気に、かああああっと、真っ赤になる優月。
「あーあ……」
ぷ、と笑って、右の頬をぶに、とつまむ。
「……オレ、もうお前にすっげーキスしてると思うんだけど……」
「――――……っっ」
「……こんなセリフなんかで、ほんと見事に真っ赤になるよな……」
「だって……っ……オレ、お茶の感想聞いたのに」
「――――……」
「……そんなこと言われるとか、不意打ち、ていうか……」
なんか、ちょっと頬が膨らんでくる。
「……怒ってンの?」
すり、とその頬を撫でて、クスクス笑いながら、聞くと。
「……怒ってはない……けどさ……」
「けど?」
「……でも、また笑うし……」
ぶつぶつ言いながら、俯いてく優月。
オレは、周囲に目を向け、近くに誰も居ないのをさっと確認してから。
背をかがめて、ちゅ、とキスした。
「――――……っ」
「甘くて、優月の顔思い出してたんだって」
ますます真っ赤。
「もう、玲央……こ、んな道のど真ん中で……っ」
「一応誰も居ないの確認したし」
――――……ああ、ほんと、反応、可愛い。
「っ……でも、わかんないじゃん……」
言った瞬間、通りかかってる駐車場から、ドアが開く音がする。
びくう!と優月が大きく震えた。
「……っっ……ほら! 人居るじゃん……!」
「こっち見てないって」
もう――――……可笑しくてしょうがない。
「もうオレ先行くっ」
「ゆづ――――……」
ダッシュしてく優月の後ろ姿に、ぷっと笑みが零れる。
ああ――――……なんか。
すげえ楽しいんだけど。
……なんでだ?
オレ、こんなやり取りが、楽しい奴だっけ。
ともだちにシェアしよう!