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第166話◇
「待てって」
今回は本気で逃げてる訳じゃなさそうで。
すぐに追いついて、腕を掴む。
「……玲央、オレ、明るい道のど真ん中でとかは……恥ずかしいからね」
「――――……ん、分かった。ごめんな?」
あまりに可愛かったらまたキスしてしまいそうではあるけれど。
……まだ赤いのが可愛いので、とりあえず撫でて、謝ってみた。
機嫌が直った優月と、カフェに入り、メニューを手に取る。
「そういえば何でここに連れてきたいって??」
「あぁ。卵サンドが、名物みたいに書いてあったから……。あ、これ」
メニューを優月の前に開き、一番最初のページに大きくのってる卵サンドを指さす。
「好きだって言ってたろ」
「……いつ卵サンドの話したんだっけ」
「オムライス食べてる時。 卵が好き、て言いながら、メニューいっぱい言ってた」
「あ、言った」
いっぱい料理の名前言ってたから忘れてた。
なんて言いながら、優月が嬉しそうに笑う。
「そういうの覚えてくれてるの、嬉しい。玲央、ほんとに優しいね」
素直な言葉に、くす、と笑ってしまう。
「卵サンドにする。あと、アイスオレ」
店員を呼んで、優月のと同じのを頼み、メニューを端に片付ける。
「――――……な、優月」
話し始めた瞬間。優月がぴくん、と動いた。
優月のポケットのスマホが震えてる音がする。
「出て良いよ」
「んー――――……」
ちら、と画面を見て。「そうくんだから…明日の事、ちょっと話してくるね」と言い、玲央が頷くと、立ち上がった。
店の外に出て、自転車置き場の横に優月が立つのが見えた。
反対を向いているので、顔は見えない。
5分位、話して、優月が戻ってきた。
「明日ね、受付の人もう1人いるし、19時以降は空いてくるから、ライブ行っても良いって。ただ、打ち上げは――――……あの……」
「打ち上げは?」
少し言いにくそうに、優月が眉を寄せながら。
「誰が来る打ち上げか聞かれたから少し説明したら……行かない方がいいんじゃないか?って」
「――――……」
「それか、どうしても行きたいなら、ライブの後一回外出てろって。一緒に行くからって…」
「――――……『そうくん』って、本名は?」
「|野矢 蒼《のや そう》だよ。くさかんむりに、倉って書いて。蒼くん」
「名前そのまま呼んでんの?」
「――――…オレが小学生で、蒼くんが高校生ん時に会って、そん時はまだ先生でもないし、一緒に絵を描いて遊んでくれてたお兄ちゃん、だった」
「――――……なんか、すげえ鋭い?」
「あー……うん。鋭い。頭良いし」
ふふ、と優月は笑う。
「オレにとっては、ずっと味方だから――――……めちゃくちゃ頼りになるけど……敵にしたら怖そう。かなー……」
笑いながら言ってる優月に。
ふ、と息を付いた。
「……あのな、優月。昨日話した時、あんまり考えずに――――……お前に来てほしいってのしか考えてなかったんだけど……」
「……うん?」
「昔からのファンとか、知り合いの中にはさ――――……」
「うん」
「オレと――――……」
なんて言おうか。一瞬止まると。
「……うん。分かってるよ。 ごめんね、オレも、それ、全然気づかなくて。さっき勇紀に聞いて、あ、そっか、と思って。 蒼くんなんかは、すぐ気づいてたし。 ――――…オレが鈍いんだと思う」
「――――……」
なんで、優月が、謝るんだ。
「だから、打ち上げは何か邪魔になりそうだから、行かない方が良いかなって、思ってて」
「邪魔じゃない」
「――――……」
「邪魔なんかじゃないよ」
とりあえず、強く思う事を、先に伝えた。
「――――玲央……」
じっとオレを見つめてた優月が、ふわ、と微笑む。
「ん……ありがと」
その時。「お待たせしました」と、食事が運ばれてきた。
目の前に並べられた卵サンドに、優月が嬉しそうな顔をしてる。
薄めの柔らかそうな食パンに、たっぷりすぎるくらいの卵。
店員が居なくなると同時に、「すっごい美味しそう」と、笑う。
「いただきまーす」
頬張って、美味しい、と満開の笑顔。
「――――……あのさ、優月」
「うん?」
「……オレの関係してた奴とか――――……会いたくない、よな?」
邪魔な訳じゃないけど、お前が嫌な気分になるなら、来ないって方が良いのかも。
――――……でもそうすると、明日、優月と会えねーしな……。
………ってだから、どんだけ会いたいんだって。
自分に突っ込んでると、優月は、んー、と考えながら。
「――――……でも、そこにいる全員がそうじゃないでしょ?」
「……ん?」
「だったら、誰がそうなのか分かんなけば、別にオレは嫌じゃないけど……」
「――――……」
……んん?
………そういうものなのか?
卵サンドをもぐもぐ頬張ってる優月を見ながら、首を傾げる。
つーか、この類の話をしてると、いつも、謎すぎる回答で、混乱する。
むしろ、こうなってくると、オレの感覚の方が普通なんじゃと思えてくる。
なんで優月は、平気そうな事、言うんだ?
普通、嫌、なんじゃねえの?
……お前、オレの事、好きなんだよな?
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