180 / 856

第180話◇

【side*優月】  玲央の事考えないようにしながら、でもやっぱり考えて。  とにかく必死で前を向いて、5限まで、やっと終わった。  長かった……。  来週の掲示板を確認して、さ、玲央の所に行こうと思った時。  少し離れた所から、「優月ー」と呼ばれた。 「あ、智也。今日初めて会ったね」 「ん、元気か?」 「うん、元気。智也も元気?」 「元気元気」 「そか」  ふふ、と笑うと、智也がふと、見つめてくる。 「ん?」 「なんか楽しそうだから。良かった」 「心配かけてる?」 「してないよ。そんな風に笑ってるし、全然大丈夫だろ」 「ありがとね」 「今日も会うの?」 「うん。これからバンドの、練習があるって」 「見に行くの?」 「うん」  頷くと、智也はくす、と笑った。 「バンドメンバー公認なの?」 「ん?……公認、とかではないけど、こないだ、挨拶はしたよ」 「ふーん。そうなんだ」  と。その時。 「あの……ゆづき、くん……??」  後ろから、話しかけられた。  振り向くと、知らない人。 「……え?」  絶対知らない人だと思うのに、今、ゆづきくんて言った??  思わず首を傾げると。  智也が、「西野?」とその人を呼んだ。  あ、智也の知っるて人?  ……でもゆづきくんって、オレを呼んだよね?  誰、この人……?? 「……智也の友達?」  智也を見上げて、そう聞いたら、智也は「同じ学部の西野」と答えた。  ふむ。西野君。  智也と一緒て事は法学部。やっぱりオレは知らない人、だよね……? 「名前、優しい月って書く?」 「……うん、書く……????」 「西野、何言ってんの?」  智也が隣でおかしそうに笑ってる。 「さっき、玲央に、聞いたんだ」  西野君の口から急に出てきた玲央の名前に、ドキ、とする。  ……名前だけなのに。 「何を聞いたの?」  智也がそう聞くと。  西野君は、智也を見て、一瞬止まった。 「……ごめん、さっきの会話聞こえてたんだけど……村澤は、知ってるんだよな?」  意味深な感じでそう言う西野君に、あー……と智也は少し黙って。 「ん、知ってる」 「玲央に聞いた?」 「いや、オレは優月と幼馴染だから。最初は優月に聞いた」 「そっか、じゃいっか」  智也と話し終わると、くる、とこっちを見て。 「さっき、優月って奴が可愛いって、玲央がめっちゃ言ってて」 「――――……えっ。……な……」  全く予期しない所から、物凄い攻撃を受けた感覚。  ボボボっと、見事に赤くなった、と思う。顔が、熱すぎる。 「優月真っ赤……」  はは、と、智也が笑う。 「だ、って……なに、それ……」  は、恥ずかしすぎるんだげと。  智也が、顔を冷ましてくれようとしているのか、手でパタパタ扇ぎだす。  ……いやいや、絶対それじゃ無理。もう、顔、中から熱いもん。 「何それ、神月が西野に言ったの?」  智也が聞くと、西野君はうんうんと激しく頷いた。 「そう。可愛くてしょーがないみたいな……」  うわー、もうやめてー、何なんだ、それ。 「可愛いから今度よく見てみろって言われてさー」 「はは、そうなんだ」 「そしたら、村澤がゆづきーて呼んで、近づいてくるから。もうごめん、興味が抑えられなくなった」 「……っっ」  めちゃくちゃマジマジと見られる。 「オレ、玲央と結構仲いいし、幼稚園からの友達な訳。……つか、あの玲央がだよ? 可愛い可愛いって、それ以外言わないくらい語彙死んでるし……信じらんなくて――――……」  わーん、なんか、玲央に直接可愛いとか言われるより、  よっぽど、よっぽど、恥ずかしい。  だって、絶対、オレ、普通に見て可愛くないし。  そんなめっちゃくちゃハードル上げられてから、見られるの嫌だしー!  ……うう。逃げたい……。

ともだちにシェアしよう!