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第182話◇
「あ。お前らとこんな話してる暇はなかった。優月、行こうぜ。練習始まる」
「あ、うん。玲央、何でここに来てくれたの?」
「待ち合わせ場所に居たんだけど来ないから、ここに寄ってから来るかなと思って、逆走して迎えにきた感じ」
「あ、そっか。ごめんね、遅くて」
「良いよ。それにクロ居なかったし。また今度にしよ」
「うん」
必要な事を話し終えて、智也と西野君に視線を戻すと。
なんか、2人とも、さっきの天変地異の話のままの表情で、クスクス笑ってる。
「……じゃあな。被害に遭わねー内にとっとと帰れよ」
玲央が何だか嫌味たっぷりに、そう言うと。
「そーしまーす」
と西野君。
「とりあえず、明日のライブがんばれよー」
「西野来る?」
「明日は行けないんだなー。次行くから泣くなよ」
「泣くか」
……うん。なんだかんだ、すごく仲良さそう。
ぷ、と笑ってしまうと、そんなオレを見てた智也と視線が合う。すると智也もふ、と微笑んだ。
「また来週な、優月」
「うん。またね」
「優月はそのライブって行くの?」
「遅れて、少し行くかも」
「気を付けろよ? 初の場所で、ぼーっとしてんなよ?」
「ん」
いつまでも何だか「お兄ちゃん」な智也に笑いながら頷く。すると。
「…うんうん、なんか、玲央が可愛いとか言ってるの、分かってきたかも。てか、村澤もめっちゃ可愛がってるだろ」
そんな風に西野君に突っ込まれ、智也が、うわー、という顔で嫌がった。
「神月の前でそーいう事言うなよ、誤解受けるだろ」
「ん? ……あ、そうか」
智也と西野君が固まってるけど。
玲央は、そんなので誤解もなにも……?
と、ふと、玲央を見上げると。
なんか面白くなさそうな玲央に、ぴた、と固まってしまう。
「ほらー……神月って結構ヤばそうだよな……」
「……やばいって、さっきの可愛い可愛い言ってる時の玲央って、もうほんと別人だから……クールな奴ほどこうなると怖いのかも……」
こそこそと、2人が言ってるのを聞きつつ、誤解? 何か言うべき? どうしよう、なんて言おうと思っていると。玲央と仲が良いからなのか、メンタルが強いのか、西野君がすぐ復活して、普通に話しかけてくる。
「オレ、とにかく玲央がこんな甘やかしてるの初めて見た。今度会ったら優月に話しかけるから、オレの事、覚えといて? 優月って呼ばせて。オレ、稔で良いからね?」
優月って呼ばれた。 ……稔で良いと言われた。
こちらは何て返そうかと思っていたら、玲央がオレの腕を掴んで、少し自分の方に引き寄せる。
「覚えなくていいぞ、優月。 あ、飯も行かなくていいからな」
「それはオレが、楽しく勇紀達と優月と村澤と行くんだよ、邪魔すんな」
「はー? 何言ってんのお前」
……完全に優月って呼ばれてる。
玲央と西野君は、仲良いと思うんだけど……。
……きっとずっとこんな感じで、喋ってるんだろうな。これはこれで、きとすごく仲いいんだと思うけど……。
智也はクスクス笑って、「いいよ、オレはいつでも」なんて言ってる。
玲央が、「村澤は勝手に行けば良いけど、優月は行くなよ?」と言うので、ん、と苦笑いでやり過ごす。
「じゃあね」
何だか気分的に、「やっとのこと」で、2人と別れた。
歩き出してすぐ、玲央がクスクス笑い出す。
「迎えに来たら、さっき優月の事話したばっかの稔としゃべってんだもんな……ちょっと驚いた」
「最初、ゆづきくん?て話しかけられたよ? 智也が同じ学部の奴って教えてくれたから、なんとか話せたけど……」
そう言いながら、クスクス笑ってしまうと。
「まあ、村澤が居たからどーにかなると思って話しかけたんだろうけど」
玲央がまだおかしそうに笑いながら、頬にまた触れてくる。
「にしても、真っ赤すぎだから、優月。オレ居ないとこで、赤くなんなよ」
そんな風に言われて、ちょっと納得いかない。
「じゃあオレの居ないとこで、可愛いとか、名前がどうとかさ……オレ、知らない人から急に、玲央がそう言ってるってびっくりだし……」
「名前って?」
「……ぴったりとか、優しいとか、言った……?」
「ああ、それか。ん、言った。稔に、優月の漢字を説明してたら、なんか急にそう思って」
「……ていうか、玲央、可愛いとかさ……恥ずかしいんだけど……」
「そうか?」
「そうだよ……」
「可愛いからいーじゃん」
「…………っ」
ほんとにもう。玲央、どうなってるんだろ。
何でオレがそんなに可愛いの?
玲央だから嬉しい気もしてしまうけど、謎すぎて、むー、としたまま俯いていたら。
「……なあ、優月?」
なんか、声の調子が変った。
「え?」
謎すぎて俯いてた事とかも忘れて、玲央を見上げると。
何だか、ふ、と笑いながら視線を流されて、どきんとする。
「後ろ、平気?」
少し口を耳の側に寄せられて、囁かれる。
一瞬何か分からなくて。
「ん?」
と言った直後。 意味が分かってしまった。
……また真っ赤になるしかない。
「――――…………っっっっ……」
玲央は、ぷ、と笑って、オレの頭を撫でてくるけれど。
「……もうオレどこかの血管の負担大きすぎて、倒れちゃうかもよっ?」
もう無理……!
叫んでたら、玲央が可笑しくてたまらないと言った風で笑い出して。
もう知らないし。
恥ずかしさを紛らわすために、怒っていたら。
「優月ー来たんだー」
と、笑顔の勇紀が現れた。
「っつか、うわー、玲央がそんな風に楽しそうだと、ちょっと引くなあ……」
「……うるせーし」
玲央が、鋭く低い声で返してる。
「なんか優月、顔赤いね。はは、可愛いー」
……っ……だから何でだろう。
何でオレ最近可愛い可愛い言われてるんだろうか。
これまでの人生の分全部足しても、他人にこんなに言われてないし。
20才間近の男が、可愛い言われて、なんて返すのが正解なのかな……。
うう……返せる訳ない。むりむり。
「優月行くよーこっちだよー」
「ぁ、うん」
玲央と勇紀が少し先で振り返ってる。勇紀の声に返事をする。
――――……こっちを見て、ふ、と笑んでる、どこからどう見てもカッコいい人を目に映しつつ。
……何で、玲央は、可愛い可愛い連呼するんだろ。
――――……可愛い人、キレイな人、散々近くで見てきたと思うんだけど。
とにかく、玲央の可愛いは加減してもらおう、恥ずかしいから。
……せめて、友達に言うのはやめてもらおう、すごく死ぬほど恥ずかしいから。
可愛いでハードル上げた後に、じっと見られるとか、もう絶対罰ゲームみたいだよう……。
そんな風に思いながら、2人のもとに向かって、歩き出した。
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