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第183話◇
【side*玲央】
優月と勇紀と一緒に、練習場所に入ると、甲斐が居た。
「おーす、甲斐。あれ颯也は?」
「ん、まだ――――……ああ、優月、来たのか?」
普通に「優月」と呼んで、甲斐が笑いかけて、優月も「うん」と笑って応えてる。
「優月、鞄、ここら辺置いとけよ」
「ん」
優月が前来たのとは別の練習場所だからか、物珍しそうに周りを見ながらオレの隣にたどり着いた。
「玲央、ごめん、今気づいちゃったんだけどさ」
「ん?」
「明日本番の、最後の練習でしょ?」
「ああ」
「オレ、別の所に居ても全然良いよ。図書館とかで待ってるし」
「ん?」
何で?と優月を見つめると。
「色々詰めたりしないの? オレ居ない方が良いかなと思って」
「優月が静かに座ってるのが邪魔な訳ねーじゃん」
即答すると、優月はきょとん、とした顔で、見上げてくる。
優月と同じように荷物を置きに近くに来てた勇紀が、ぷ、と笑った。
「玲央はむしろ優月に居て欲しいんでしょ。離れたくないから」
勇紀はおかしそうに笑いながら、「甲斐も優月が居ても平気でしょ?」と甲斐に聞く。甲斐は「全然大丈夫。颯也も絶対平気」と返してくる。優月はそれを聞いて、どうしようかなといった顔でオレを見上げた。
「ていうか、明日本番で見られるのに、今優月が邪魔なレベルって、ヤバいだろ。……ダメなら連れてきてねえし」
そう言うと、優月はにっこり嬉しそうに笑って、ん、と頷く。
――――……つか、キスしたい。
マジで。
……でもなー……。人前ですると、すげえ可愛く真っ赤になるしな。
あんまり他の奴に見せたくねえんだよな。
……くそ。我慢か。
と思っていたら。ちょうどよく、勇紀が甲斐に何やら話しながら離れていった。
優月は2人には背を向けて、オレの方に向いてる。
そう認識した瞬間。
少し背を屈めて、優月にキスした。
「……っ……!」
案の定、瞳を見開いて、見つめてくる。
ぴく、と後ろに退こうとしたのを少しだけ追って、数秒、キスして離す。
キスが離れると同時に、くるっと後ろを振り返って、見られていない事だけ確認したらしい優月は、オレを困ったように見つめる。唇を噛んで、小さく首を振りながら。
ぷ、と笑ってしまう。
赤い頬に触れて、すりすりと撫でる。
「大丈夫、気付いてねえから」
こそ、と囁くと、むー、とますます唇を噛んでる。
「さっきからずっと可愛いからしょうがねえじゃん」
「――――……」
優月は、何度か瞬きをして。それから。
「嫌とかじゃなくて……」
「ん?」
何が、「嫌とかじゃなくて」何?
優月の言葉を待っていると。
「……2人になってから、いっぱいして」
「――――……」
……っと。
…………ヤバ。
…………なんか、すげえ不意打ち。
一気に熱くなった欲に、ここじゃヤバいと、冷静になろうとしているのに。
「ちょっとだと……もっとしたくなっちゃう、から」
少し視線を落として、恥ずかしそうにしながら、続けた優月に。
思わず、その口を、人差し指で、塞いだ。
「し、優月、黙れよ」
「……??」
急に喋るのを止められて、すごく、不思議そうな顔の優月。
「――――……それ以上煽るなら、襲うから」
言われた言葉を噛みしめて理解した後、優月はまた一気に赤くなって、プルプル首を振り出した。
「――――……っっあ、おってない、後でって言って……」
そんな事を言ってる優月に、心底呆れる。
口から手を離し、グリグリと頭を撫でた。
「つか、それが煽ってないって、おかしいから、お前」
「…………っ」
あ。涙目。
――――…………ああ、ほんと、ヤバい。可愛くて。
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