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第184話◇

「悪い、遅れた」  颯也がそう言いながら入ってきた。 「大丈夫だよ、少しじゃん。玲央準備しよー」  勇紀に言われて、ああ、と頷くと、オレに視線を流した颯也が、優月に気付いた。 「ああ、優月。来てたんだ」  颯也も自然と優月の名を呼んで、笑いかけた。  まだ赤いままの優月は、颯也までは距離もあるからか、意外と普通に「うん、お邪魔してる」と笑顔で答えてる。  ――――……勇紀は元々仲が良かったらしいから少し別として。  甲斐もだし、オレのセフレをやめろと良く言ってた颯也までが、何でこんなにすんなりと優月を受けて入れてるんだと、少し思ってしまう。多分、他のセフレをここに連れてきていたら、特に颯也は、帰せと言ってると思うし。  優月は何が違うと思ってるんだろう、とふと思いながら、優月を見つめる。 「――――……」  オレの態度とか。こいつらの優月への印象とか。  ……まあ多分全部込みで、こういう対応になってるんだろうなと、何となく1人で納得したりしながら、ん?とオレを見上げてくる優月をじっと見てると。 「玲央、やろうぜ、準備しろって」  勇紀に返事をしたまま動かないでいたからか、今度は甲斐に呼ばれる。  仕方なく、優月から一歩離れて。 「見ててな? ……帰ったら、キスしような、いっぱい」  小声で言うと。  優月がまた、ぐっと言葉に詰まってるけど。  ――――……これはさっきの不意打ちの、仕返しだし。  そんな事を思いながら、くすっと笑ってしまうと。  優月も少ししてから、ふと笑って見せて、「頑張って」と言った。  頑張って、とか、よく聞く言葉なのに。  ――――……なんか、すげえ嬉しいとか。  優月から離れて、皆のもとに歩きながら、ふと、笑み交じりのため息。  優月に初めて会ってからちょうど1週間。  まだ、それだけしか経ってない。  少しずつ、どんな奴か、どんな風に生きてるのか、どんな事を言うのか、段々分かってはきた。でもまだ、知らない事ばかりな筈。  だけど、オレしか知らない優月も居る。  エロイ事する時の優月の反応も。  めちゃくちゃキスしてる時の優月も、  熱くなって、欲しがって、泣いてる優月を知ってるのはオレだけだと思うと、嬉しい気がする。  今まで適当に遊んできたのを楽しいと思っていたけれど、そんなのより、優月に構ってる時の方がずっと楽しくて。  むしろ、遊んできた事を優月に知られているのが嫌だなと思う自分が居て驚く。そんな風に思う日が来るなんて、思わなかった。  惚れるとかいう感情が、なんだか久しぶり……というか、初なのかもしれない。「彼女」を作っていた頃も、そこまで強い感情は持っていなかった。  だから正直「惚れてる」と言いながらも、これがそうなのかなと不思議に思う部分もある位だけれど。  優月に会いたくて触りたくて、見つめていたいし、一緒に居て、全部可愛がりまくりたいし。  やらしい顔で、泣かせたい。  と。ずっと思っているので、もうやっぱりオレは、どう考えても、優月が特別に好きなんだと確信。  歌う準備をしながら、そんな風に思う。  マイクを手に優月に視線を向けると、気づいた優月がニコニコしてる。 「……ぷ。かわいーよね、優月」  かなり距離があるので、小声でなくとも聞こえないが、勇紀がクスクス笑いながら、小さめの声で言う。  ふ、と笑ってしまうと、勇紀が、「わー、玲央……全然否定しないんだねー やばー」と言いながらも、楽しそうにクスクス笑ってる。    ……本当、色々ヤバいよな、オレ。  ふと、稔の言葉を思い出す。  ……天変地異か。  自分の事ながら、言われている事が。まあ、少し。  分からなくもない……かも。

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