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第185話◇

【side*優月】  ほんと、カッコイイ。  演奏が始まって、しばらく経つ。  ずっと目を逸らさず、皆を見ていた。  音楽はもっぱら音でしか聞かなくて、バンドのライブ映像というものをそういえばあまり見た事が無い。だから比べる事は出来ないのだけれど。  ……真ん中で歌ってる人が、ダントツでこの上なくカッコイイし。  他の皆も華があるし。  この人達が、ステージに立って、ライトの下で演奏するのか。  そりゃ人気、あるよねー……。  こないだも思った事をまたしみじみと思う。  勇紀は、出会った時は具合が悪くてぐったりしてたし、そこが出会いだったから、なんかすっかり普通の友達として仲良くしてきたけど、こうして演奏してるの見ると、何か、遠い世界の人な気もしてくる。  この人達皆、玲央と一緒に幼稚園からって事は、そもそもがお坊ちゃま達なんだろうなぁ……。受験して高校から入学した人は、エスカレーターで上がってきた人達との格差が顕著で大変だという噂を聞いた事があるけど。……まあ分かる気は、する。  幼稚園からずっと、良い家柄の人達がエスカレーターで進んで、その輪の中に後から入るのって。しかも普通の家の人とかだったら。よく分かんないけど、色々大変そうだなーと、その噂を聞いた時思ったっけ……。  大学になると、外部受験での入学が格段に増えて、むしろ外部からの生徒の数の方が増えるので、もうそこらへんは全然関係なくなるから、あんまりオレは気にしないで生活してきてしまったけど。  ――――……やっぱり、オレは何でここに居るのかなあ?と、またしても少し疑問を感じてしまう。  そこらへんの価値観の違いって、友達同士でも結構厳しいのに。  ……好き……とか。  好きとか挟んだら、もっと、そういう違いって難しいんじゃないのかな。  価値観違っても、玲央の事は、好きだけど。  大好きだけど。  ――――……玲央、さっき……。  優月が居たい限り、て。言ってた。  オレと玲央がいつまで一緒に居るか、それを決めるのは玲央だと思ってた。思ってたというか、当然すぎて、考えもしてなかったというか。  玲央が居てくれる間だけでもいい、て思っていたから。  ……最初はほんとに、一度だけでも、ほんとに少しの間だけでもって思ってたから、価値観がとかそんなのまるで考えなかったけど。  オレが居たい限り居てくれるなら、ずっとになっちゃうよ。  ……いいのかなあ、玲央。  玲央は。もしかしたら。  ――――……オレの事が珍しいのかなあ。と少し思う。  キスとかそういうの全部初めてな人なんて、相手してなかったみたいだし。  玲央の好みって綺麗な人ぽいから、物珍しいのかなと思うし。  ずっと玲央の側に居る仲の良いお友達とも、多分、全然違うし。  物珍しいものって……たまに可愛く見えたり、するのかなあと。  ……ちょっと、思ったりもして。あんまり考えたくないけど。  すごい頭の遠くの方で、ちらっと、思っちゃうんだけど。  何であんなカッコイイ……カッコ良すぎな人が、オレに好きって言って、一緒に居たいって言うんだろう?  ずっと居たいと思うって何だろう?  そりゃ、ずっと居れたら嬉しいけど。  キラキラしすぎてるもんなー……玲央。  ――――……歌、うまい。 ほんと、良い声。 「なあ、ちょっと飲みもん買ってくるから、あれ1回練習しといて」  曲が切れた所で、玲央がそう言った。  あれってなんだろう。思いながら、遠くの皆を見ていると。  ふっと玲央にまっすぐ視線を集めて、皆がニヤっと笑った。 「明日、歌うの?」 「すげー久々」 「……もしかしたら歌うかも」 「りょーかーい」  皆がなんだかおかしそうにニヤニヤしてる。 「……何飲むか、1秒で言え」  玲央が心底面倒そうに、そう言うのが聞こえる。 「ミルクティ」 「ブラックのコーヒー」 「水」 「ん。……優月、おいで」  皆から少し離れた玲央が、オレを呼ぶので、玲央のもとに急ぐと。  ぽん、と頭に手を置かれて、そのまま肩を優しく押される。 「外付き合って。座ってんのも飽きたろ?」 「え。飽きないよ。 楽しい。皆カッコいいし」  言うと、ふ、と玲央が笑う。 「でも、行こうぜ、1人じゃ持てねーし」 「うん、行く」 「玲央よろしく。優月もー」  勇紀の声に振り返って頷くと、玲央にそっと背を押された。 「こないだの自販機行こ」  ん、と頷いて、一緒に自販機の所まで歩き始める。 「優月はどんな音楽聞く?」 「割となんでも。スマホでランダムに流すかなあ……でも今は玲央たちの曲覚えたい」 「ん。覚えて。今度CDあげるから」  クス、と笑う玲央に、よしよし、と撫でられる。  撫でられて、ドキッとして。手が離れても、ドキドキしたまま。  ……何で今、撫でたんだろう。  玲央って……。 「……玲央が、頭撫でるのって……癖??」 「え?」 「頭、よく撫でるでしょ?」 「……ああ」  玲央は、ぷ、と笑って「癖じゃねえよ」と言う。  あれ。そうなの? 癖じゃないの?……いや、癖だよね??  隣の玲央をふと見上げると。 「オレに撫でられたとか、他の奴は言わねえと思う」 「……?」 「撫でてねえもん、お前の事しか」 「え」 「……かわいーからなんかつい撫でちまうけど」 「――――……」  優しく笑む瞳にまっすぐ見つめられて。  オレはまた一瞬で赤くなって。ドキドキでへたり込みたい気分……。 「まあ、お前撫でるのは癖になってるかもな」  またしてもヨシヨシしながら、そんな事を言ってくる。 「オレ、お前にしかしてない事、もっとあるよ」 「――――……」 「後で教えてやろうか?」  ふ、と瞳を細めて。  可愛くてたまんない、みたいな瞳で、見つめられる。  なんでそんな風に、オレを見るのか、それもすごい不思議、なんだけど。  なんか、色々迷う、全部の事が一瞬どうでもよくなる位。  大好きだなーと、思ってしまって。  胸が、きゅ、と締め付けられる。

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