187 / 856

第187話◇

「ね、玲央さ、さっき言ってた、あれって、なに?」 「ん?」 「皆が今練習してる、曲??」 「あー……聞きたい?」 「うん」  頷くと、まいっか、と言って玲央が話し始める。 「甲斐とオレが好きなバンドにさ、ライブでたまにしか歌わない曲っていうのがあんの」 「うん」 「CDには入っててすげえ人気あるのに、ライブで演奏するのはほんとレアな1曲でさ。ボーカルの機嫌がめちゃくちゃ良い日とか、誰かに聞かせたいとか、なんかそーいう特別な理由がある時にだけ歌うらしくて」 「うん」 「そーいうの良くねえ?」 「うん、良い。自分が行った日にたまたま演奏してくれたらすごい嬉しいと思う」  そう言うと、玲央が、「だろ?」と嬉しそうに笑う。  ……わーほんと、キラキラしてるなあ。玲央。  楽しそう。 「で、オレ達もそういう、人気あるけどごく稀にしかライブではやらないレアな曲を作ろうって事にしてさ。1曲そういう風にしてたら、まんまと今、ライブで幻の曲って言われてて。それを歌うと、すげえ盛り上がンの」 「うん。いいね、カッコいい」  ふ、と玲央が笑って、見下ろしてくる。 「それを練習しとこうかなと思っただけ」 「ふうん? そうなんだ。明日歌うの?」 「……多分な」 「へーそうなんだ。じゃあ明日の人達はラッキーだね」 「――――……」 「それっていつ歌うの? オレが行ってから歌ってくれたらいいなあ」 「――――…………」 「行った時に終わってたら、ちょっと悲しいかも。……あれ?けど、オレどれがその曲か知らないから、結局分かんない……??」 「――――…………」 「あ、でもすごい盛り上がるならそれで分かる?……ていうか、オレ、ライブ自体初めてなんだけど……大丈夫かな??」 「――――……」  玲央が、ずっと黙っていたのは分かってたんだけど。  言いたい事が次々浮かんでくるから、ついついそのまま話し続けていたら、玲央が急に、クッと笑い出した。 「――――……伝わんねーな―……」  クックッと肩を揺すって笑いながら、玲央がオレの頭をクシャクシャ撫でた。  ……伝わんねーな?  玲央が面白そうにずっと笑ってて。不思議に思いながらも歩いてると、やっと自販機にたどり着いた。 「その話、後でな。……なぁ、オレら、ここ来るのに何分かかった?」 「10分?くらい…?」  距離にしてはとっても短いのに。振り返ると、その建物も全然見える位の距離なのに。なんかすごい、時間がかかった気がする。途中止まってたりしたからなぁ……。  繋いでた指を離されて、玲央が自販機に近付いて、オレを振り返った。 「買ってくから、出してって持ってて?」 「うん」  玲央がボタンを押して飲み物が落ちてくるので、取り出し口からペットボトルを取り出してると。 「とりあえずその3本持ってて。優月は何飲みたい?」 「んー……麦茶」 「ん」  玲央が、自分のとオレのを買って、手に持つ。 「3本持ってられるか?」 「ん、だいじょーぶ」  2人でペットボトルを持ちながら歩いてると。  少し黙ってた玲央が、不意に、ぷ、と笑った。 「?……なに?」 「――――……あのさあ。オレさあ……。お前が来るから、歌おうかなーと思ったんだけど。ちらっとも、そういうの、考えねえの?」 「何を?」 「……勇紀達はさっきの会話で、気付いてるし。気付いてねーの、優月だけだっつーの」  何言って……。  あ。 「……え。さっきの、歌の話?」 「――――……今やっと気づくかー……」  気付くかと言われても、いまいちピンと来てないけど。  おかしそうにニヤニヤ笑う玲央を、ただ、見つめてしまう。

ともだちにシェアしよう!