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第190話◇
「まあ今戻っても、絶対ぇ文句言われるな……」
面倒くさそうに玲央が言うので、笑ってしまう。
「あ、優月、夕飯どうしたい?」
「んー。玲央の好きでいいけど……なんかずーっと外食だよねー太りそう」
「いいぞ、お前もうちょっと太っても。もちもちしそう」
「…………絶対やだし。何もちもちって。……今の勇紀に言ってもいい?」
「は? 絶対ぇだめ、言うなよ。未来永劫、もちもち言われるから」
そんな風に玲央が言うのを見ながら、ぷ、と笑ってしまった瞬間。
「玲央」
涼やかな声が聞こえて。
声の方を見ると。
何だか、モデルさんみたいに、綺麗な子が立っていた。
……男の子?だよね?
と、迷う位、綺麗。
なんかオシャレだし。女の子て言われても、信じるかも。
「奏人? 何でここに居るンだ?」
玲央がそう言った。
「バンドの友達待ってたら、あそこの窓から玲央が見えたからさ。
――……ごめんね、邪魔しちゃって」
急に、オレに視線を向けて、彼は、にっこり笑った。
うわー……。
――――……ほんと綺麗。
「あ、ううん。大丈夫……」
そう返すと、奏人と呼ばれた彼はまたにっこり綺麗に笑って。
今度は、玲央にまっすぐ向いた。
「玲央ちょっと話そうよ」
「――――……これから練習に戻るから、今度でいいか?」
玲央は、多分、断ろうと、してるのかな。とは思うけど。
「すこしでいいから」
彼がそう言って、玲央に近づいた。
「――――……優月」
玲央が、少しのため息交じりに、オレの名を呼んだ。
「うん?」
「その飲み物、あいつらに渡して、すぐ行くからって言っといてくれるか?」
「あ、うん。分かった」
玲央に頷いて見せて、オレは歩き出した。
「――――………」
……あの雰囲気って。
きっと、玲央とそういう関係の、人だよね。
玲央の相手の人、見るの、こないだの女の子に続いて、2人目か……。
……んー。どっちの人も。
めちゃくちゃキレイ。
なんだろう、なんか。
さっきまで、玲央の言葉に浮かれて、すごくウキウキしてたのだけど。
……少し冷静になったかも。
…………ちょっとブレーキ掛かったかな。
……そうだよね。
ああいう、「玲央好み」な人達が、
玲央の周りには、いっぱい、居るんだよね。
――――……玲央が、オレと居るって決めても……。
ていうか……オレなんかと居る、てなったら、
相手の人達、怒っちゃうんじゃないのかなあ?
うーん。
…………オレがさっきの子みたいに綺麗だったら、
他の人達も、諦めてくれるかもしれないけど……。
………………うーん。
なんか、何を考えればいいかすら、よく分かんなくなってきた。
気になるけど、一度も振り返らずに、
皆の居る建物に、入った。
階段を上って、さっきの部屋のドアを開ける。
「おっそいよ! 玲央! 何回練習させる気だよ!どーせまた……っと」
勇紀の気持ち良い位元気な文句が、帰ってきたのがオレだけな事に気付いた所で、ぴたっと止まった。
「あれ?? 優月だけ?」
「うん。玲央、知ってる人に会って話してる。すぐ行くって言ってたよ。飲み物渡しといてって言われたから」
言いながら3人の元に飲みものを届ける。
「あーそうなんだ。ごめんね、ありがとね」
勇紀が受け取ってくれて、2人にも渡してくれた。
甲斐と颯也にもお礼を言われて、「玲央が買ってくれたんだけどね」と笑ってると、甲斐がオレをまっすぐ見つめた。
「玲央は誰と会ったの? 優月も知ってる奴?」
普通に、優月と呼んでくれてる甲斐に視線を返した。
「知らないんだけど…… 玲央は、奏人って呼んでたよ」
勇紀と颯也も、ふ、とオレに視線を向ける。
「奏人? モデルみたいな奴?」
「うん」
勇紀に聞かれて頷くと、途端に苦笑い。
「ああ。捕まっちゃった訳ね…」
甲斐がそう言いながら、飲み物を口にしてる。
「玲央の事、大好きだもんな、あいつ」
勇紀もふ、と息をついた。
なるほどー。そうなんだ。
皆も、知ってる人なんだなー。
「……優月、なんか言われたか?」
颯也が、オレをまっすぐ見つめながら、そう聞いてくる。
ん? ……何か? とは??
「何かって……? 邪魔してごめんねって言ってくれたけど」
3人が、少し眉を寄せた気がする。
勇紀がすぐ、オレの方に近付いてきて。
「……言ってくれたって……優月って……」
むぎゅ、と抱き締められて、ぽんぽん、と背を叩かれる。
「勇紀?」
「なんつーのかなー……悪い奴じゃないんだけどね。玲央の事が超大好きすぎなんだよね。玲央に対してはうざい事はしないから、玲央は切ってはないんだけど……」
「――――……」
「まあ、玲央が嫌がってるから、玲央には直接言わないけど、すげー玲央の事を大好きな奴は、結構居るからなー……とりあえず、優月は、そういうのには近寄らないのが一番」
ポンポンポン、と撫でられてると。
がちゃ、とドアが開いた。
勇紀に抱き付かれてるオレを見ると。
「……は? ――――……何してンの勇紀」
玲央は近づいてくると、オレを勇紀から引き離した。
腕を掴まれたまま引かれて、玲央の胸に寄りかかってしまった。
「つーか、玲央が優月一人にするから慰めてただけだっつの」
「――――……」
勇紀のそんな言葉を聞いて玲央がじっとオレを見てくるので、そんな事言ってない、という意味を込めて、首をぶるぶる振った。
「つかもともと、ジュース買いに行くだけで何分かかってんだよっ遅すぎだよ、玲央っ」
続けてぶーぶー言ってる勇紀を完全に無視して、玲央はオレをじっと見て。
「ごめんな、1人で行かせて。あんまりお前があいつと絡まない方がいいかと思って」
「つーか、聞け―!」
勇紀が苦笑いしながら怒り始めたのだけれど、ふ、と、玲央を見つめて。
「あ、そこらへん、分かってるんだ、玲央」
「そこらへんて?」
「優月と絡ませない方がいいとか」
「……分かるっつの」
玲央の手が不意に伸びてきて、よしよし、とオレを撫でた。
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