190 / 850

第190話◇

「まあ今戻っても、絶対ぇ文句言われるな……」  面倒くさそうに玲央が言うので、笑ってしまう。 「あ、優月、夕飯どうしたい?」 「んー。玲央の好きでいいけど……なんかずーっと外食だよねー太りそう」 「いいぞ、お前もうちょっと太っても。もちもちしそう」 「…………絶対やだし。何もちもちって。……今の勇紀に言ってもいい?」 「は? 絶対ぇだめ、言うなよ。未来永劫、もちもち言われるから」  そんな風に玲央が言うのを見ながら、ぷ、と笑ってしまった瞬間。 「玲央」  涼やかな声が聞こえて。  声の方を見ると。  何だか、モデルさんみたいに、綺麗な子が立っていた。  ……男の子?だよね?  と、迷う位、綺麗。  なんかオシャレだし。女の子て言われても、信じるかも。 「奏人? 何でここに居るンだ?」  玲央がそう言った。 「バンドの友達待ってたら、あそこの窓から玲央が見えたからさ。  ――……ごめんね、邪魔しちゃって」  急に、オレに視線を向けて、彼は、にっこり笑った。  うわー……。  ――――……ほんと綺麗。 「あ、ううん。大丈夫……」  そう返すと、奏人と呼ばれた彼はまたにっこり綺麗に笑って。  今度は、玲央にまっすぐ向いた。 「玲央ちょっと話そうよ」 「――――……これから練習に戻るから、今度でいいか?」  玲央は、多分、断ろうと、してるのかな。とは思うけど。    「すこしでいいから」  彼がそう言って、玲央に近づいた。 「――――……優月」  玲央が、少しのため息交じりに、オレの名を呼んだ。 「うん?」 「その飲み物、あいつらに渡して、すぐ行くからって言っといてくれるか?」 「あ、うん。分かった」  玲央に頷いて見せて、オレは歩き出した。 「――――………」  ……あの雰囲気って。  きっと、玲央とそういう関係の、人だよね。  玲央の相手の人、見るの、こないだの女の子に続いて、2人目か……。  ……んー。どっちの人も。  めちゃくちゃキレイ。  なんだろう、なんか。  さっきまで、玲央の言葉に浮かれて、すごくウキウキしてたのだけど。  ……少し冷静になったかも。  …………ちょっとブレーキ掛かったかな。  ……そうだよね。  ああいう、「玲央好み」な人達が、  玲央の周りには、いっぱい、居るんだよね。  ――――……玲央が、オレと居るって決めても……。  ていうか……オレなんかと居る、てなったら、  相手の人達、怒っちゃうんじゃないのかなあ?  うーん。  …………オレがさっきの子みたいに綺麗だったら、  他の人達も、諦めてくれるかもしれないけど……。  ………………うーん。  なんか、何を考えればいいかすら、よく分かんなくなってきた。  気になるけど、一度も振り返らずに、  皆の居る建物に、入った。  階段を上って、さっきの部屋のドアを開ける。 「おっそいよ! 玲央! 何回練習させる気だよ!どーせまた……っと」  勇紀の気持ち良い位元気な文句が、帰ってきたのがオレだけな事に気付いた所で、ぴたっと止まった。 「あれ?? 優月だけ?」 「うん。玲央、知ってる人に会って話してる。すぐ行くって言ってたよ。飲み物渡しといてって言われたから」  言いながら3人の元に飲みものを届ける。 「あーそうなんだ。ごめんね、ありがとね」  勇紀が受け取ってくれて、2人にも渡してくれた。  甲斐と颯也にもお礼を言われて、「玲央が買ってくれたんだけどね」と笑ってると、甲斐がオレをまっすぐ見つめた。 「玲央は誰と会ったの? 優月も知ってる奴?」  普通に、優月と呼んでくれてる甲斐に視線を返した。 「知らないんだけど…… 玲央は、奏人って呼んでたよ」  勇紀と颯也も、ふ、とオレに視線を向ける。 「奏人? モデルみたいな奴?」 「うん」  勇紀に聞かれて頷くと、途端に苦笑い。 「ああ。捕まっちゃった訳ね…」  甲斐がそう言いながら、飲み物を口にしてる。 「玲央の事、大好きだもんな、あいつ」  勇紀もふ、と息をついた。  なるほどー。そうなんだ。  皆も、知ってる人なんだなー。 「……優月、なんか言われたか?」  颯也が、オレをまっすぐ見つめながら、そう聞いてくる。  ん? ……何か? とは?? 「何かって……? 邪魔してごめんねって言ってくれたけど」  3人が、少し眉を寄せた気がする。  勇紀がすぐ、オレの方に近付いてきて。 「……言ってくれたって……優月って……」  むぎゅ、と抱き締められて、ぽんぽん、と背を叩かれる。 「勇紀?」 「なんつーのかなー……悪い奴じゃないんだけどね。玲央の事が超大好きすぎなんだよね。玲央に対してはうざい事はしないから、玲央は切ってはないんだけど……」 「――――……」 「まあ、玲央が嫌がってるから、玲央には直接言わないけど、すげー玲央の事を大好きな奴は、結構居るからなー……とりあえず、優月は、そういうのには近寄らないのが一番」  ポンポンポン、と撫でられてると。  がちゃ、とドアが開いた。  勇紀に抱き付かれてるオレを見ると。 「……は? ――――……何してンの勇紀」  玲央は近づいてくると、オレを勇紀から引き離した。  腕を掴まれたまま引かれて、玲央の胸に寄りかかってしまった。 「つーか、玲央が優月一人にするから慰めてただけだっつの」 「――――……」  勇紀のそんな言葉を聞いて玲央がじっとオレを見てくるので、そんな事言ってない、という意味を込めて、首をぶるぶる振った。 「つかもともと、ジュース買いに行くだけで何分かかってんだよっ遅すぎだよ、玲央っ」  続けてぶーぶー言ってる勇紀を完全に無視して、玲央はオレをじっと見て。 「ごめんな、1人で行かせて。あんまりお前があいつと絡まない方がいいかと思って」 「つーか、聞け―!」  勇紀が苦笑いしながら怒り始めたのだけれど、ふ、と、玲央を見つめて。 「あ、そこらへん、分かってるんだ、玲央」 「そこらへんて?」 「優月と絡ませない方がいいとか」 「……分かるっつの」  玲央の手が不意に伸びてきて、よしよし、とオレを撫でた。

ともだちにシェアしよう!